GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』
現代語化
「はい、番頭代わりと楽屋番をしておりますおやじめでございます」
「じゃ、この事件の前後のことも知っているだろうが、この親方が殺された時はどんな様子だったんだ」
「消えたのか、わざと消したのか、部屋の明かりが消えた時に、ガタガタと激しい物音がして、すぐにキャッと悲鳴が聞こえたんです。それで、皆が怖がって集まってきて、この入り口から明かりを入れてそっと覗いてみると、親方様がこんな姿になっていて、そばにその手裏剣打ちの姉が袖を食い千切られて、ガタガタ震えていたんです」
「その時、この部屋の中に入った者はいたか」
「いいえ、誰も入りませんでした。なにしろ、怖くてみんなここら辺から震えながら覗いただけなんです」
「その後もずっと、この部屋に一座の者は入らなかったか」
「はい。なにしろ、娘や子どもの多い一座ですので、皆もう血の気を失って、まだ誰も近寄りたくないほど怖がっていますので、せめて明かりだけでもつけないとさらに怖いだろうと、私がその行灯を点けに入っただけです。それから、もう一人、さっき犯人を捕まえに来た八丁堀のむっつり右門様とかおっしゃる方が、一人だけ入りました」
「ほうほう、むっつり右門がたった一人で来たのか。あいつのそばには、おしゃべり屋の愛想者が今までしょっちゅうくっついていたはずだが、それを置き忘れてくるとは、むっつり右門も近頃ずいぶんと老いたものだな。よしよし、もう十分だ。あまりそこからのぞかないほうがいいぞ」
「お前さんの姉は、軽業一座で何をしていたんだ」
「つい最近から始めたばかりですが、竹棒渡りをしていました」
「なんだ、竹棒渡りか! たしか、あの軽業をする者は、竹が滑らないように、足のうらに石灰か磨き砂を塗っておくはずだが、この一座では何を使っているんだ」
「石灰でした」
「ほうほう、そうか。道理でな。ならば、お前さんの姉のほかに、この一座には、確かにもう一人竹棒渡りをする者がいるはずだが、どうだ。いるか、いないか」
「はっ、おりますおります! 梅丸様とおっしゃるかたと、竹丸様とおっしゃるかたと、お二人ほかに竹棒渡りがおります」
「なんだ、二人か! どちらも娘か」
「はい。お二人に私の姉を加えた3人が、実はこの娘軽業師一座の看板です」
「なるほどね。では、少し立ち入ったことを尋ねるが、きょうだいなら見逃せないこともあるだろう。お前さんの姉は何文くらいの足袋を履いていたか知らないか」
「知っております、よく知っております。私と同じ8文7分でしたので、時々、2人で1つの足袋を交互に履いたことさえありました」
原文 (会話文抽出)
「そちらはこの座で何をいたしおる者じゃ」
「へえい、番頭代わりかたがた楽屋番をいたしおるおやじめでござります」
「では、このできごとの前後のもようなども存じおるであろうが、これなる親方があやめられたときは、どんな様子じゃった」
「倒れて消えましたものか、わざと吹き消しましたものか、へやのあかりが消えますといっしょに、どたばたとけたたましい物音がござりまして、まもなくキャッという悲鳴がござりましたゆえ、みんなしてこわごわやって参り、ここの入り口からあかりをさし入れまして、そっとのぞきましたら、親方さまがかようなお姿となられまして、そばにその手裏剣打ちの姉めがそでを食いちぎられて、がたがたと震えていたのでござります」
「そのおり、だれぞこのへやの中まではいりおったか」
「いいえ、だれもはいった者はござりませぬ。なにしろ、こわい一方で、みんなここのところから、震えふるえのぞいたばかりでござります」
「その後もずっと、このへやへ座方の者ではいった者はなかったか」
「へえい。なにしろ、娘子どもの多い一座でございますゆえ、みんなもう血のけを失って、いまだにだれもそばへ寄りつく者がないくらい、こわがってでござりましたゆえ、せめてあかりなとつけなくてはなおこわかろうと、てまえがそのあんどんをともしに、はいったばかりでござります。それから、いまひとり、先ほど下手人めをお引き立てに参りました八丁堀のむっつり右門様とやらおっしゃるおかたが、おひとかたはいっただけでござります」
「ほほう、むっつり右門がたったひとりで参ったとな。あやつのそばには、おしゃべり屋のあいきょう者が今までしょっちゅうくっついていたはずじゃが、それを置き忘れてくるとは、むっつり右門も近ごろちっともうろくしたようじゃな。よしよし、もうたくさんじゃ。あまりそこからのぞかないほうがよろしいぞ」
「そなたの姉は、かるわざ一座で何をいたしおった」
「ついこのほどで始めたばかりでござりまするが、竹棒渡りをしてでござりました」
「なにッ、竹棒渡りとな! たしか、あのかるわざをやる者は、竹がすべらぬように、たびの裏へ石灰かみがき砂を塗っておくはずじゃが、この一座では何をつかいおるか」
「石灰でござりました」
「ほほう、さようか。道理でのう。ならば、そなたの姉のほかに、まだこの一座では、察するところ、たしかにほかにも竹棒渡りをする者があるはずじゃが、どうじゃ。いるか、いないか」
「はっ、ござりますござります! 梅丸様とおっしゃるかたと、竹丸様とおっしゃるかたと、おふたりほかに竹棒渡りがござります」
「なにッ、ふたりとな! いずれも娘どもか」
「はい。おふたりさまにわたしの姉を加えて三人が、実はこの娘かるわざ師一座の看板でござります」
「なるほどのう。では、少し立ち入ったことをあい尋ぬるが、きょうだいならば気のつかぬはずもあるまい。そなたの姉は、何文ぐらいのたびをおはきじゃったか存ぜぬか」
「存じてござります、よく存じてござります。わたしと同じ八文七分でござりましたゆえ、どうかすると、ふたりして一つたびをかわるがわるはき合うたことさえもござりました」