岡本綺堂 『半七捕物帳』 「丁度だれも来ていねえようです」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「誰もいないみたいっすね」
「で、オヤジさん。何か御用っすか」
「お此は最近どうしてるんだ」
「お此って……刺青者ですか」
「ああ。片門前で住んでた奴だ」
「女なのに草鞋履いて、甲府から郡内の方をブラブラして、それから厚木の方に流れて、去年の秋からまた江戸に戻って来てんだとか」
「えらく詳しいな。あの吹っ飛び熊じゃねえか」
「いや、大丈夫ですって。こっちも商売なんで、刺青者の動きなんか把握してます。あいつ、また何かやらかしたんですか」
「お此らしいんだ。今日午前中に、田町の両替屋で暴れたらしい」
「違いない。あいつだ、あいつだ。お此って奴は、前に一度同じ手口でやった事があるんだ。あいつ、最近鮫洲の茶屋に出入りしてるって噂だけど、田町の方まで乗り込んできたんすかね。こっちの縄張り付近に手ぇ伸ばして来たら、許さねえぞ。ねえ、オヤジさん。松の野郎を出し抜くつもりじゃねえけど、この件は俺に任せてくれや。絶対解決して見せっから」
「お此は鮫洲の茶屋にいるのか」
「その茶屋って坂井屋って言うんじゃねえすか」
「そこまでは分かってないけど……。ま、すぐ分かるっすよ」
「出し抜くも出し抜かねえもあるか。松はすでに鮫洲に出張ってんだ」
「それはマズい。下手に出張られると、こっちの仕事がやりにくくなる。じゃ、失敬します。俺もすぐに出かけます」

原文 (会話文抽出)

「丁度だれも来ていねえようです」
「そこで、親分。なにか御用ですか」
「お此はこのごろどうしている」
「お此……。入墨者ですか」
「そうだ。片門前に巣を食っていた奴だ」
「女のくせに草鞋をはきゃあがって、甲府から郡内の方をうろ付いて、それから相州の厚木の方へ流れ込んで、去年の秋頃から江戸辺へ舞い戻っていますよ」
「馬鹿にくわしいな。例の法螺熊じゃあねえか」
「いや、大丈夫ですよ。わっしだって商売だから、入墨者の出入りぐれえは心得ています。あいつ、又なにかやりましたか」
「どうもお此らしい。実はきょう午前に、田町の両替屋で悪さをしやあがった」
「ちげえねえ。あいつだ、あいつだ。お此という奴は、前にも一度その手を用いた事があります。あいつは此の頃、鮫洲の茶屋に出這入りしているとかいう噂だったが、田町の方へ乗り込んで来やあがったかな。おれの縄張り近所へ羽を伸して来やあがると、只は置かねえぞ。ねえ、親分。松の野郎を出し抜くわけじゃあねえが、この一件はどうぞわっしに任せておくんなせえ。わっしがきっと埒をあけて見せます」
「お此は鮫洲の茶屋にいるのか」
「その茶屋は坂井屋というのじゃあねえか」
「そこまでは突き留めていませんが……。なに、そりゃあすぐに判りますよ」
「出し抜くも出し抜かねえもねえ。松はもう鮫洲へ出張っているのだ」
「そりゃあいけねえ。下手に荒らされると、こっちの仕事が仕難くなる。じゃあ御免なせえ。わっしもすぐに出かけます」


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