宮沢賢治 『銀河鉄道の夜』 「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 宮沢賢治 『銀河鉄道の夜』

現代語化

「オヤジもオカンも仕事で忙しいけど、すぐ来るよ。それよりさ、オカンはどんだけ待ってたと思う?『私の大事なタダシは元気かな、雪の中でみんなで手をつないで遊んでんのかな』って心配してんだよ。早く行って抱きしめよ。」
「うん、でも船に乗るんじゃなかった。」
「わかるよ。でも見てみ、あの川!あの川、夏に窓から見てたでしょ?『きらきら星』歌いながら休憩してた。あの川なんだよ。きれいだよね。輝いてる。」
「もう悲しむことないんだ。こんな素敵なとこ旅して、天国行くから。そっちはもうキラキラしてて、いいにおいがして、いい人がいっぱい。ボートに乗れなかった人もみんな助かってるよ。お父さんお母さんや家の人がいるところに。さあ、元気出せよ。みんなで歌って行こう。」
「どこの人ですか?何があったんですか?」
「氷山にぶつかって船が沈んだんです。お父さんは仕事で行ってて、私たちは後から出発したんです。私は大学生で、家庭教師してて。12日目くらいに船が氷山にぶつかって、沈みそうになったんです。月がちょっと出てたけど、霧がすごく濃くて。でも救命ボートの半分はダメになってて、全員は乗れないんです。船が沈むから、私は必死で『子供乗せて!乗せて!』って叫びました。みんな道を開けて、子供たちのために祈ってくれたけど、ボートまで親とか小さい子がいて、押し分けられなかった。でも私はやらなきゃいけないと思って、子供たちを押し分けようとしたんです。でもまた、無理やり助けるより、みんな一緒に神様のとこに行ったほうが幸せなんじゃないかって思ったんです。でも私は罪を背負ってでも助けたいと思ったんだけど、やっぱりできませんでした。子供だけボートに乗せて、母親が狂ったようにキスして、父親が泣きながら立ってて、胸が張り裂けそうでした。そしたら船がどんどん沈むから、私はこの親子を抱きしめて、一緒に浮こうと思って覚悟しました。そしたら救命浮き輪が飛んできたけど、滑っちゃって遠くへ行ってしまって。私は必死で格子から離れて、3人でつかまりました。どこからか『救え!』って声がして、みんないろんな言葉で同じこと言って。その時ドーンって音がして、水に落ちて渦に巻き込まれたと思ったけど、気づいたらここでした。この子の母親は2年前に亡くなってます。ボートはきっと助かったと思います。上手な船乗りが漕いでたし、すぐ船から離れましたから。」

原文 (会話文抽出)

「お父さんやきくよねえさんはまだいろいろお仕事があるのです。けれどももうすぐあとからいらっしゃいます。それよりも、おっかさんはどんなに永く待っていらっしゃったでしょう。わたしの大事なタダシはいまどんな歌をうたっているだろう、雪の降る朝にみんなと手をつないでぐるぐるにわとこのやぶをまわってあそんでいるだろうかと考えたりほんとうに待って心配していらっしゃるんですから、早く行っておっかさんにお目にかかりましょうね。」
「うん、だけど僕、船に乗らなけぁよかったなあ。」
「ええ、けれど、ごらんなさい、そら、どうです、あの立派な川、ね、あすこはあの夏中、ツインクル、ツインクル、リトル、スター をうたってやすむとき、いつも窓からぼんやり白く見えていたでしょう。あすこですよ。ね、きれいでしょう、あんなに光っています。」
「わたしたちはもうなんにもかなしいことないのです。わたしたちはこんないいとこを旅して、じき神さまのとこへ行きます。そこならもうほんとうに明るくて匂がよくて立派な人たちでいっぱいです。そしてわたしたちの代りにボートへ乗れた人たちは、きっとみんな助けられて、心配して待っているめいめいのお父さんやお母さんや自分のお家へやら行くのです。さあ、もうじきですから元気を出しておもしろくうたって行きましょう。」
「あなた方はどちらからいらっしゃったのですか。どうなすったのですか。」
「いえ、氷山にぶっつかって船が沈みましてね、わたしたちはこちらのお父さんが急な用で二ヶ月前一足さきに本国へお帰りになったのであとから発ったのです。私は大学へはいっていて、家庭教師にやとわれていたのです。ところがちょうど十二日目、今日か昨日のあたりです、船が氷山にぶっつかって一ぺんに傾きもう沈みかけました。月のあかりはどこかぼんやりありましたが、霧が非常に深かったのです。ところがボートは左舷の方半分はもうだめになっていましたから、とてもみんなは乗り切らないのです。もうそのうちにも船は沈みますし、私は必死となって、どうか小さな人たちを乗せて下さいと叫びました。近くの人たちはすぐみちを開いてそして子供たちのために祈って呉れました。けれどもそこからボートまでのところにはまだまだ小さな子どもたちや親たちやなんか居て、とても押しのける勇気がなかったのです。それでもわたくしはどうしてもこの方たちをお助けするのが私の義務だと思いましたから前にいる子供らを押しのけようとしました。けれどもまたそんなにして助けてあげるよりはこのまま神のお前にみんなで行く方がほんとうにこの方たちの幸福だとも思いました。それからまたその神にそむく罪はわたくしひとりでしょってぜひとも助けてあげようと思いました。けれどもどうして見ているとそれができないのでした。子どもらばかりボートの中へはなしてやってお母さんが狂気のようにキスを送りお父さんがかなしいのをじっとこらえてまっすぐに立っているなどとてももう腸もちぎれるようでした。そのうち船はもうずんずん沈みますから、私はもうすっかり覚悟してこの人たち二人を抱いて、浮べるだけは浮ぼうとかたまって船の沈むのを待っていました。誰が投げたかライフブイが一つ飛んで来ましたけれども滑ってずうっと向うへ行ってしまいました。私は一生けん命で甲板の格子になったとこをはなして、三人それにしっかりとりつきました。どこからともなく〔約二字分空白〕番の声があがりました。たちまちみんなはいろいろな国語で一ぺんにそれをうたいました。そのとき俄かに大きな音がして私たちは水に落ちもう渦に入ったと思いながらしっかりこの人たちをだいてそれからぼうっとしたと思ったらもうここへ来ていたのです。この方たちのお母さんは一昨年没くなられました。ええボートはきっと助かったにちがいありません、何せよほど熟練な水夫たちが漕いですばやく船からはなれていましたから。」


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