岡本綺堂 『半七捕物帳』 「親分も清水山の一件をお調べになるんですか…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「親分も清水山の一件を調べてるんですか?」
「世間で大騒ぎだから、見過ごせないよ」
「実はさっき話さなかったんですが、池崎の屋敷の中間とは別に、こんなことがありました。これは私だけが知ってることなんですけど…。8月の中頃からでしょうか、変な男が時々髪を結いに来るんです。1人の時もあるし、2人で来る時もありましたが、たいていは1人でした。年頃は35〜36くらいで、色黒で骨太で、なんか目つきが鋭い男で、ほとんど口を利かず、いつも黙って髪を整えさせて、黙って金を置いて行くんです」
「それがどう変なんだ?」
「どうってこともないんですけど…。私は仕事柄、毎日いろんな人と会ってますけど、その男の様子がどうも変だったんです」
「その男は今でも来るのか?」
「それがまた変なんです。9月中旬過ぎ、山卯の若衆が清水山を見張りに出てから2〜3日後でした。その男がいつものようにふらっと入ってきて、私に髭を整えてもらってる時に、他の客が来て、山卯の若衆の噂を始めたんです。すると、その男は黙って聞いてたんですけど、やがてニヤニヤと不吉に笑って、半分は独り言みたいにつぶやいたんです。『そんなつまらないことはするもんじゃない。しまいには命に関わるようなことが起きる…』って。私はそれに相槌を打って、『確かにそうですね』と言いましたけど、その男は何も返事しませんでした。そしてそれっきり来なくなっちゃったんです」
「それっきり来ないのか?」
「それっきりで一度も顔を見せてません。ねえ、親分。なんか変じゃないですか?あいつはさっきも言った通り、色黒で骨太で、頑丈な奴でしたよ」
「そいつは2人で来たこともあるんだってね?」
「ありますよ」
「もう1人の男はちょっと若くて32〜33歳くらいかな?こっちはずっと小柄な男だった」
「職業の目星はつかないかね?」
「うーん」
「なんか江戸の人間じゃないですね。まあ、近所の農民とかですかね?」
「いやあ、ありがとう。良いことを教えてくれた。うまくいけば一杯おごってやるよ」
「恐縮です。こんな話が何かの役に立てば幸いです」

原文 (会話文抽出)

「親分も清水山の一件をお調べになるんですかえ」
「世間がそうぞうしいので、まんざら打っちゃっても置かれねえ」
「実はさっきお話をしませんでしたが、池崎の屋敷の中間のほかに、こんなことがありましたよ。これはわたしだけが知っていることなんですがね。なんでも八月の中頃からでしょうか、変な男がときどき髪を束ねに来るんです。ひとりで来る時もあり、二人づれで来る時もありましたが、まあ大抵はひとりで来ました。年頃は三十五六でしょうか、色の黒い、骨太の、なんだか眼付きのよくない男で、めったに口をきいたこともなく、いつも黙って頭をいじらせて、黙って銭をおいて行くんです」
「それがどう変なのだ」
「どうということもありませんが……。わたしも客商売で、毎日いろいろの人に逢っていますが、どうもその男の様子がなんだか変でしたよ」
「その男は今でも来るかえ」
「いや、それがまたおかしいんです。九月のなかば過ぎ、山卯の若い衆が清水山へ見とどけに出かけてから二、三日あとのことでした。その男がいつもの通りふらりとはいって来て、わたしに髭を当らせていると、そこへまたほかの客がはいって来て、山卯の若い衆の噂をはじめると、その男は黙って聞いていたが、やがてにやりと忌な笑い顔をして、半分はひとり言のように、そんな詰まらないことをするものじゃあない。しまいには身を損ねるようなことが出来する……と。わたしはそれに相槌を打って、まったくそうですねと云いましたが、その男はなんにも返事をしませんでした。そうして、それっきり来なくなってしまったんです」
「それっきり来ねえか」
「それっきり一度も顔をみせません。ねえ。親分。なんだか変じゃありませんか。そいつは今も云う通り、色の黒い、骨太の、頑丈な奴でしたよ」
「そいつは二人連れで来たこともあるんだね」
「ありますよ」
「もう一人の男は少し若い三十二三ぐらいの、これはずっと小作りの男でした」
「商売の見当はつかないかね」
「さあ」
「どうも江戸じゃありませんね。まあ近在のお百姓でしょうかね」
「いや、ありがとう。いいことを教えてくれた。うまく行けば一杯買うぜ」
「どうも恐れ入りました。こんな話が何かのお役に立てば結構です」


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