GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 太宰治 『お伽草紙』
現代語化
「そんなでたらめ、私が信じると思うんですか。嘘に決まってますよ。私は知ってますよ。この間から、そう、この間、ほら、あの若いお嬢さんが来た頃から、あなたはまるで別人のように変わってますもの。妙にそわそわして、ため息ばかりついて、まるで恋してるみたい。みっともない。いい年して。隠さなくてもいいんですって。私にはわかってますから。そもそも、そのお嬢さんって、どこに住んでるんですか。まさか、藪の中じゃないでしょうね。私はだまされないですよ。藪の中に、小さい家があって、そこに人形みたいに可愛いお嬢さんがいて、ふふふ、そんな子供だましのことを言って、ごまかそうたってだめですよ。それが本当なら、そのお土産の葛籠っていうのを、今度来た時に持ってきてくださいよ。できないでしょ。どうせ、作り話なんだから。その不思議な宿の大きい葛籠でも背負って来てくれたら、それを証拠に、私だって本気にしないわけじゃないけど、そんな稲の穂とか持ってきて、そのお人形さんの簪だとか、よくもそんなばかなでたらめが言えたもんだ。男らしく、あっさり白状しなさいよ。私だって、わけのわからない女じゃないつもりよ。なんだってお妾さん一人や二人」
「荷物はいやだ」
「あら、そうですか。じゃあ、私が代わりに参りましょうか。どうですか。藪の入り口でうつぶせになってればいいんでしょう?私が参りましょう。それで、いいんですか。あなたは困りませんか」
「行けばいい」
「図々しい。嘘に決まってるのに、行けばいいなんて。じゃあ、本当にやってみますよ。いいんですか」
「どうも、葛籠がほしいみたいだね」
「ええ、そうですとも。そのお土産がほしいんですよ。じゃあこれからちょっと出て行って、一番重くて大きい葛籠をもらってきますね。ははは。ばかばかしいけど、行ってきますよ。私はあなたの、のほほんとしてる顔つきが本当に嫌いなんです。今にその偽善者の仮面を剥がしてやるわ。雪の上にうつぶせになれば雀のお宿に行けるとか、ははは、ばかばかしいけど、じゃあ、ちょっと行ってみましょうかね。あとで、あれは嘘だとか言っても、聞いてませんよ」
原文 (会話文抽出)
「まあ、そんな事、本気であなたは言つてゐるのですか。」
「そんな出鱈目を、この私が信じると思つておいでなのですか。嘘にきまつてゐますさ。私は知つてゐますよ。こなひだから、さう、こなひだ、ほら、あの、若い娘のお客さんが来た頃から、あなたはまるで違ふ人になつてしまひました。妙にそはそはして、さうして溜息ばかりついて、まるでそれこそ恋のやつこみたいです。みつともない。いいとしをしてさ。隠したつて駄目ですよ。私にはわかつてゐるのですから。いつたい、その娘は、どこに住んでゐるのです。まさか、藪の中ではないでせう。私はだまされませんよ。藪の中に、小さいお家があつて、そこにお人形みたいな可愛い娘さんがゐて、うつふ、そんな子供だましのやうな事を言つて、ごまかさうたつて駄目ですよ。もしそれが本当ならば、こんどいらした時にそのお土産の葛籠とかいふものでも一つ持つて来て見せて下さいな。出来ないでせう。どうせ、作りごとなんだから。その不思議な宿の大きい葛籠でも背負つて来て下さつたら、それを証拠に、私だつて本当にしないものでもないが、そんな稲の穂などを持つて来て、そのお人形さんの簪だなんて、よくもまあそのやうな、ばからしい出鱈目が言へたもんだ。男らしく、あつさり白状なさいよ。私だつて、わけのわからぬ女ではないつもりです。なんのお妾さんの一人や二人。」
「おれは、荷物はいやだ。」
「おや、さうですか。それでは、私が代りにまゐりませうか。どうですか。竹藪の入口で俯伏して居ればいいのでせう? 私がまゐりませう。それでも、いいのですか。あなたは困りませんか。」
「行くがいい。」
「まあ、図々しい。嘘にきまつてゐるのに、行くがいいなんて。それでは、本当に私は、やつてみますよ。いいのですか。」
「どうやら、葛籠がほしいやうだね。」
「ええ、さうですとも、さうですとも、私はどうせ、慾張りですからね。そのお土産がほしいのですよ。それではこれからちよつと出掛けて、お土産の葛籠の中でも一ばん重い大きいやつを貰つて来ませう。おほほ。ばからしいが、行つて来ませう。私はあなたのその取り澄したみたいな顔つきが憎らしくて仕様が無いんです。いまにその贋聖者のつらの皮をひんむいてごらんにいれます。雪の上に俯伏して居れば雀のお宿に行けるなんて、あははは、馬鹿な事だが、でも、どれ、それではひとつお言葉に従つて、ちよつと行つてまゐりませうか。あとで、あれは嘘だなどと言つても、ききませんよ。」