佐々木味津三 『右門捕物帖』 「江戸八百八町がごひいきのむっつり右門じゃ…

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青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』

現代語化

「江戸八百八町が贔屓にするむっつり右門じゃねえか。退職願いを出すのは敬四郎の方だよ」
「じゃあ、どういうことなんですか、旦那はまだ勝つつもりなんですか?」
「バカなこと言うなよ。それじゃあ、お前は俺が負けると思ってるのか?」
「だって、そう思うしか仕方ねえじゃないですか。秀の浦の死体のそばに江戸錦の持ち物の印籠が落ちてたって言うんだから、誰でももう逃げるしかないってなるでしょ」
「あきれたな。じゃあ、お前は江戸錦が2人いると思ってるのか?」
「ちぇ、バカにするなよ!そんなこと、1人に決まってるじゃねえか」
「そうだろう?それなら、お前もちょっと考えてみろよ。江戸錦が殺した殺したって言うけど、その江戸錦はあの相撲が終わってからずっと今まで、敬四郎の野郎がそばにくっついて監視してるはずじゃねえのか?」
「な、なるほどね。確かにその通りだわ。あばたの野郎自身も、確かそう言ってましたっけね。いくら江戸錦を締め上げても因縁の詳しいことを白状しねえので、四ツ谷見附まで捕まえて連れてったら、秀の浦の死骸に出くわしたって、確かにハッキリ言ってましたっけね」
「そうだろ、にもかかわらず、あばたの大将ときちゃ、自分で本人の監視をしていたことをすっかり忘れてるんだからね。そんなでくの棒のくせに、折り紙つきのこの右門と張り合おうなんて大間違いだよ」
「違うねえ、違うねえ、そのセリフを聞いて、すっかりスッキリしました。じゃあ、どういうことですか、誰かに他の犯人がいて、その奴が江戸錦に罪をきせるために印籠のことをでっち上げたってことですか?」
「当たり前だよ。だから、お城へサッと行ってこいって言ってるんだよ」
「ま、待って下さい。行くのはいいけど、お城にその肝心の下手人がいるって言うんですか?」
「聞くまでもねえことだよ。俺の目玉が安物じゃねえってことの証拠を今見せてやるから驚くんだな。犯人は女だぜ」

原文 (会話文抽出)

「江戸八百八町がごひいきのむっつり右門じゃねえか。退職願いを出すなあ敬四郎のほうだよ」
「じゃ、なんですかい、だんなはまだ勝つつもりでいらっしゃるんですかい」
「おかしなことをいうね。するてえと、なにかい、おまえこそおれが負けるとでも思っているのかい」
「だって、そう思うよりほかにしかたがねえじゃござんせんか。秀の浦の死骸のそばに江戸錦の持ち物の印籠がおっこちていたっていやあ、だれだってもうしっぽを巻くよりほかにしかたがねえんだからねえ」
「あきれたもんだな。じゃ、おまえにきくが、おまえはいったい江戸錦がふたりいると思っているのかい」
「ちぇッ、バカにしなさんな! そんなこと、ひとりにきまってるじゃござんせんか」
「そうだろ。だとしたら、おまえももうちっとりこうになってみねえな。江戸錦が殺した殺したというが、その江戸錦ゃああの相撲が終わるからずっと今まで、敬四郎の野郎がそばにくっついて番をしているはずじゃねえのかい」
「な、なるほどね。大きにそれにちげえねえや。あばたの野郎自身も、たしかにそういいましたっけね。いくら江戸錦を締めあげても遺恨の子細を白状しねえので、四ツ谷見付までしょっぴいていったら、秀の浦の死骸にぶっつかったとは、たしかにはっきりいいましたっけね」
「そうだろ、にもかかわらず、あばたの大将ときちゃ、てめえで本人の張り番をしていたことをすっかり忘れちまっているんだからね。そんなでくの棒のくせに、折り紙つきのこの右門と張り合おうというのは大違いだよ」
「ちげえねえ、ちげえねえ、そのせりふを聞いて、すっかり溜飲が下がりやした。じゃ、なんですね、だれかほかに下手人があって、そやつが江戸錦に罪をきせるため印籠の細工をしたというんですね」
「あたりめえさ。だから、お城へひとっ走り行ってこいといってるんだよ」
「まあま、待ってください。行くはいいが、お城にその肝心の下手人がいるとでもいうんですかい」
「聞くまでもねえこったよ。おれの目玉が安物でねえ証拠をいま見せてやるから驚くな。下手人は女だぜ」


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