岡本綺堂 『半七捕物帳』 「今しがた家の若い者が来て、ひと通りお前さ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「今しがたウチの者が来て、お前を調べたみたいだから、同じこと何度も言わせたくない。で、俺が聞きたいのは、番頭の話だと、この家に小僧が2人いるみたいだけど、名前は?」
「利助と藤次郎です」
「用事があるなら呼んでこようか?」
「ちょっと待って。その利助と藤次郎はいくつだ?」
「どちらも同じ16歳です」
「どっちがおとなしい?」
「藤次郎のほうが素直でおとなしいです。利助はイタズラ者で、この夏も1度クビになりましたが、親が謝りに来て、また雇ってるんです」
「それから大工の勝次郎ってのはどんな奴だ?お前と一緒に清水山へ行くはずだったのが、途中でビビッちまったとかいう話だけど、あいつは博打とか打つか?」
「小遣い稼ぎ程度の博打は打つようです。家は竜閑町の駄菓子屋の裏ですが、近所の師匠の娘に惚れ込んで、毎晩のように遊びに行ってるらしいです。そんな奴なんで、俺も最初から仲間に入れる気はなかったんですけど、あいつが出たがって『絶対行くから』って言うから、約束したのに、いざとなったらやっぱり逃げ出してしまいました」
「腰抜けだな」
「ほんとに腰抜けです」
「その勝次郎は今日は来てないのか?」
「来てません。最近は石町の油屋に仕事に行ってるそうです」
「そうか。じゃあ、その利助って小僧を呼んでくれ。黙って連れてきてくれれば良いよ」
「はい、はい」
「おい、この小僧」
「親分さん。これが利助です。おい、お前はさっきからそこに隠れて、何を聞いてやがったんだ」
「ま、チビをそんなに怒るな。喜平どん、一緒にいると調べるのに都合が悪いよ。ちょっとあっちに行ってくれ」
「でも、利助。お前は評判悪いみたいだな。まだ子供とはいえ、もう16だ。善悪の区別はつくはずなのに、なぜあんな悪いことをした?」
「俺は三河町の半七だ。嘘ついたら縛り上げるぞ。お前は先月、あの喜平と大工の勝次郎が清水山へ行く相談をしてた時に、誰に頼まれて仕事場の材木を倒した?」
「なぜ黙ってる?なぜ答えない?さあ、誰に頼まれて丸太を倒したんだ?デカい丸太が倒れてきて、人の頭を叩き割ったらどうする?お前は紛れもない犯人だぞ。そんな悪いことをなぜした?いくらお前が悪戯好きでも、自分1人の考えだけでそんなことはしないだろう。誰に頼まれて、そんなことをしたんだ?その頼みを白状しろ」
「証拠は語られてる、自分に後ろ暗いことがなければ、なぜそんなところに隠れて立ち聞きなんかしてたんだ?いくらお前が強がっても、俺はちゃんと知ってるぞ」
「そんなに隠すなら俺の方から言っちまう。あの丸太を倒せって言ったのは、大工の勝次郎だろう。どうだ、まだ隠すか?」

原文 (会話文抽出)

「今しがた家の若い者が来て、ひと通りお前さんを調べて行ったそうだから、同じ口を幾度も利かせねえ。そこで、わたしの訊きたいのは、番頭さんの話じゃあ、ここの家に小僧がふたり居るそうだが、なんというんですえ」
「利助に藤次郎と申します」
「御用なら呼んでまいりましょうか」
「まあ、待ってくれ。その利助に藤次郎は幾つだね」
「どっちも同い年で十六でございます」
「どっちがおとなしいね」
「藤次郎の方が素直でおとなしゅうございます。利助の奴はいたずら者で、この夏にも一旦暇を出されたのですが、親元からあやまって来まして、また使っているようなわけでございます」
「それから大工の勝次郎というのはどんな奴だね。おまえさんと一緒に清水山へ出かける筈で、途中で臆病風に吹かれたとかいう話だが、そいつは博奕でも打つかね」
「小博奕ぐらいは打つようです。家は竜閑町の駄菓子屋の裏ですが、なんでも近所の師匠のむすめに熱くなって、毎晩のように張りに行くとかいうことです。そんな奴ですから、わたしの方でも初めから味方にしようとも思っていなかったんですが、向うから頻りに乗り気になって是非一緒に出かけようというもんだから、わたしもその積りで約束すると、やっぱりいざという時に寝がえりを打ってしまいました」
「意気地のない奴だな」
「まったく意気地のない奴ですよ」
「その勝次郎はきょうも来ているかえ」
「いいえ、来ていません。このごろは石町の油屋へ仕事に行っているそうです」
「そうか。じゃあ、その利助という小僧を呼んで貰おう。ただ黙って連れて来てくれ」
「はい、はい」
「やい、この野郎」
「親分さん。こいつが利助です。やい、手前はさっきからそこに隠れていて、なにを立ち聴きしていやあがったんだ」
「まあ、小さい者をそう叱るな。喜平どん、一緒にいちゃあ調べるのに都合がわるい。ちっとあっちへ行っていてくれ」
「だが、利助。おまえはどうも評判がよくないようだぞ。子供だといっても、もう十六だ。物事の善い悪いはわかっている筈だのに、なぜあんな悪いことをした」
「おれは三河町の半七だ。嘘をつくと縛ってしまうぞ。おまえは先月、あの喜平と大工の勝次郎とが清水山へ行く相談をしている時に、誰にたのまれて仕事場の材木を倒した」
「なぜ黙っている。なぜ返事をしねえ。さあ、誰にたのまれて丸太を倒した。大きい丸太が倒れて来て、人の脳天でもぶち割ったらどうする。貴様はまぎれなしの下手人だぞ。そんな悪い事をなぜしたのだ。なんぼ貴様がいたずらでも、自分ひとりの料簡でそんなことをしたのじゃあるめえ。だれに頼まれて、そんなことをした。その頼みを白状しろ」
「論より証拠、自分にうしろ暗いことがないのなら、なぜそんなところに隠れて立ち聴きをしていたのだ。いくら貴様が強情を張っても、おれはちゃんと知っているぞ」
「そんなに隠すならおれの方から云って聞かせる。あの丸太を倒せと教えたのは、大工の勝次郎だろう。どうだ、まだ隠すか」


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