国木田独歩 『運命論者』 「そうでしょう、それでなければあんな眼つき…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 国木田独歩 『運命論者』

現代語化

「そうだろ? おっかない目つきで俺のこと見てたもん。恨めしそうだった。」

「いや、恨んではいません。情けなかったんです。じいさんは大事な酒もいつの間にか他人に奪われてしまうのか、と自分の運命を呪ったんです。呪うって言うと大げさだけど、そんな大層な気持ちも、気力も実はないんです。運命が俺を呪ってるんです――運命って信じますか? そう、運命ってやつ。どうですか、もう一杯――」

「いや、もう結構です。」

「俺は運命論者じゃないです。」

「じゃあ、偶然論者ですか?」

「原因と結果の法則だけを信じています。」

「でもその原因が人の力じゃなくて、その結果が人の頭に降ってくることってたくさんあるでしょ。そんなとき、運命って人の力以上の何かを感じませんか?」

「感じますけど、それは自然の力です。自然界は原因と結果の法則に従って動くもので、運命っていう神秘的な名前をその力に付けることはできないと思います。」

「そうですか、そうですか、わかりました。つまり宇宙には神秘がないってことですね。つまり、この宇宙での人生の意味があなたにとってはすごく単純明快で、すべてが計算通りにいけばいいんですね。あなたの宇宙は立体じゃなくて平面です。無限って事実もあなたにとっては感動とか畏敬とか考えさせる大きな事実じゃなくて、数学者みたいに数を並べて無限を表そうとする仲間なんでしょう?」

原文 (会話文抽出)

「そうでしょう、それでなければあんな眼つきで僕を御覧になる訳は御座いません。さも恨めしそうでした。」
「イヤ恨めしくは御座いません、情なかったのです。オヤ/\乃公は隠して置いた酒さえも何時か他人の尻の下に敷れて了うのか、と自分の運命を詛ったのです。詛うと言えば凄く聞えますが、実は僕にはそんな凄い了見も亦た気力もありません。運命が僕を詛うて居るのです――貴様は運命ということを信じますか? え、運命ということ。如何です、も一」
「イヤ僕は最早戴ますまい。」
「僕は運命論者ではありません。」
「それでは偶然論者ですか。」
「原因結果の理法を信ずるばかりです。」
「けれども其原因は人間の力より発し、そして其結果が人間の頭上に落ち来るばかりでなく、人間の力以上に原因したる結果を人間が受ける場合が沢山ある。その時、貴様は運命という人間の力以上の者を感じませんか。」
「感じます、けれども其は自然の力です。そして自然界は原因結果の理法以外には働かないものと僕は信じて居ますから、運命という如き神秘らしい名目を其力に加えることは出来ません。」
「そうですか、そうですか、解りました。それでは貴様は宇宙に神秘なしと言うお考なのです、要之、貴様には此宇宙に寄する此人生の意義が、極く平易明亮なので、貴様の頭は二々が四で、一切が間に合うのです。貴様の宇宙は立体でなく平面です。無窮無限という事実も貴様には何等、感興と畏懼と沈思とを喚び起す当面の大いなる事実ではなく、数の連続を以てインフィニテー(無限)を式で示そうとする数学者のお仲間でしょう。」


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