佐々木味津三 『右門捕物帖』 「バカ者どもめがッ。おおかたこう来るだろう…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』

現代語化

「バカ者どもめがッ。だいたいこう来るだろうと思って、わざと引き揚げるように見せかけたんだッ。さ! こっちの梅丸でもいい。またはそっちの百面相でもいい! ほんもののむっつり右門にかかっちゃ、お前たちの下司の知恵くらいでは、とても太刀打ちできないんだから、さっさと白状しねえか」
「――まことに恐れ入りました。お見立て通り、親方を殺した犯人は、いかにも、この梅丸でございます。と申し上げましただけではさぞかしご不信でしょうが、実のところを申しますと、それもこれもみんな女の浅ましい嫉みからです。もともと申しますれば、私のほうがずっと前から、この娘一座では姉分でもございましたし、いくらか余計人気もいただいておりましたのに、あの桜丸様が私同様、竹棒渡りをいたしますようになりましてから、日に日に人気負けいたしましたゆえ、そのことを親方様に申し上げて、明日から役替えしていただくようにお願いしましたところ、一向にお聞き入れくださりませんでしたので、つい争っているうちに、逆上しまして、ちょうど目の前に親方様の短刀があったのを幸い、殺そうとも思わないで殺してしまいましたのです」
「よし、わかった、わかった。それから先は、俺がいちいち説明してやろうか。その時親方が、お前の衣装の裾を苦しまぎれに食い切ったところへ、物音を聞いて桜丸がやって来そうだったゆえ、お前が灯を吹き消したんだろうがな」
「はい、おっしゃるとおりでございます。それゆえ、私が――」
「いや、言わなくてもわかってるよ、わかってるよ。それゆえ、お前がどこか部屋の隅でもうずくまって隠れているところへ、桜丸が知らずに駆け込んだので、親方がお前と思いつめて、臨終の前に桜丸の袖を食い千切ったんじゃねえのかい」
「はい。ですから、これ幸いと存じまして、騒ぎに紛れてそっと部屋を抜け出し、鶴丈さんの百面相をまんまと使い、桜丸様を罪におとしれようとしたのでございましたが、やっぱり……」
「ほんもののむっつり右門ほどには、化けられなかったというのかい。当たり前だよ。また、やすやす化けられたら、こっちがたまらねえからな。ところで、気になるなあその桜丸だが、こりゃ百面相ッ、どこへしょっぴいていったんだッ」
「それはその……」
「ね。旦那、旦那! だれが何を急いでいるのか、御用提灯をつけた早駕籠が、こっちへ飛んでまいりましたぜ!」
「ご番所の方でしょうか。それとも、どこぞ自身番の方でしょうか」
「あッ。右門の旦那様でしたか! 私(わたくし)は吾妻河岸の自身番を預かっております町役人でございますが、こちらの芸人だという妙な娘を1人拾いましたのでな。何はともかく、取り急ぎこの見せ物小屋へ駆けつけてきたのでございますが、ちっと話が変でございますぞ」
「よし、わかった、わかった。名を桜丸といやしねえか」
「はい。よくご存じでございますが、でも、妙なことがございますぞ。娘が申したところによると、あなた様がこの小屋からお連れ出しなさりまして、吾妻河岸からやにわと大川へ突き落としたと申しておりますぞ」
「そうかい。右門は右門だが、むっつり右門じゃねえ、ここにいるこの化け右門だよ。でも、突き落とされたのによく助かったな、だれか船頭でも拾ってくれたのかい」
「はい。なにしろ、手も足も縛られたまま、おっぽり込まれたんで、危うく溺れようとしたところを、うまいこと荷足船が通り合わせて、拾いあげてくれたんですよ」

原文 (会話文抽出)

「バカ者どもめがッ。おおかたこう来るだろうと思うて、わざと引き揚げるように見せかけたんだッ。さ! こっちの梅丸でもいい。またはそっちの百面相でもいい! ほんもののむっつり右門にかかっちゃ、おめえたちの下司の知恵ぐれえで、とてもたち打ちできねえんだから、すっぱりどろを吐いてしまいねえな」
「――まことに恐れ入りました。おめがねどおり、親方を殺した下手人は、いかにも、この梅丸でござります。と申しあげただけではさぞかしご不審でござりましょうが、実のところを申しますると、それもこれもみんな女のあさましいねたみからでござりました。もともとを申しますれば、わたしのほうがずっとまえから、この娘一座では姉分でもござりましたし、いくらかよけい人気もいただいておりましたのに、あの桜丸様がわたくし同様、竹棒渡りをいたしますようになりましてから、日に日に人気負けがいたしましたゆえ、そのことを親方さまに申しあげて、あすから役替えしていただくようにお願い申しましたところ、いっこうお聞き入れくださりませなんだゆえ、ついいさかいしているうちに、逆上いたしまして、ちょうど目の前に親方さまの匕首があったのをさいわい、あやめるともなくあやめてしまいましたのでござります」
「よし、わかった、わかった。それから先は、おれがいちいちずぼしをさしてやろうか。そのとき親方が、おめえの衣装のすそを苦しまぎれに食い切ったところへ、物音をきいて桜丸がやって来そうだったゆえ、おまえが灯を吹っ消したんだろうがな」
「はい、おっしゃるとおりでござります。それゆえ、わたしが――」
「いや、言わいでもわかっているよ、わかっているよ。それゆえ、おまえがどこかへやのすみにでもうずくまって隠れているところへ、桜丸が知らずに駆け込んだので、親方がおまえと思いつめて、断末魔の前に桜丸のそでを食いちぎったんじゃねえのかい」
「はい。ですから、これさいわいと存じまして、騒ぎに紛れこっそりとへやを抜け出しまして、鶴丈さんの百面相をまんまと使い、桜丸様を罪におとしいれようとしたのでござりましたが、やっぱり……」
「ほんもののむっつり右門ほどには、化けきれなかったというのかい。あたりめえだよ。また、やすやす化けられちゃ、こっちがたまらねえからな。ところで、気にかかるなあその桜丸だが、こりゃ百面相ッ、どこへしょっぴいていったんだッ」
「それはその……」
「ね。だんな、だんな! だれが何を急いでいるのか、御用ぢょうちんをつけた早駕籠が、こっちへ飛んでめえりましたぜ!」
「ご番所のかたでござるか。それとも、どこぞ自身番のかたでござるか」
「あッ。右門のだんなさまでござりましたか! てまえは吾妻河岸の自身番を預かっている町役人でござりまするが、こちらの芸人だという妙な娘をひとり拾いましたのでな。なにはともかく、取り急ぎこの見せ物小屋へ駆けつけてきたのでござりまするが、ちっと話が変でござりまするぞ」
「よし、わかった、わかった。名を桜丸といやしねえか」
「へえい。よくご存じでござりまするが、でも、妙なことがござりまするぞ。娘が申したところによると、あなたさまがこの小屋からお連れ出しなさりまして、吾妻河岸からやにわと大川へ突き落としたと申してござりまするぞ」
「そうかい。右門は右門だが、むっつり右門じゃねえ、ここにいるこの化け右門だよ。でも、突き落とされたのによく助かったな、だれか船頭でも拾ってくれたのかい」
「へえい。なにしろ、高手小手にくくされたまま、おっぽり込まれたんで、危うくおぼれようとしたところを、うまいこと荷足船が通り合わせて、拾いあげてくれたんですよ」


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