GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 菊池寛 『船医の立場』
現代語化
「いや、お前は疑いすぎだ」
「お前はあいつらを見てないから、そんなこと言うんだ。あいつらの目は、海外の知識を得たいって熱心さで、血みたいに燃えてる。あれは、決してスパイの目じゃない。あいつらの服は濡れて、あいつらの手には、無数の水ぶくれができてる。それはあいつらが、ひそかに船に近づこうとして、どんな苦労をしたかを物語ってる。もしも、あいつらが日本政府のスパイだったら、あいつらはもっと簡単に俺たちのところに来てただろう。その上、あいつらは船に乗り移る時に、あいつらにとって命よりも大切な刀を捨ててる。あいつらは海外に渡航するために、命さえ投げ出そうとしてる……」
「しかし、ゲビス君!」
「私も、あいつらの希望を叶えてあげたいって気持ちでは、君と変わらない。でも、私は横浜で、アメリカと日本の間の条約を結んだ。その私は、私情で日本の法律に背く日本人を助けることはできない。でも、私は願ってる、知識を渇望してる日本の若者が自由にアメリカに来られる日が、すぐ来ることを。そして今この二人の若者に対する庇護を拒むことは、かえってそういう未来が近づくのを早めるきっかけになるんじゃないかって思うよ」
「閣下、あなたの言葉は私を納得させます。でも、公明正大な好奇心でアメリカに渡航しようとするこのかわいそうな青年の身の上を考えてやってください。俺たちが彼らを拒否することは、彼らを死刑台にまで追い込むことを意味するんです。俺たちが彼らを陸に追い出せば、彼らはすぐに政府の役人に捕まるでしょう。そしたら、日本の厳しい法律は、彼らの首を身体から切り離すでしょう。俺たちアメリカ人の渡航によって好奇心を持ち、俺たちの国を慕うものを、俺たちの手で死刑台の上に乗せさせることは、アメリカ合衆国の恥じゃないですか。俺たちの大統領が、俺たちを日本に送った理由は、形式的な条約を結ぶためじゃないはずです。この島の中でむなしく眠ってるかわいそうな国民を、精神的に呼び起こすためじゃないんですか。しかし、今俺たちが呼びかけたことに最初に応えたこのかわいそうな先駆者、国民みんなのの触覚とも言える聡明な若い青年の願いに、耳をふさぐことは、俺たちが持ってる真の使命に対する裏切りじゃないでしょうか。2人の若者を、日本政府の役人の目から隠して、日本政府の感情を傷つけずに本国に送るのは、もしそれをやろうと思えば、すごく簡単なんです。私は、提督がアメリカ建国以来の精神である正義と人道の名において、この若者の希望を聞いてやってくれることを切望します」
原文 (会話文抽出)
「あなたは、物事を表面だけで解釈してはならない。彼らの申し分はよい。我々の同情を得るに十分だ。が、しかし彼らが、申し分以外の卑劣な動機で動いているかも知れないということを、我々は一応考えてみる必要がある。日本人との短日月の交渉によっても、彼らがどんなに怜悧であるかということがわかった。しかも悪賢いといってもよいほど、怜悧であることがわかった。私は、先日の手紙を見た時から、こんな疑いを起した。あの青年二人は、日本政府の間者ではないかと考えた。あんな立派な文章を書く日本青年が、日本政府によって重用されていないわけはないと思う。彼らは日本政府の役人に違いない。見ずぼらしい青年に扮して、我々を試さんとして来たのである。日本の法律は、日本人の海外へ渡航するのを禁じている。我々は、そのことを横浜に停泊していた頃、林大学頭からきいて知っている。従って、我々はこの法律を順守して、日本人の海外渡航を扶助すべきではない。思うに、かの二人の青年は、日本政府に忠実であるかどうかを試さんとして、送られたる間者である。もし、我々が彼らの志望を許したならば、ただちに日本政府から抗議が来るだろう。そして、我々は、日本政府に不忠実なるものとして、折角平和のうちに得た通商の許可も取り消されないとも限らない」
「いや、貴下は疑い過ぎる」
「貴下は、あの青年たちを見ないから、そんなことをいわれるのだ。彼の青年たちの目は、海外の知識を得ようとする熱心さで、血のように燃えている。それは、決して間者の瞳ではない。彼らの衣類は濡れ、彼らの手指には、無数の水泡を生じている。それは彼らが、潜かに本船に近づかんとして、どんな犠牲を払ったかを語っている。もしも、彼らが日本政府の間者であったならば、彼らはもっと容易に我々のところへ来たに違いない。その上、彼らは本船へ乗り移るときに、彼らにとって生命よりも大切な大小を捨てている。彼らは海外へ渡航するために、生命をさえ払おうとしている……」
「しかし、ゲビス君!」
「私も、あの青年たちの希望を遂げさせたいという感情においては、君と異らない。が、しかし私は横浜において、合衆国の国家と日本の国家との間の条約を結んだ。その私は、私情をもって、日本の法律に背こうとする日本人を扶けることはできない。が、私は望む、知識に渇えている日本の青年が自由にわが国に到来する日が、間もなく来ることを。そして現在この二人の青年に対する庇護を拒むことは、かえってそういう未来の近づくのを早めるゆえんではないかと思う」
「閣下、貴下の言葉は私を首肯させる。が、しかし公明正大な好奇心によってわが国へ渡航せんとするこの愛すべき青年の身の上を考えてやって下さい。われわれが彼らを拒絶することは、彼らを断頭台へまで追い上げることを意味している。われわれは、彼らを陸へ追いやれば、彼らはすぐ政府の役人によって捕縛されるだろう。そして、日本の峻厳な法律は、彼らの首を身体から斬り放つだろう。我々合衆国人の渡航によって好奇心を起し、我々の故国を慕うものを、われわれの手によって、断頭台の上へ追い登らせることは、アメリカ合衆国の恥ではないか。われわれの大統領が、われわれを日本へ送ったゆえんは、形式的な条約を結ぶためではない。孤島のうちに空しく眠っている可憐な国民を、精神的に呼びさますことではないか。しかるに、今われわれの喚問に最初に答えたこの愛すべき先覚者、国民全体の触覚ともいうべき聡明叡知なる青年の哀願に、聾いたる耳を向けるということは、われわれが帯びている真の使命に対する反逆ではなかろうか。二人の青年を、日本政府の役人の目から隠して、日本政府の感情を傷つくることなしに本国へ送ることは、もしそれをやろうと思いさえすれば、はなはだ容易なことである。私は、提督がわが国建国以来の精神たる正義と人道との名において、この青年の志望に耳をかさんことを切望するものである」