GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』
現代語化
「どうするものか。さあ、白状しろ」
「私は何も知りません」
「とぼけるな。この野郎……」
「お前は今夜この為吉を殺らすつもりでここへ連れ出したのだろう?」
「とんでもないことを……。私はただ、旦那の指示でこの為さんをここまで案内して来たのです」
「何のために案内して来た?」
「この大きな木の下に待っている人がいるから、その人に会わせてやれと言うのです」
「待っている人というのは誰だ?」
「知りません。会えばわかると思いました」
「子どもみたいなことを言うな。狐にでも化かされやしめえし、大の男2人が顔を合わせて、わけもわからずに野原の真ん中にうろうろ出て来る奴があるものか。いい加減にしろ」
「堪忍してください、勘弁してください」
「親分。私は本当に何も知りません。ご存じかもしれませんが、この為さんの妹が昨日見えなくなってしまいました。家の旦那も心配して、朝から方々を探し歩いていましたが、午後になって帰って来て、お種さんの居場所はわかったと言います。だが、相手が悪い奴でただでは渡さない。拐引で訴えれば、1文もいらずに取り戻すことができるかもしれませんが、そんなことに時間を取っているうちに、お種さんの身に何かあっては取り返しがつきません。これも仕方がないと諦めて、いくらかのお金を渡して無事に取り戻した方がよかろう。そこで向こうでは10両出せと言う。私は5両に負けてくれと言う。押し問答の末に6両に負けて来たから、それを持って早く取り戻して来たら良いだろうと言うことでした。そこで、為さんは金右衛門さんと相談して、とにかくもお種さんを取り戻しに行くことになりましたが、2人の路銀を合わせても6両の金がありません。胴巻の金まで振るい出しても、4両2分しかなく、不足の1両2分は旦那が足してやることにして、今夜ここへ出て来たのです」
「主人がなぜ一緒に来ないのだ?」
「主人が一緒に来るはずでしたが、夕方から持病の疝痛の激痛が起こって、身動きができなくなりました。朝早くから出歩いて、冷えたのでしょうと言うのです。そこで、主人の代わりに私が出て来ることになりました。権田原の真ん中に大きな榛の木がある。そこへ行けば、相手がお種さんを連れて来ているから、6両の金と引き換えに、お種さんを受け取って来いと命じられたので、為さんを案内して出て来ると、途中でこんな騒ぎになってしまったのです」
「それにしても、見覚えのない提灯をなぜ持って来た?」
「旦那の言うには、こんなことが世間へ知れると、お互いに迷惑する。下総屋の印のない提灯を持って行けと言うので……」
「むむ。まあ、だいたいはわかった。じゃあ、俺に手伝って、この怪我人を運んで行け」
原文 (会話文抽出)
「親分、わたしをどうするのです」
「どうするものか。さあ、白状しろ」
「わたしはなんにも知りません」
「空っとぼけるな。この野郎……」
「貴様は今夜この為吉を殺らすつもりでここへ連れ出したのだろう」
「飛んでもねえことを……。わたしはただ、旦那の指図でこの為さんをここまで案内して来たのです」
「なんのために案内して来た」
「この大きい木の下に待っている人があるから、その人に逢わせてやれと云うのです」
「待っている人と云うのは誰だ」
「知りません。逢えば判ると云いました」
「子供のようなことを云うな。狐にでも化かされやしめえし、大の男二人が鼻をそろえて、訳もわからずに野原のまん中へうろうろ出て来る奴があるものか。出たらめもいい加減にしろ」
「堪忍して下さい、堪忍してください」
「親分。わたしは全くなんにも知らないのです。御承知かも知れませんが、この為さんの妹がゆうべ見えなくなってしまいました。家の旦那も心配して、けさから方々を探し歩いていましたが、午過ぎになって帰って来まして、お種さんの居どころは知れたと云うのです。だが、相手が悪い奴で唯では渡さない。拐引で訴えれば、一文もいらずに取り戻すことが出来るかも知れないが、そんなことに暇取っているうちに、お種さんのからだに何かの間違いがあっては取り返しが付かない。これも災難と諦めて、いくらかのお金を渡して無事に取り戻した方がよかろう。そこで向うでは十両出せと云う。わたしは五両に負けてくれと云う。押し問答の末に六両に負けさせて来たから、それを持って早く取り戻して来たら好かろうと云うことでした。そこで、為さんは金右衛門さんと相談して、ともかくもお種さんを取り戻しに行くことになりましたが、二人の路銀をあわせても六両の金がありません。胴巻の金まで振るい出しても、四両二分ばかりしか無いので、不足の一両二分は旦那が足してやることにして、今夜ここへ出て来たのです」
「主人がなぜ一緒に来ねえのだ」
「主人が一緒に来る筈でしたが、夕方から持病の疝癪の差し込みがおこって、身動きが出来なくなりました。朝早くから出歩いて、冷えたのだろうと云うのです。そこで、主人の代りにわたしが出て来ることになりました。権田原のまん中に大きい榛の木がある。そこへ行けば、相手がお種さんを連れて来ているから、六両の金と引っ換えに、お種さんを受け取って来いと云われたので、為さんを案内して出て来ると、途中でこんな騒ぎが出来したのです」
「それにしても、無じるしの提灯をなぜ持って来た」
「旦那の云うには、こんなことが世間へ知れると、おたがいに迷惑する。下総屋のしるしのない提灯を持って行けと云うので……」
「むむ。まあ、大抵は判った。じゃあ、おれに手伝って、この怪我人を運んで行け」