国木田独歩 『運命論者』 「断然離婚なさったら如何です。」…

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青空文庫図書カード: 国木田独歩 『運命論者』

現代語化

「思い切って離婚したらどうですか？」

「そうすると新しい事実ができるだけだよ。もう起こった事実は、それじゃ消えないじゃん。」

「でも仕方ないんじゃないんですか？」

「だから運命なんだよ。離婚したって実の母親が父親を殺した事実は消えない。離婚したって妹を妻として愛してる俺の気持ちは変わらない。人の力で過去の事実を消すことはできないんだから、人間は絶対に運命の力から逃れられないよ。」

原文 (会話文抽出)

「断然離婚なさったら如何です。」
「それは新らしき事実を作るばかりです。既に在る事実は其為めに消えません。」
「けれども其は止を得ないでしょう。」
「だから運命です。離婚した処で生の母が父の仇である事実は消ません。離婚した処で妹を妻として愛する僕の愛は変りません。人の力を以て過去の事実を消すことの出来ない限り、人は到底運命の力より脱るゝことは出来ないでしょう。」

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