太宰治 『お伽草紙』 「しかし、おれは運のいい男だなあ。どんな目…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『お伽草紙』

現代語化

「それにしても、俺は運がいいよなー。どんな目に遭っても、死なないんだ。神様がついてるのかも知れない。お前も無事だったけど、俺も気づいたら火傷がなおって、こうしてお前とまたのんびり話ができるなんてさ。ああ、まるで夢みたいだ」
「ねえ、この河口湖に、やたらおいしいフナがいるの、知ってる?」
「知らない。本当か?」
「俺が3歳の時、お母さんがフナを1匹釣ってきて食わせてくれたことがあったんだけど、あれは美味かったよ。俺はどうも、不器用っていうわけじゃないんだけど、決してそうじゃないんだけど、フナとかの水の中のものを捕まえることができないのよ。だから、あれは美味いっていうことだけは知ってるんだけど、それ以来30何年間、いや、ははは、つい兄ちゃんの口真似しちゃった。兄ちゃんもフナが好きだったんだ」
「そうかしら」
「私はどうも、フナなんて食べたくないけど、でも、あなたがそんなに好きなんなら、これから一緒に捕りに行ってもいいよ」
「そうかい」
「でも、あのフナってやつは、素早いもんでさ、俺があいつを捕まえようとして、モウちょっとで溺れかけたことがあるんだけど」
「あなたに何かいい方法があるの?」
「網で掬ったら、わけないわ。あの<img gaiji="gaiji" src="../../../gaiji/1-94/1-94-73.png" alt="※(「盧+鳥」
「茲+鳥」
「うむ」
「漕げないこともないけどね。やる気になれば、どうってことない」
「漕げるの?」
「それならちょうどいいわ。私は、小さい舟を1艘持ってるんだけど、小さすぎて私たち2人は乗れないの。それに薄い板切れでテキトーに作った舟だから、水がしみ込んできて危険なのよ。でも、私なんかどうなってもいいけど、あなたの身に何かあったら大変だから、あなたの舟をこれから、2人で力を合わせて作ろうよ。板切れの舟は危ないから、もっと岩のように、泥を練って作ろうよ」
「申し訳ないなあ。俺もう、泣きそうだよ。泣かせてくれ。どうして俺はこんなに涙もろいんだろ」
「ついでにあなたひとりで、その岩みたいな立派な舟を作ってくれないかな。お願い」
「俺、恩に着るよ。お前がその俺の岩みたいな立派な舟を作ってくれてる間に、俺はお弁当を作ろうよ。俺はきっと立派な料理人になれる気がするんだ」
「そうね」

原文 (会話文抽出)

「しかし、おれは運のいい男だなあ。どんな目に遭つても、死にやしない。神さまがついてゐるのかも知れねえ。お前も無事でよかつたが、おれも何といふ事もなく火傷がなほつて、かうしてまた二人でのんびり話が出来るんだものなあ。ああ、まるで夢のやうだ。」
「ね、あなたはこの河口湖に、そりやおいしい鮒がうようよゐる事をご存じ?」
「知らねえ。ほんとかね。」
「おれが三つの時、おふくろが鮒を一匹捕つて来ておれに食べさせてくれた事があつたけれども、あれはおいしい。おれはどうも、不器用といふわけではないが、決してさういふわけではないが、鮒なんて水の中のものを捕へる事が出来ねえので、どうも、あいつはおいしいといふ事だけは知つてゐながら、それ以来三十何年間、いや、はははは、つい兄の口真似をしちやつた。兄も鮒は好きでなあ。」
「さうですかね。」
「私はどうも、鮒など食べたくもないけれど、でも、あなたがそんなにお好きなのならば、これから一緒に捕りに行つてあげてもいいわよ。」
「さうかい。」
「でも、あの鮒つてやつは、素早いもんでなあ、おれはあいつを捕へようとして、も少しで土左衛門になりかけた事があるけれども、」
「お前に何かいい方法があるのかね。」
「網で掬つたら、わけは無いわ。あの<img gaiji="gaiji" src="../../../gaiji/1-94/1-94-73.png" alt="※(「盧+鳥」
「茲+鳥」
「うむ、」
「漕げないことも無いがね。その気になりや、なあに。」
「漕げるの?」
「ぢや、ちやうどいいわ。私にはね、小さい舟が一艘あるけど、あんまり小さすぎて私たちふたりは乗れないの。それに何せ薄い板切れでいい加減に作つた舟だから、水がしみ込んで来て危いのよ。でも、私なんかどうなつたつて、あなたの身にもしもの事があつてはいけないから、あなたの舟をこれから、ふたりで一緒に力を合せて作りませうよ。板切れの舟は危いから、もつと岩乗に、泥をこねつて作りませうよ。」
「すまねえなあ。おれはもう、泣くぜ。泣かしてくれ。おれはどうしてこんなに涙もろいか。」
「ついでにお前ひとりで、その岩乗ないい舟を作つてくれないか。な、たのむよ。」
「おれは恩に着るぜ。お前がそのおれの岩乗な舟を作つてくれてゐる間に、おれは、ちよつとお弁当をこさへよう。おれはきつと立派な炊事係りになれるだらうと思ふんだ。」
「さうね。」


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