岡本綺堂 『半七捕物帳』 「そうです、そうです。金右衛門を斬って、娘…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「そう、そう。「金ちゃんと娘のオサーンを襲ったのは、米屋の茂兵衛の仕業なんだよ。この茂兵衛ってやつはな、悪黨で、店で働く若造の銀八にやらせて、あちこちで盗みとかやってたんだ。でも、普段は真面目にやってたから、近所もお客さんたちも何も気づかなかったらしい。抜け目ないヤツだったんだろね。前に話した唐人飴屋が泥棒の濡れ衣を着せられた事件、あれ実は茂兵衛がやってたんだよ。あの辺の人もビックリしちゃったんだって。見た目じゃわかんないから、茂兵衛たちもうまくごまかしてたんだね」
「金ちゃんを斬ったのは、娘を襲うためですか?」
「こんなヤツらだから、欲に目が眩んでたのもあるだろうけど、こっちは本気の仇討ちだって言ってるんだよ」
「これも仇討ちですか?」
「まあな。さっき言ったように、8年前に金ちゃんが江戸に観光に来たことがあるんだ。そん時、茂兵衛は深川に住んでて、やっぱり米屋やってた。金ちゃんは1人で来てたから、馬喰町に泊まらずに、茂兵衛の家で2週間くらい泊まってたんだ。そしたら、ちょっと問題が起きたんだよ。茂兵衛の奥さんのおイナさんと金ちゃんは従兄弟同士で、小さい頃から仲が良かったんだ。金ちゃんが泊まってる間も、おイナさんが面倒見てた。そしたら、茂兵衛が2人を怪しく思ったんだって。金ちゃんが帰った後、夫婦喧嘩になったんだ。従兄弟同士の金ちゃんとオイナさん、本当に浮気してたのか、茂兵衛の勘違いだったのか、それはわかんないけど、それ以来夫婦仲が悪くなって、茂兵衛はオイナさんに当たりが強くなったんだって。それでかどうかわかんないけど、オイナさんはだんだん弱っていって、2年前の暮れに33で死んだんだ。死ぬ3日前にも大喧嘩したみたいだから、オイナさんの死因もちょっと怪しいんじゃないかって言われてる」
「江戸と佐倉は離れてるから、ケンカのことなんて金ちゃんは知らなかったでしょ?」
「そうなんだよ。だから今度芝居を見に来たついでに、8年ぶりに茂兵衛の家を訪ねたんだ。そしたら、茂兵衛は昔の恨みがフツフツと湧いてきたんだな…。昔の言い方で言うと『女仇討ち』ってヤツだけど、証拠はないし、ハッキリ言えるわけじゃないでしょ。でも、相手の顔を見ると、茂兵衛は腹が立って仕方がなかったんだ。こういうヤツって、嫉妬深くて、恨みっぽいんだよ。無理やり金ちゃんたちを1泊させて、何か企もうとしたんだけど、本人は馬喰町の宿に帰ると言い張る。それで、急遽思いついたのが、前の事件なんだ。金ちゃんたちを小僧に送らせて、自分は先回りして藪に隠れて、金ちゃんを斬り付けた。銀八はオサーンを肩車して逃げた。銀八は重い荷物を毎日運んでるから、16歳の娘を肩車するなんて楽勝なんだよ。もちろん、オサーンの口には手ぬぐいをねじ込んで、あの化物屋敷に連れてって、茶の間の押入れに閉じ込めたんだ。全部計画通りだったんだけど、茂兵衛の持ってたのは脇差しで、腕もイマイチだったんだ。野口武助は侍だから、森山郡兵衛をサクッと仕留めたけど、茂兵衛は町人だからうまくいかなくて、斬ったけど浅手だったんだ。で、これが茂兵衛の女仇討ちってことさ」

原文 (会話文抽出)

「そうです、そうです。金右衛門を斬って、娘のおさんをかどわかしたのは、下総屋の茂兵衛の仕業です。この茂兵衛という奴はなかなかの悪党で、店の若い者銀八というのを手先に使って、方々で盗みを働いていたのですが、商売は手堅く、うわべは飽くまでもまじめに取り澄ましていたので、近所は勿論、家内の者にも覚られなかったと云いますから、よっぽど抜け目なく立ち廻っていたに相違ありません。いつぞやお話をした唐人飴の一件、あの唐人飴屋が泥坊のぬれぎぬを着せられたのですが、あの辺を荒らした賊の正体を洗ってみると、実はこの茂兵衛の仕業だということが判って、青山辺ではみんな案外に思ったそうです。人は見掛けに因らないと云いますが、この米屋の奴らなぞは頗る上手にごまかしていたと見えます」
「金右衛門を斬ったのは、娘をかどわかす為ですか」
「こんな奴らですから、慾心も無論に手伝っていたでしょうが、これこそ本当のかたき討ちのつもりなんですよ」
「これもかたき討ちですか」
「まあ、かたき討ちですね。さっきもお話し申した通り、八年前に金右衛門は江戸見物に出て来たことがあります。そのころ茂兵衛は深川に住んでいて、やはり米屋をしていました。金右衛門は一人で出て来たので、馬喰町に宿を取らず、茂兵衛の家に小半月ほども泊まって、ゆっくり江戸見物をして帰りましたが、ここに一つの面倒がおこった。と云うのは、茂兵衛の女房のお稲と金右衛門とは従妹同士で、子供のときから仲がいい。今度も金右衛門が逗留している間、お稲が親切に世話をしてやった。それが亭主の茂兵衛の眼には怪しく見えたと云うわけで、金右衛門が帰国した後に夫婦喧嘩がおこりました。 従妹同士の金右衛門とお稲とのあいだに、本当に不義密通の事実があったのか、但しは茂兵衛ひとりの邪推か、そこははっきり判り兼ねますが、その以来、夫婦仲がとかくにまるく納まらないで、何かにつけて茂兵衛は女房につらく当たったそうです。そのためか、お稲はだんだんに体が弱くなって、おととしの暮れに三十三で死にました。死ぬ三日ほど前にも激しい夫婦喧嘩をしたと云いますから、お稲の死因も少し怪しいと思われないこともありません。 江戸と佐倉と距れていますから、そんな捫著のおこったことを金右衛門はちっとも知らないで、今度の芝居見物に出て来たついでに、八年振りで下総屋へ尋ねて来ました。その金右衛門の顔をみると、茂兵衛はむかしの恨みがむらむらと湧き出して……。昔はこういうのを女仇討と云いましたが、何分にも無証拠ですから、表立ってかれこれ云うことは出来ません。しかし相手の顔をみると、茂兵衛は口惜しくって堪まらない。こういう奴に限って、嫉妬心も深い、復讐心も強い。無理に金右衛門らを一泊させて、なにかひと趣向しようと思ったのですが、どうしても馬喰町の宿へ帰ると云うので、急に思い付いたのが前の一件です。 金右衛門ら四人を小僧に送らせて、自分は近道を先廻りして、藪のなかに待っていて、金右衛門に斬り付ける。若い者の銀八はおさんを引っ担いで逃げる。銀八は重い米をかついで毎日得意先へ配っているのですから、十六の小娘を引っ担いで逃げるのは骨は折れません。勿論、手拭をおさんの口へ捻じ込んで、例の化け物屋敷へ連れ込んで、茶の間の押入れへ投げ込んでしまいました。 これで万事思い通りに運んだのですが、茂兵衛の刄物は脇指で、おまけに腕が利かない。一方の野口武助はともかくも侍ですから、かたきの森山郡兵衛を首尾よく仕留めましたが、こっちは町人の悲しさにどうもうまく行かないで、斬るには斬ったが案外の浅手でした。まあ、こう云ったわけで、茂兵衛としては女仇討の積りだったのですよ」


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