GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 宮沢賢治 『銀河鉄道の夜』
現代語化
「さそりの火だよ。」
「あら、さそりの火のことならあたし知ってる。」
「さそりの火ってなんだよ?」
「さそりが燃えて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何回もパパから聞いたことある。」
「さそりって、虫だろ?」
「うん、さそりは虫よ。でもいい虫なの。」
「さそりなんか良くないよ。僕博物館でアルコール漬けになってるの見た。尾にこんな鉤があってそれで刺されると死ぬって先生が言ってた。」
「そうよ。でもいい虫なの。パパこう言ってたの。昔のヴァルハラ野原に1匹のさそりがいて、小さな虫なんか殺して食べて生きてたんだって。そしたらある日イタチに見つかっちゃって食べられそうになったんだって。さそりは一生懸命逃げて逃げて、でもとうとうイタチに捕まりそうになっちゃった。その時急に前に井戸があって、そこに落ちちゃったんだって。もうどうしても上がれなくて、さそりは溺れそうになっちゃったの。その時さそりはこうお祈りしたんだって。『ああ、私は今までいくつの命を取ったかわからない。私がイタチに捕まえられそうになった時は、あんなに一生懸命逃げたのに、とうとうこんなになっちゃった。なんて当てにならないんだ。なんで自分の体をイタチにあげなかったんだろう。そうすればイタチも1日生き延びられたのに。どうか神様、私の心を見てください。こんなにむなしく命を捨てずに、どうか次はみんなのために私の体を使ってください』って。そしたらね、さそりは自分の体が真っ赤な美しい火になって燃えて、闇を照らしてるのを見たんだって。今でも燃えてるんだってパパが言ってたわ。本当にもうあの火がそれなの。」
「そうだよ。見てごらん。あそこの三角標がちょうどさそりの形になってるよ。」
原文 (会話文抽出)
「あれは何の火だろう。あんな赤く光る火は何を燃やせばできるんだろう。」
「蝎の火だな。」
「あら、蝎の火のことならあたし知ってるわ。」
「蝎の火ってなんだい。」
「蝎がやけて死んだのよ。その火がいまでも燃えてるってあたし何べんもお父さんから聴いたわ。」
「蝎って、虫だろう。」
「ええ、蝎は虫よ。だけどいい虫だわ。」
「蝎いい虫じゃないよ。僕博物館でアルコールにつけてあるの見た。尾にこんなかぎがあってそれで螫されると死ぬって先生が云ったよ。」
「そうよ。だけどいい虫だわ、お父さん斯う云ったのよ。むかしのバルドラの野原に一ぴきの蝎がいて小さな虫やなんか殺してたべて生きていたんですって。するとある日いたちに見附かって食べられそうになったんですって。さそりは一生けん命遁げて遁げたけどとうとういたちに押えられそうになったわ、そのときいきなり前に井戸があってその中に落ちてしまったわ、もうどうしてもあがられないでさそりは溺れはじめたのよ。そのときさそりは斯う云ってお祈りしたというの、 ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどいたちにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまっていたちに呉れてやらなかったろう。そしたらいたちも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。って云ったというの。そしたらいつか蝎はじぶんのからだがまっ赤なうつくしい火になって燃えてよるのやみを照らしているのを見たって。いまでも燃えてるってお父さん仰ったわ。ほんとうにあの火それだわ。」
「そうだ。見たまえ。そこらの三角標はちょうどさそりの形にならんでいるよ。」