太宰治 『お伽草紙』 「ずいぶん眠つたのね。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『お伽草紙』

現代語化

「めっちゃ寝たね。」
「柴をいっぱい集めたから、おじいちゃんの庭に持って行こう。」
「お腹すいた!お腹すくと寝てられないんだよね。」
「じゃあ僕も急いで柴を集めて、お弁当ももうないからご飯探しに行こう。」
「ちょっと待って!蛇がいるかもしれないから。」
「へ?蛇?見つけたら僕が捕まえてやるよ!」
「えー、怖い。私が捕まえる!」
「なんで女の子がそんなことするの?頼りないな。」
「えー!私だって大人なんだよ!それに、おじいちゃんに狸汁にされるなんて言われたくないもん。」
「そんなこと言わないよ。一緒に持って行くから。」
「おじいちゃんの顔を見ると嫌になっちゃうんだよね。」
「ちょっと待って、なんか変な音がする。」
「当たり前じゃん。ここはカチカチ山だよ。」
「カチカチ山?そんな名前だっけ?」
「だって、この山はカチカチ音がするじゃん。」
「へぇー、そうなんだ。」
「ねぇ、あなたはもうそんなに歳なの?昨日十七だって言ってたけど。」
「いや、十七だよ。お腹空いてて猫背になってるだけ。」
「嘘でしょ。兄貴がいつもそう言ってたからつい言っちゃったんだよ。」
「そうなんだ。」
「ねえ、兄がいるって言ってたけど、なんで今まで言わなかったの?いつも孤独だって言ってたじゃん。」
「まぁ、色々事情があってね。」
「意味わかんない。」
「実はね、兄がいるんだけど、酒飲みでダメなやつなんだ。恥ずかしくて言えなかった。」
「え、十七なのに?そんなことある?」
「世の中って複雑なんだよ。兄がいるかいないかとか、そんな単純なもんじゃない。」
「なんか変。」
「ちょっと変なにおいがする。」
「当たり前じゃん。ここはパチパチ山だよ。」
「え?さっきカチカチ山って言ってたじゃん。」
「山って場所によって名前が違うんだよ。富士山だって、中腹は小富士とか言うでしょ?」
「へぇー、そうなんだ。」
「なんか熱くなってきた。地震かな?」
「あっ!火事だ!火事!」
「うわー!熱い!助けて!」
「まさか、私が狸汁にされるんじゃないだろうな?」
「そんなことないよ。一緒に逃げる。」
「でも、おじいちゃんの顔が怖いんだよ。」
「おじいちゃん?誰?」
「え?知らないの?この山に住んでるおじいちゃんだよ。」
「えー、そんなのいるわけないじゃん。」
「いるんだよ!ほら、煙が出てくる!」
「うわー、怖い!」
「ちょっと待って!なんか薬売りのうさぎがいる!」
「え?うさぎ?薬売ってるの?」
「この薬すごいらしいよ。顔色が良くなるんだって。」
「えー、本当?俺も欲しい。」
「ダメだよ。顔に塗ると大変なことになる。」
「いや、いいから塗ってくれ!」
「ダメだってば!」
「お願い!お願い!」
「しょうがないな。でも、これ強い薬だから気をつけろよ。」
「わー!ひりひりする!でも、これで俺もイケメンになれるかも!」

原文 (会話文抽出)

「ずいぶん眠つたのね。」
「もう私も、柴を一束こしらへたから、これから背負つて爺さんの庭先まで持つて行つてあげませうよ。」
「ああ、さうしよう。」
「やけにおなかが空いた。かうおなかが空くと、もうとても、眠つて居られるものぢやない。おれは敏感なんだ。」
「どれ、それではおれも刈つた柴を大急ぎで集めて、下山としようか。お弁当も、もう、からになつたし、この仕事を早く片づけて、それからすぐに食べ物を捜さなくちやいけない。」
「あなた、さきに歩いてよ。この辺には、蛇がゐるんで、私こはくて。」
「蛇? 蛇なんてこはいもんか。見つけ次第おれがとつて、」
「おれがとつて、殺してやる。さあ、おれのあとについて来い。」
「やつぱり、男のひとつて、こんな時にはたのもしいものねえ。」
「おだてるなよ。」
「けふはお前、ばかにしをらしいぢやないか。気味がわるいくらゐだぜ。まさか、おれをこれから爺さんのところに連れて行つて、狸汁にするわけぢやあるまいな。あははは。そいつばかりは、ごめんだぜ。」
「あら、そんなにへんに疑ふなら、もういいわよ。私がひとりで行くわよ。」
「いや、そんなわけぢやない。一緒に行くがね、おれは蛇だつて何だつてこの世の中にこはいものなんかありやしないが、どうもあの爺さんだけは苦手だ。狸汁にするなんて言ひやがるから、いやだよ。どだい、下品ぢやないか。少くとも、いい趣味ぢやないと思ふよ。おれは、あの爺さんの庭先の手前の一本榎のところまで、この柴を背負つて行くから、あとはお前が運んでくれよ。おれは、あそこで失敬しようと思ふんだ。どうもあの爺さんの顔を見ると、おれは何とも言へず不愉快になる。おや? 何だい、あれは。へんな音がするね。なんだらう。お前にも、聞えないか? 何だか、カチ、カチ、と音がする。」
「当り前ぢやないの? ここは、カチカチ山だもの。」
「カチカチ山? ここがかい?」
「ええ、知らなかつたの?」
「うん。知らなかつた。この山に、そんな名前があるとは今日まで知らなかつたね。しかし、へんな名前だ。嘘ぢやないか?」
「あら、だつて、山にはみんな名前があるものでせう? あれが富士山だし、あれが長尾山だし、あれが大室山だし、みんなに名前があるぢやないの。だから、この山はカチカチ山つていふ名前なのよ。ね、ほら、カチ、カチつて音が聞える。」
「うん、聞える。しかし、へんだな。いままで、おれはいちども、この山でこんな音を聞いた事が無い。この山で生れて、三十何年かになるけれども、こんな、――」
「まあ! あなたは、もうそんな年なの? こなひだ私に十七だなんて教へたくせに、ひどいぢやないの。顔が皺くちやで、腰も少し曲つてゐるのに、十七とは、へんだと思つてゐたんだけど、それにしても、二十も年をかくしてゐるとは思はなかつたわ。それぢやあなたは、四十ちかいんでせう、まあ、ずいぶんね。」
「いや十七だ、十七。十七なんだ。おれがかう腰をかがめて歩くのは、決してとしのせゐぢやないんだ。おなかが空いてゐるから、自然にこんな恰好になるんだ。三十何年、といふのは、あれは、おれの兄の事だよ。兄がいつも口癖のやうにさう言ふので、つい、おれも、うつかり、あんな事を口走つてしまつたんだ。つまり、ちよつと伝染したつてわけさ。そんなわけなんだよ、君。」
「さうですか。」
「でも、あなたにお兄さんがあるなんて、はじめて聞いたわ。あなたはいつか私に、おれは淋しいんだ、孤独なんだよ、親も兄弟も無い、この孤独の淋しさが、お前、わからんかね、なんておつしやつてたぢやないの。あれは、どういふわけなの?」
「さう、さう、」
「まつたく世の中は、これでなかなか複雑なものだからねえ、そんなに一概には行かないよ。兄があつたり無かつたり。」
「まるで、意味が無いぢやないの。」
「めちや苦茶ね。」
「うん、実はね、兄はひとりあるんだ。これは言ふのもつらいが、飲んだくれのならず者でね、おれはもう恥づかしくて、面目なくて、生れて三十何年間、いや、兄がだよ、兄が生れて三十何年間といふもの、このおれに、迷惑のかけどほしさ。」
「それも、へんね。十七のひとが、三十何年間も迷惑をかけられたなんて。」
「世の中には、一口で言へない事が多いよ。いまぢやもう、おれのはうから、あれは無いものと思つて、勘当して、おや? へんだね、キナくさい。お前、なんともないか?」
「いいえ。」
「さうかね。」
「気のせゐかなあ。あれあれ、何だか火が燃えてゐるやうな、パチパチボウボウつて音がするぢやないか。」
「それやその筈よ。ここは、パチパチのボウボウ山だもの。」
「嘘つけ。お前は、ついさつき、ここはカチカチ山だつて言つた癖に。」
「さうよ、同じ山でも、場所に依つて名前が違ふのよ。富士山の中腹にも小富士といふ山があるし、それから大室山だつて長尾山だつて、みんな富士山と続いてゐる山ぢやないの。知らなかつたの?」
「うん、知らなかつた。さうかなあ、ここがパチパチのボウボウ山とは、おれが三十何年間、いや、兄の話に依れば、ここはただの裏山だつたが、いや、これは、ばかに暖くなつて来た。地震でも起るんぢやねえだらうか。何だかけふは薄気味の悪い日だ。やあ、これは、ひどく暑い。きやあつ! あちちちち、ひでえ、あちちちち、助けてくれ、柴が燃えてる。あちちちち。」
「ああ、くるしい。いよいよ、おれも死ぬかも知れねえ。思へば、おれほど不仕合せな男は無い。なまなかに男振りが少し佳く生れて来たばかりに、女どもが、かへつて遠慮しておれに近寄らない。いつたいに、どうも、上品に見える男は損だ。おれを女ぎらひかと思つてゐるのかも知れねえ。なあに、おれだつて決して聖人ぢやない。女は好きさ。それだのに、女はおれを高邁な理想主義者だと思つてゐるらしく、なかなか誘惑してくれない。かうなればいつそ、大声で叫んで走り狂ひたい。おれは女が好きなんだ! あ、いてえ、いてえ。どうも、この火傷といふものは始末がわるい。づきづき痛む。やつと狸汁から逃れたかと思ふと、こんどは、わけのわからねえボウボウ山とかいふのに足を踏み込んだのが、運のつきだ。あの山は、つまらねえ山であつた。柴がボウボウ燃え上るんだから、ひどい。三十何年、」
「何を隠さう、おれあことし三十七さ、へへん、わるいか、もう三年経てば四十だ、わかり切つた事だ、理の当然といふものだ、見ればわかるぢやないか。あいたたた、それにしても、おれが生れてから三十七年間、あの裏山で遊んで育つて来たのだが、つひぞいちども、あんなへんな目に遭つた事が無い。カチカチ山だの、ボウボウ山だの、名前からして妙に出来てる。はて、不思議だ。」
「仙金膏はいかが。やけど、切傷、色黒に悩むかたはゐないか。」
「おうい、仙金膏。」
「へえ、どちらさまで。」
「こつちだ、穴の奥だよ。色黒にもきくかね。」
「それはもう、一日で。」
「ほほう、」
「や! お前は、兎。」
「ええ、兎には違ひありませんが、私は男の薬売りです。ええ、もう三十何年間、この辺をかうして売り歩いてゐます。」
「ふう、」
「しかし、似た兎もあるものだ。三十何年間、さうか、お前がねえ。いや、歳月の話はよさう。糞面白くもない。しつつこいぢやないか。まあ、そんなわけのものさ。」
「ところで、おれにその薬を少しゆづつてくれないか。実はちよつと悩みのある身なのでな。」
「おや、ひどい火傷ですねえ。これは、いけない。ほつて置いたら、死にますよ。」
「いや、おれはいつそ死にてえ。こんな火傷なんかどうだつていいんだ。それよりも、おれは、いま、その、容貌の、――」
「何を言つていらつしやるんです。生死の境ぢやありませんか。やあ、背中が一ばんひどいですね。いつたい、これはどうしたのです。」
「それがねえ、」
「パチパチのボウボウ山とかいふきざな名前の山に踏み込んだばつかりにねえ、いやもう、とんだ事になつてねえ、おどろきましたよ。」
「まつたくねえ。ばかばかしいつたらありやしないのさ。お前にも忠告して置きますがね、あの山へだけは行つちやいけないぜ。はじめ、カチカチ山といふのがあつて、それからいよいよパチパチのボウボウ山といふ事になるんだが、あいつあいけない。ひでえ事になつちやふ。まあ、いい加減に、カチカチ山あたりでごめんかうむつて来るんですな。へたにボウボウ山などに踏み込んだが最期、かくの如き始末だ。あいててて。いいですか。忠告しますよ。お前はまだ若いやうだから、おれのやうな年寄りの言は、いや、年寄りでもないが、とにかく、ばかにしないで、この友人の言だけは尊重して下さいよ。何せ、体験者の言なのだから。あいてててて。」
「ありがたうございます。気をつけませう。ところで、どうしませう、お薬は。御深切な忠告を聞かしていただいたお礼として、お薬代は頂戴いたしません。とにかく、その背中の火傷に塗つてあげませう。ちやうど折よく私が来合せたから、よかつたやうなものの、さうでもなかつたら、あなたはもう命を落すやうな事になつたかも知れないのです。これも何かのお導きでせう。縁ですね。」
「縁かも知れねえ。」
「ただなら塗つてもらはうか。おれもこのごろは貧乏でな、どうも、女に惚れると金がかかつていけねえ。ついでにその膏薬を一滴おれの手のひらに載せて見せてくれねえか。」
「どうなさるのです。」
「いや、はあ、なんでもねえ。ただ、ちよつと見たいんだよ。どんな色合ひのものだかな。」
「色は別に他の膏薬とかはつてもゐませんよ。こんなものですが。」
「あ、それはいけません。顔に塗るには、その薬は少し強すぎます。とんでもない。」
「いや、放してくれ。」
「後生だから手を放せ。お前にはおれの気持がわからないんだ。おれはこの色黒のため生れて三十何年間、どのやうに味気ない思ひをして来たかわからない。放せ。手を放せ。後生だから塗らせてくれ。」
「少くともおれの顔は、目鼻立ちは決して悪くないと思ふんだ。ただ、この色黒のために気がひけてゐたんだ。もう大丈夫だ。うわつ! これは、ひどい。どうもひりひりする。強い薬だ。しかし、これくらゐの強い薬でなければ、おれの色黒はなほらないやうな気もする。わあ、ひどい。しかし、我慢するんだ。ちきしやうめ、こんどあいつが、おれと逢つた時、うつとりおれの顔に見とれて、うふふ、おれはもう、あいつが、恋わづらひしたつて知らないぞ。おれの責任ぢやないからな。ああ、ひりひりする。この薬は、たしかに効く。さあ、もうかうなつたら、背中にでもどこにでも、からだ一面に塗つてくれ。おれは死んだつてかまはん。色白にさへなつたら死んだつてかまはんのだ。さあ塗つてくれ。遠慮なくべたべたと威勢よくやつてくれ。」


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