太宰治 『お伽草紙』 「よろこんでくれ! おれは命拾ひをしたぞ。…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『お伽草紙』

現代語化

「喜べよ!俺は命拾いしたんだ。じいさんの留守を狙って、あのばあさんを、えい、ってやっつけて逃げ出した。俺は運がいい男さ」
「私が喜ぶわけないでしょ。汚いわよ、そんなに唾飛ばして。それに、あのじいさんとばあさんは、私の友達よ。知らなかったの?」
「そうなのか」
「知らなかった。勘弁してくれ。そうと知ってたら、俺は、タヌキ汁にでもなんにでも、なってたげるのに」
「今さら、そんなこと言っても、もう遅いよ。あのお家の庭先に私が時々遊びに行って、おいしい柔らかい豆なんかごちそうになったのを、お前も知ってたじゃないの。それなのに、知らなかったなんて嘘ついて、ひどいよ。お前は、私の敵よ」
「許してくれよ。俺は、ほんとに、知らなかったんだ。嘘なんかついてない。信じてくれよ」
「本当にもう、お前みたいに怒られると、俺はもう、死にたくなるよ」
「何を言ってるのよ。食べることばっかり考えてるくせに」
「ヤリマンの上に、また、食い意地がきたないことったらありゃしない」
「見逃してくれよ。俺は、腹が減ってるんだ」
「まったく、今のお前のこの苦しさが、お前にも分かったらいいのに」
「近づいちゃいけないって言ったでしょ。臭いわよ。もっと向こうに離れてよ。お前、トカゲを食べたんでしょ。聞いたわよ。それから、ああ可笑しい、ウンコも食べたんでしょ」
「まさか」
「まさかねぇ」
「上品ぶってもだめよ。お前のそのニオイは、ただの嫌なニオイじゃないのよ」
「それじゃあ、今回は特別に許してあげる。あれ、近づいちゃいけないって言ったのに。油断も隙もなりゃしない。ヨダレを拭いたら?アゴがベロベロしてるじゃないの。落ち着いて、よく聞きなさい。特別に許してあげるけど、条件があるのよ。あのじいさんは、今頃はきっといつも以上にガッカリして、山に柴刈りに行く気力もなくなってるだろうから、私たちはその代わり柴刈りに行こうよ」
「一緒に?お前も一緒に行くの?」
「いいじゃない」
「いやなものか。今日から、すぐに行こうよ」
「明日はどう?明日の朝早く。今日はお前も疲れてるでしょ。それに、おなか空いてるんでしょ」
「ありがたい!俺は、明日お弁当たくさん作って持ってって、一生懸命10貫目の柴を刈って、じいさんの家まで届けてあげる。そしたら、お前は、俺をきっと許してくれるだろうな。仲良くしてくれるだろうな」
「しつこいな。その時の成績次第ね。仲良くしてあげるかもしれないわ」
「へへへ」
「その口が憎たらしい。苦労させてやるぞ、こんちきしょう。俺は、もう」
「俺はもう、どんなに嬉しいか、男泣きに泣いてみたいくらいだ」

原文 (会話文抽出)

「よろこんでくれ! おれは命拾ひをしたぞ。爺さんの留守をねらつて、あの婆さんを、えい、とばかりにやつつけて逃げて来た。おれは運の強い男さ。」
「何も私が、よろこぶわけは無いぢやないの。きたないわよ、そんなに唾を飛ばして。それに、あの爺さん婆さんは、私のお友達よ。知らなかつたの?」
「さうか、」
「知らなかつた。かんべんしてくれ。さうと知つてゐたら、おれは、狸汁にでも何にでも、なつてやつたのに。」
「いまさら、そんな事を言つたつて、もうおそいわ。あのお家の庭先に私が時々あそびに行つて、さうして、おいしいやはらかな豆なんかごちそうになつたのを、あなただつて知つてたぢやないの。それだのに、知らなかつたなんて嘘ついて、ひどいわ。あなたは、私の敵よ。」
「ゆるしてくれよ。おれは、ほんとに、知らなかつたのだ。嘘なんかつかない。信じてくれよ。」
「本当にもう、お前にそんなに怒られると、おれはもう、死にたくなるんだ。」
「何を言つてるの。食べる事ばかり考へてるくせに。」
「助平の上に、また、食ひ意地がきたないつたらありやしない。」
「見のがしてくれよ。おれは、腹がへつてゐるんだ。」
「まつたく、いまのおれのこの心苦しさが、お前にわかつてもらへたらなあ。」
「傍へ寄つて来ちや駄目だつて言つたら。くさいぢやないの。もつとあつちへ離れてよ。あなたは、とかげを食べたんだつてね。私は聞いたわよ。それから、ああ可笑しい、ウンコも食べたんだつてね。」
「まさか。」
「まさかねえ。」
「上品ぶつたつて駄目よ。あなたのそのにほひは、ただの臭みぢやないんだから。」
「それぢやあね、こんど一ぺんだけ、ゆるしてあげる。あれ、寄つて来ちや駄目だつて言ふのに。油断もすきもなりやしない。よだれを拭いたらどう? 下顎がべろべろしてるぢやないの。落ついて、よくお聞き。こんど一ぺんだけは特別にゆるしてあげるけれど、でも、条件があるのよ。あの爺さんは、いまごろはきつとひどく落胆して、山に柴刈りに行く気力も何も無くなつてゐるでせうから、私たちはその代りに柴刈りに行つてあげませうよ。」
「一緒に? お前も一緒に行くのか?」
「おいや?」
「いやなものか。けふこれから、すぐに行かうよ。」
「あしたにしませう、ね、あしたの朝早く。けふはあなたもお疲れでせうし、それに、おなかも空いてゐるでせうから。」
「ありがたい! おれは、あしたお弁当をたくさん作つて持つて行つて、一心不乱に働いて十貫目の柴を刈つて、さうして爺さんの家へとどけてあげる。さうしたら、お前は、おれをきつと許してくれるだらうな。仲よくしてくれるだらうな。」
「くどいわね。その時のあなたの成績次第でね。もしかしたら、仲よくしてあげるかも知れないわ。」
「えへへ、」
「その口が憎いや。苦労させるぜ、こんちきしやう。おれは、もう、」
「おれは、もう、どんなに嬉しいか、いつそ、男泣きに泣いてみたいくらゐだ。」


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