佐々木味津三 『右門捕物帖』 「もうこっちのものだよ。おれがお出ましにな…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』

現代語化

「もうこっちのもんだよ。おいらが出たからには、こうしてみんな手出しできないんだから、楽勝でしょ」
「でも、松の木が塀際に生えてる白壁の屋敷ってだけで、まだ手がかりねーじゃねえッスか」
「だから、お前はずっとガキなんだって。まず第一に、この松の木の匂いを嗅いでみろよ」
「嗅いだって、松ヤニの匂いがちょっとキツいだけじゃねえッスか」
「バカだなー。犯人の着物が松ヤニの匂いしてたってのをもう忘れちまったのかよ」
「そっか、そっか。すると、犯人の着物がビッショビショだったってのは、大川を泳いで来たってことなんだな」
「その通り。昨日支倉屋で買った地図を調べた時に、犯人は大川の向こうにアジトがあるんじゃないかと気づいてたんだ。あの2つの見回り道筋を結んでみると、全部この大川の端で終わってたからな。そしたら犯人の着物が濡れてたって聞いたから、絶対川向こうだと確信したんだ。さらに松ヤニの匂いがしてたんでしょ。それで、川下から松の木のある家を捜してきたってわけさ」
「でも、ちょっと変じゃねえッスか。こんなにデカい屋敷じゃなかったけど、松の木のある家は今まで舟からいくらでも見ましたよ」
「それがおいらの自慢するところなんだよ。よく考えろよ。松ヤニの匂いが着物にしみついてたってこと、犯人が松の木を上り下りした証拠だろ。そしたら、どこの家だって門も出入り口もあるんだから、わざわざ松の木なんかに上り下りする必要ねえはずなんだよ。そこが不思議に思えるってことは、犯人は堂々と門に出入りできない怪しい奴か、屋敷の召使いか、いずれにしても普通に門から出入りできない奴だってわかるだろう。そこまでわかってれば、松の木はいくらあっても、小さい家は無視して、大きな屋敷を目当てに捜して来ればすぐわかるだろ」
「なるほどね。でも、なんで河岸沿いだけを捜したんですか? 少し勘違いじゃねえッスか。本所深川を捜せば、もっと奥にも塀際に松の木のある屋敷はいくらでもあるだろって」
「よくわかってるじゃねえか。もし河岸の奥に犯人のアジトがあったら、ビッショ濡れで夜中にウロウロしてたら、見回りも怪しんで騒ぐに決まってんだ。でも、そんな奴がウロウロしたって訴えが、奥から一切番所に入ってねえってことは、河岸沿いにアジトがあるから誰も見つけられねえんだってわかるだろ。何よりの証拠は、この白壁にべったりついてる足跡を見ろよ」
「え、ど、どこですか」
「ほら、ここここって。足のカタチをした泥の跡がしっかりついてるだろ。で、松の木の枝の真下に足跡がついてるから、ここを足場にして上り下りしたに決まってんだ」
「なるほどね。すげえ勘違いだな。じゃ、すぐに突入しましょ」
「まあ、急ぐなよ。なんせ、敬公って人質を取られてる上に、そもそもこのデカい屋敷が何なのかわからねえんだからな。徐々に明らかにしてやるから、ゆっくり待ってろよ」

原文 (会話文抽出)

「もうこっちのものだよ。おれがお出ましになったとなると、このとおりぞうさがねえんだから、たわいがねえじゃないか」
「だって、こりゃ、松の木がへいぎわにはえている白壁のお屋敷というだけのことで、なにもまだ目鼻はつかねえんじゃござんせんか」
「だから、おめえはいつまでたってもあいきょう者だっていうんだよ。まず第一に、この松の木の強いにおいをかいでみねえな」
「かいでみたって、松やにのにおいが少しよけいにするだけのことで、なにも珍しかねえじゃござんせんか」
「あきれたものだな、下手人の野郎の着物に松やにのにおいがしていたってことを、もうおまえは忘れちまったのかい」
「いかさまな、ちげえねえ、ちげえねえ。するていと、下手人の野郎の着物が、水びたしにぐっしょりぬれたっていうな、この大川を泳ぎ越えてきたからなんだね」
「そうさ。きのう支倉屋で買った絵図面を調べたときに、おそらく下手人の野郎は、大川の向こうに根城を構えていやあしねえかなと気がついていたよ。あの二筋の自身番も番太小屋もねえ道筋へ線を引いてたどってみると、不思議にどれもこれもその道の先がこの大川端で止まっていたんだからな。ところへ野郎の着物が水びたしになっていたと、もっけもねえことを聞いたんで、てっきり川向こうだと確信がついたわけさ。そのうえ、松やにのにおいがしみついていたといったろう。だから、こうして川下から松の木のある家を捜してきたというわけさ」
「でも、ちょっと変じゃござんせんか。こんな大きなお屋敷でこそはなかったが、松の木のある家や、今までだってもずいぶん舟の中から見たようでしたぜ」
「それがおれの眼力のちっとばかり自慢していいところさ。まあ、よく考えてみねえな。松やにのにおいが着物にしみついていたといや、野郎が松の木を上り下りした証拠だよ。としたら、どこの家にだって、門もあろうし出入り口もあるんだから、なぜまたわざわざご苦労さまに松の木なんぞを上り下りしなきゃならねえだろうかってことが、不思議に考えられそうなものじゃねえか。そこが不思議に考えられてくりゃ、野郎め、大ぴらに大手をふって門の出入りができねえうしろ暗い身分の者か、さもなくばお屋敷奉公でもしている下男か下働きか、いずれにしても、門を自由に大手をふっては出入りのできねえ野郎だってことが、だれにだっても考えられるんだからな。そこまで眼がついてくりゃ、よしんば松の木はいくらあったにしても、ちっちぇい家には目もくれねえで、大きな屋敷をめどに捜してきたってことがわかりそうなものじゃねえか」
「いかにもね。だが、それにしても、河岸っぷちだけに見当をつけて上ってきたなあ、少しだんなの勘違いじゃござんせんかい。本所深川を捜していたら、もっと奥にだって、へいぎわに松の木のあるお屋敷がいくらでもあるにちげえねえんだからね」
「いろいろとよく根掘り葉掘り聞くやつだな。もし、河岸の奥に野郎の住み家があったら、水びたしになったうろんなかっこうで夜ふけに通るんだもの、火の番だっても怪しく思って騒ぎたてるに決まっているじゃねえか。しかるにもかかわらず、いっこう、そんなやつの徘徊した訴えが、この奥のどこからもご番所へ届いていねえところをみると、河岸っぷちに住み家があるため、だれにも見とがめられねえんだってことが見当つくじゃねえか。だいいち、何よりの証拠は、この白壁へべたべたとついている足跡をよく見ろよ」
「えッ、ど、どこですか」
「ほら、こことここと、足のかっこうをしたどろの跡が、ちゃんとついているじゃねえか。しかも、松の木の枝の出ている真下に足跡がついているんだから、ここを足場にしやがって、上り下りしたにちげえねえよ」
「なるほどね。おっそろしい眼力だな。じゃ、すぐに踏ん込みましょうよ」
「まあ、そうせくなよ。なにしろ、敬公という人質を取られているうえに、そもそもこのでけえ屋敷なるものが、なにものともわからねえんだからな。細工は粒々、右門様の眼力のすごいところと、捕物さばきのあざやかなところをゆっくり見せてやるから、急がずについておいでよ」


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