太宰治 『お伽草紙』 「ふつつかながら。」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『お伽草紙』

現代語化

「あ、やぁ!」
「ボク、阿波の鳴門でこの夏を過ごしてる坊さんなんだ。ここって平家一族が滅びた場所だから、夜な夜な海辺で経文読んでるんだ。んで、さっき、岩場でちょっと休んでたら、夜なのに白波に船の音が聞こえてきて、鳴門の水音だけが響いて、静かな夜だったよ。毎日がこんな風なんだろうな。」
「ちょ、待って!」
「今逃げられたら困るよ。」
「逃げろ、鍾馗かもしれないぞ。」
「鍾馗じゃないんです。」
「お願いがあるんです。このコブ、どうにか取ってください。」
「なに、コブ?」
「ああ、こないだのおじいさんから預かった大事なコブなんですけど、あなたがそんなに欲しいなら譲ってもいいです。でも、その踊りはやめてくださいよ。酔っ払いがさめちまう。お願い、放してください。これからまた飲みに行かなきゃいけないんです。どうか、放してください。誰か、このコブをこないだのおじいさんに返してあげて。欲しいんだって。」

原文 (会話文抽出)

「ふつつかながら。」
「是は阿波の鳴門に一夏を送る僧にて候。さても此浦は平家の一門果て給ひたる所なれば痛はしく存じ、毎夜此磯辺に出でて御経を読み奉り候。磯山に、暫し岩根のまつ程に、暫し岩根のまつ程に、誰が夜舟とは白波に、楫音ばかり鳴門の、浦静かなる今宵かな、浦静かなる今宵かな。きのふ過ぎ、けふと暮れ、明日またかくこそ有るべけれ。」
「待つて下さい!」
「いま逃げられては、たまりません。」
「逃げろ、逃げろ。鍾馗かも知れねえ。」
「いいえ、鍾馗ではございません。」
「お願ひがございます。この瘤を、どうか、どうかとつて下さいまし。」
「何、瘤?」
「なんだ、さうか、あれは、こなひだの爺さんからあづかつてゐる大事の品だが、しかし、お前さんがそんなに欲しいならやつてもいい。とにかく、あの踊りは勘弁してくれ。せつかくの酔ひが醒める。たのむ。放してくれ。これからまた、別なところへ行つて飲み直さなくちやいけねえ。たのむ。たのむから放せ。おい、誰か、この変な人に、こなひだの瘤をかへしてやつてくれ。欲しいんださうだ。」


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