芥川龍之介 『戯作三昧』 「改名主など云ふものは、咎め立てをすればす…

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青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『戯作三昧』

現代語化

「改名主なんていう連中は、咎め立てをすればするほど、尻尾を出すのが面白いじゃないですか。自分たちが賄賂を取るから、賄賂のことを書かれると、嫌がって改作させる。また自分たちが猥雑な心に囚われやすいから、男女の情さえ書いてあれば、どんな書物でも、すぐに誨淫の書にしてしまう。それで自分たちの道徳心が、作者より高い気でいるから、傍迷惑な次第です。いわばあれは、猿が鏡を見て、歯をむき出して怒っているようなものでしょう。自分で自分の下等なのに腹を立てているのですから」
「いえ、その通りだと思います。でも改作させられても、それは先生のご恥辱になるわけではありませんよ。改名主などが何と云おうとも、立派な著作なら、必ずそれだけの価値はあるはずです」
「それにしても、ちょっと横暴すぎることが多いのですよ。そうそう一度などは獄屋へ衣食を送る場面を書いたので、やはり5、6行削られたことがありました」
「でもこの後50年か100年経ったら、改名主の方は消えて、八犬伝だけが残ることになるでしょう」
「八犬伝が残るにしろ、残らないにしろ、改名主の方は、案外いつまでもいそう気がします」
「そうですか。私にはそうは思えません」
「いや、改名主がいなくなっても、改名主のような人間は、いつの世にも絶えたことがありません。焚書坑儒が昔のだけにあったと思うと、大間違いです」
「先生は、この頃弱気なことばかりおっしゃいますね」
「私が弱気なのではない。改名主どもがのさばる世の中が、弱気なのです」
「じゃ、ますます書かれたらいいでしょう」
「とにかく、それしかないようですな」
「そこでまた、相変わらず討ち死ですか」

原文 (会話文抽出)

「改名主など云ふものは、咎め立てをすればする程、尻尾の出るのが面白いぢやありませんか。自分たちが賄賂をとるものだから、賄賂の事を書かれると、嫌がつて改作させる。又自分たちが猥雑な心もちに囚はれ易いものだから、男女の情さへ書いてあれば、どんな書物でも、すぐ誨淫の書にしてしまふ。それで自分たちの道徳心が、作者より高い気でゐるから、傍痛い次第です。云はばあれは、猿が鏡を見て、歯をむき出してゐるやうなものでせう。自分で自分の下等なのに腹を立ててゐるのですからな。」
「嫉海惑篭廚糧耜箸?召蠻?瓦覆里如∋廚呂瑳詐个靴覆?蕁?<br />「それは大きにさう云ふ所もありませう。しかし改作させられても、それは御老人の恥辱になる訳ではありますまい。改名主などが何と云はうとも、立派な著述なら、必ずそれだけの事はある筈です。」
「それにしても、ちと横暴すぎる事が多いのでね。さうさう一度などは獄屋へ衣食を送る件を書いたので、やはり五六行削られた事がありました。」
「しかしこの後五十年か百年経つたら、改名主の方はゐなくなつて、八犬伝だけが残る事になりませう。」
「八犬伝が残るにしろ、残らないにしろ、改名主の方は、存外何時までもゐさうな気がしますよ。」
「さうですかな。私にはさうも思はれませんが。」
「いや、改名主はゐなくなつても、改名主のやうな人間は、何時の世にも絶えた事はありません。焚書坑儒が昔だけあつたと思ふと、大きに違ひます。」
「御老人は、この頃心細い事ばかり云はれますな。」
「私が心細いのではない。改名主どものはびこる世の中が、心細いのです。」
「では、益働かれたら好いでせう。」
「兎に角、それより外はないやうですな。」
「そこで又、御同様に討死ですか。」


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