太宰治 『お伽草紙』 「や、ありがたう。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『お伽草紙』

現代語化

「や、ありがと」
「心配ないよ。もう大丈夫。俺は神様がついてるんだ。運がいいのさ。あんな火事なんて屁の河童さ。河童の肉ってうまそうだよな。どうにかして、そのうち食べてみようと思ってるんだけどね。それはともかく、あの時は、びっくりしたよ。とにかくすごい火勢だったからね。お前の方は、どうだった?別に怪我とかしてないみたいだけど、よくもあの火の中から無事逃げてこられたね」
「無事でもないわよ」
「お前って、ひどいよ。あんな大変な火事なのに、私一人置いてどんどん逃げちゃって。私は煙にまけて、もう死にそうだったんだから。私は、お前を恨んだわ。やっぱりあんな時に、つい本心ってものが出るんだね。私には、もう、お前の本心ってものが、この際、はっきりわかったわ」
「すまん。勘弁してくれ。実は俺も、ひどい火傷をしてさ、俺には、ひょっとして神様もついてないのかも知れない、めちゃくちゃな目に遭ったんだよ。お前はどうなったか、決して忘れてたわけじゃないんだけど、とにかく、すぐに俺の背中に火が回って、お前を助けに行く暇も何もなかったんだ。わかってくれないかなあ。俺は決して不実な男じゃないんだ。火傷ってのは、なかなかバカにできないよ。それに、あのさ、仙金膏とか、疝気膏とか、あれはダメ。いやもう、ひどい薬だよ。色黒には効かない」
「色黒?」
「いや、何でもない。ドロッドロの黒い薬でさ、こいつは、強い薬なんだ。お前によく似た、小さい、変なヤツがタダで塗ってやるって言うから、俺も、試しに塗ってもらったんだけど、いやいや、ただの薬だってのは、お前、気をつけたほうがいいよ。油断も何もなりゃしない。俺はもう頭から小さな竜巻がモクモク上がってくるみたいで、バタンと倒れたんだ」
「ふん」
「自業自得でしょ。ケチだから罰が当たったんだよ。ただの薬だから試してみたなんて、よくもそんな下品なこと、恥も外聞もなく言えたもんだ」
「ひどいこと言う」

原文 (会話文抽出)

「や、ありがたう。」
「心配無用だよ。もう大丈夫だ。おれには神さまがついてゐるんだ。運がいいのだ。あんなボウボウ山なんて屁の河童さ。河童の肉は、うまいさうで。何とかして、そのうち食べてみようと思つてゐるんだがね。それは余談だが、しかし、あの時は、驚いたよ。何せどうも、たいへんな火勢だつたからね。お前のはうは、どうだつたね。べつに怪我も無い様子だが、よくあの火の中を無事で逃げて来られたね。」
「無事でもないわよ。」
「あなたつたら、ひどいぢやないの。あのたいへんな火事場に、私ひとりを置いてどんどん逃げて行つてしまふんだもの。私は煙にむせて、もう少しで死ぬところだつたのよ。私は、あなたを恨んだわ。やつぱりあんな時に、つい本心といふものがあらはれるものらしいのね。私には、もう、あなたの本心といふものが、こんど、はつきりわかつたわ。」
「すまねえ。かんにんしてくれ。実はおれも、ひどい火傷をして、おれには、ひよつとしたら神さまも何もついてゐねえのかも知れない、さんざんの目に遭つちやつたんだ。お前はどうなつたか、決してそれを忘れてゐたわけぢやなかつたんだが、何せどうも、たちまちおれの背中が熱くなつて、お前を助けに行くひまも何も無かつたんだよ。わかつてくれねえかなあ。おれは決して不実な男ぢやねえのだ。火傷つてやつも、なかなか馬鹿にできねえものだぜ。それに、あの、仙金膏とか、疝気膏とか、あいつあ、いけない。いやもう、ひどい薬だ。色黒にも何もききやしない。」
「色黒?」
「いや、何。どろりとした黒い薬でね、こいつあ、強い薬なんだ。お前によく似た、小さい、奇妙な野郎が薬代は要らねえ、と言ふから、おれもつい、ものはためしだと思つて、塗つてもらふ事にしたのだが、いやはやどうも、ただの薬つてのも、あれはお前、気をつけたはうがいいぜ、油断も何もなりやしねえ、おれはもう頭のてつぺんからキリキリと小さい竜巻が立ち昇つたやうな気がして、どうとばかりに倒れたんだ。」
「ふん、」
「自業自得ぢやないの。ケチンボだから罰が当つたんだわ。ただの薬だから、ためしてみたなんて、よくもまあそんな下品な事を、恥づかしくもなく言へたものねえ。」
「ひでえ事を言ふ。」


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