岡本綺堂 『半七捕物帳』 「あの、だしぬけに失礼ですが、芝の方に何事…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「あの〜、唐突で失礼ですが、芝の方で何かあったんですか?」
「ええ」
「僕たちは特に関係があるわけじゃないんですが、通りかかって見たんですけど、どうも怪しい奴がいますね」
「怪しい奴…。一体どうしたんですか?」
「それはあなた」
「芝の田町に三島という両替屋があります。そこに20歳くらいの若い男が来て、小判1両を小粒と小銭に換えてくれって言ったので、店の者がお金を数えていると、そこにまた1人の女が来て、いきなりその若い男をつかまえて、『この野郎、また家の金を持ち出してどうするんだ!親泣かせ兄弟泣かせもいい加減にしろ!そんなに遊びたいなら、自分の腕で稼げ!親兄弟のお金を一文でも持ち出すことはならないぞ。さあ、その金返せ!』って若い男を引きずり倒して、手に持ってる小判を取り上げて、さっさと立ち去ってしまったんです。それを見てる両替屋の店員や通りがかった人たちも、これは世の中でよくあることで、遊び好きの息子が家の金を持ち出したのを、母親か叔母さんが追いかけてきて取り返していったんだろうと思って、誰もそのまま見ていると、倒れた男がいつまでも起きないので、不思議に思って引き起こすと、男は気を失っているらしいんです。さあ、大騒ぎになって介抱すると、男はようやく息を吹き返しましたが、よくよく聞いてみると、自分をつかまえて文句を言った女は全く知らない人間で、そんなことを言って1両の小判を奪って逃げたんだそうです。何だか遊び息子を叱りつけるようなことを言って、周囲の人を油断させて、昼間の大通りで平気で強盗を働くなんて、女のくせに実に大胆な奴じゃないですか?」
「なるほどひどい奴ですね」
「それにしても、相手が女だというのに、その若い男はどうして素直に金を渡したんでしょうね?」
「それがまた不思議なことには、その女が男を引きずり倒すときに、首筋あたりの急所を強くつかんだらしいんです。それで男は痛くて口が利けない。おまけにみぞおちに当て身をくらわされて、気を失ってしまったんだそうです。それが相当な早業で、見ている人たちも気がつかなかったって言うんですから、女もただ者じゃないって皆が噂してましたよ」
「そうですか。そんな女に出くわしちゃあ、大抵の男はかないませんね」
「その騒ぎで、両替屋の前はすごい人だかりで…」
「その店でも後で気づいたんですが、10日ほど前の夕方に外国のドルを両替に来た女がいるんです。それが今日の女らしくも思われるんですが、前に来たときは夕方で薄暗かったので、その顔をはっきりと覚えてないんですって」
「じゃあ頼むよ」
「お前はこれから坂井屋に行って、お糸って女のことを調べてくれ。それから伊之助って建具屋のこともよろしく頼むぜ。俺は芝の両替屋に行って、その女の素性を調べなきゃならない。外国のドルを持ってるってのが気になるからな」

原文 (会話文抽出)

「あの、だしぬけに失礼ですが、芝の方に何事があったのですかえ」
「ええ」
「わたし達は別に係り合いがあるわけじゃあない、通りがかって見ただけなんですが、どうも悪い奴がありますね」
「悪い奴……。一体どうしたのです」
「それがお前さん」
「芝の田町に三島という両替屋があります。そこへ二十歳ばかりの若い男が来て、小判一両を小粒と小銭に取り換えてくれと云うので、店の者が銭勘定をしていると、そこへ又ひとりの女が来て、いきなりに其の若い男をつかまえて、この野郎め、家の金を又持ち出してどうするのだ。親泣かせ兄弟泣かせもいい加減にしろ。それほど道楽がしたければ、自分の腕で稼ぐがいい。親兄弟の金を一文でも持ち出すことはならないぞ。さあ、その金をかえせと若い男を引き摺り倒して、手に持っている小判を取り上げて、さっさと立ち去ってしまいました。それを見ている両替屋の店の者も、通りがかりの人達も、これは世間によくあることで、道楽息子が家の金を持ち出したのを、おふくろか叔母さんが追っかけて来て、取り返して行ったのだろうと思って、誰もそのままに眺めていると、倒れた男はいつまでも起きないので、不思議に思って引き起こすと、男は気を失っているらしい。さあ、大騒ぎになって介抱すると、男はようよう息を吹き返したのですが、よくよく訊いてみると、自分をつかまえて文句を云った女は、まるで知らない人間で、そんなことを云って一両の小判を掻っさらって逃げたのだそうです。何か道楽息子を叱り付けるようなことを云って、そこらの人たちに油断させて、平気でまっ昼間、大通りの店さきで掻っ攫いを働くとは、女のくせに実に大胆な奴じゃあありませんか」
「成程ひどい奴ですね」
「それにしても、相手は女だというのに、その若い男がどうして素直に金を渡したのでしょうね」
「それが又不思議なことには、その女が男をひき摺り倒すときに、なんでも頸筋のあたりの脈所を強く掴んだらしいので、男は痛くって口が利けない。おまけに脾腹へ当て身を食わされて、気が遠くなってしまったのだそうです。それがなかなかの早業で、見ている人たちも気が付かなかったと云いますから、女も唯者ではあるまいとみんなが噂をしていましたよ」
「そうですか。そんな女に出逢っちゃあ、大抵の男は敵いませんね」
「その騒ぎで、両替屋の前は黒山のような人立ちで……」
「その店でも後で気が付いたのですが、十日ほど前の夕がたに外国のドルを両替えに来た女がある。それがきょうの女らしくも思われるが、前に来たときは夕方で薄暗かったので、その顔をはっきりと見覚えていないと云うのです」
「じゃあ頼むよ」
「おめえはこれから坂井屋へ行って、お糸という女のことを調べてくれ。それから伊之助という建具屋のことも宜しく頼むぜ。おれは芝の両替屋へ行って、その女の詮議をしなけりゃあならねえ。外国のドルを持っているというのが気になるからな」


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