国木田独歩 『運命論者』 「けれども貴様聴いて呉れますか。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 国木田独歩 『運命論者』

現代語化

「でもあんた、聞いてくれますか。」

「もちろん聞きますよ! どうぞ話して下さい。」

「じゃあまず手近なお酒のことから話します。あんたには不思議なことだと思うでしょうけど、実は世間でよくやってることで、苦しみを忘れたいからやってるんです。砂に隠してるのは、家ではこっそり飲まなきゃいけないからで、それにここって静かで気持ちがいいし、どんなひどい運命の奴でも隠れて人をうかがうような暗い影がないのが気に入ってるんです。ここに寝っ転がって、お酒の力でまったりしながら高い空を見上げてると、ちょっとだけ心が自由になれるんです。そのうちこの強すぎるお酒が、もともと弱ってる俺の心臓をだんだんダメにして、そのうち俺もちゃんと自滅するだろうと思ってます。」

「じゃああんたは自殺したいんですか。」

「自殺じゃなくて、自滅です。運命は俺の自殺すら許さないんだ。あんた、『惑』ってのが運命の鬼が一番巧く使う道具の一つなんだよ。『惑』ってのは、悲しみを苦しみに変えるんだ。苦しみをさらに倍にする。自殺ってのは決心なんだよ。ずっと『惑』のせいで苦しんでる連中に、どうやってそんな決心がつくんだよ。だから『惑』って鈍くて重い苦しみから逃れるには、やっぱ自滅っていう遅い方法しかないんだ。」

原文 (会話文抽出)

「けれども貴様聴いて呉れますか。」
「聴きますとも! 何卒かお話なさい。」
「それなら先ず手近な酒のことから話しましょう。貴様は定めし不思議なことと思って居るでしょうが、実は世間に有りふれたことで、苦悩を忘れたさの魔酔剤に用いて居るのです。砂の中に隠して置くのは隠くして飲まなければならない宅の事情があるからなので、その上、此場所は如何にも静で且つ快濶で、如何な毒々しい運命の魔も身を隠して人を覗がう暗い蔭のないのが僕の気に入ったからです。此処へ身を横たえて酒精の力に身を托し高い大空を仰いで居る間は、僕の心が幾何か自由を得る時です。その中には此激烈な酒精が左なきだに弱り果た僕の心臓を次第に破って、遂には首尾よく僕も自滅するだろうと思って居ます。」
「そんなら貴様は、自殺を願うて居るのですか。」
「自殺じゃアない、自滅です。運命は僕の自殺すら許さないのです。貴様、運命の鬼が最も巧に使う道具の一は『惑』ですよ。『惑』は悲を苦に変ます。苦悩を更に自乗させます。自殺は決心です。始終惑のために苦んで居る者に、如何して此決心が起りましょう。だから『惑』という鈍い、重々しい苦悩から脱れるには矢張、自滅という遅鈍な方法しか策がないのです。」


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