太宰治 『乞食学生』 「何も、そんなに卑下して見せなくたって、い…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『乞食学生』

現代語化

「そんなに卑下しなくていいじゃないか」
「ごめんよ。君は知ってるね。僕は恥ずかしかったんだ。本当のことをどうしても言えなかったんだ。でも、僕は嘘つきじゃない。たった1つだけ嘘をついたんだ。映画の会は一昨日やったんだ。僕は説明しちゃったんだ。だから、僕は一昨日の夜、会が終わってから制服も靴も売り払って、街でビールを飲んで、お巡りさんにみつかって、それから――」
「わかってる」
「君に罪はないんだ。みんな話の流れだ。僕がそそっかしいんだよ。君は最初から僕が渋谷へ行くのをいやがってたんだものね」
「うん」
「言い直す暇がなかったんだよ。僕は、なんにしても、映画の説明なんて、そんなだらしないことをやったとは、言えなかったんだよ。だから、ね」
「そこのところを嘘ついちゃったんだよ。ごめんね。留置場に入れられたことを君に言うと、君に嫌われると思ったんだ。僕はだめなんだよ。葉山にも今までお世話になってるし、映画説明なんてばかばかしいとは思ったけど、最後のお礼のつもりで、一昨日の晩、大勢の女の子の前でやっちゃったんだよ。やってから、いけないと思った。もう僕はだめになったと思った。見込みのない男だと思った。僕にもビール1杯ください。僕は今は嬉しいんだ。なんだかぞくぞく嬉しいんだ。木村君、君は偉い人だね。君みたいに何も気取らないで僕たちと一緒に心配したりしょげたりしてくれると、僕たちにはなんだか勇気が出てくるんだ。このままではいられないと思うんだ。勉強しようと、心から思うようになるんだ。僕は心の弱さを隠さない人を信頼する」
「乾杯だ!熊本も立て。喜びのための一杯のビールは罪悪じゃない。悲しみ、苦悩を消すための杯は恥じよ!」
「では、ほんの一杯だけ」
「僕は事情をよく知らないのですからね、ほんのお付き合いですよ」
「事情なんかどうだっていいじゃないか。僕の出発を君は喜んでくれないのか?君はエゴイストだ」
「いや、違います」
「僕は物事を綿密に考えてみたいんだ。納得できない祝宴には同調しません。僕は科学的なんです」
「ちぇっ!」
「自分を科学的という奴は、きまって科学を知らないんだ。科学への迷信的な憧れだ。無学者の証拠さ」
「やめて、やめて」
「熊本君は照れてるんだ。君の遠慮のない感激ぶりに閉口したんだ。知識人のデリケートさなんだよ」
「古いタイプのね」
「乾杯します」
「僕はビールを飲むとくしゃみが出るんです。僕はそのことを科学的と言ったんです」
「正確だ」

原文 (会話文抽出)

「何も、そんなに卑下して見せなくたって、いいじゃないか。」
「ごめんよ。君は知っているね。僕は、恥ずかしかったんだ。本当の事を、どうしても言えなかったんだ。でも、僕は嘘つきじゃない。たった一つだけ嘘を言ったんだ。映画の会は、おととい、やっちゃったんだ。僕は、説明しちゃったんだ。だから、僕は、おとといの夜、会が済んでから制服も靴も売り払って、街でビイルを飲んで、お巡りさんに見つかって、それから、――」
「わかってる。」
「君に罪は無いんだ。みんな話の行きがかりだ。僕が、そそっかしいんだよ。君は、はじめから僕が渋谷へなど来るのをいやがっていたんだものね。」
「うん、」
「言い直すひまが無かったんだよ。僕は、なんぼ何でも、映画の説明なんて、そんなだらし無い事を、やっちゃったとは、言えなかったんだよ。だから、ね、」
「そこんところを、嘘ついちゃったんだよ。ごめんね。留置場へ入れられた事なんかを君に言うと、君に嫌われると思ったんだ。僕は、だめなんだよ。葉山にも、いままでお世話になっているんだし、映画説明なんてばからしいとは思ったけれど、最後のお礼のつもりで、おとといの晩、大勢の女の子の前でやっちゃったんだよ。やっちゃってから、いけないと思った。もう僕は、だめになったと思った。見込みの無い男だと思った。僕にもビイルを一ぱい下さい。僕は、いまは嬉しいのだ。何だか、ぞくぞく嬉しいのだ。木村君、君は、偉い人だね。君みたいに、何も気取らないで、僕たちと一緒に、心配したり、しょげたりしてくれると、僕たちには、何だか勇気が出て来るのだ。こうしては居られないと思うんだ。勉強しようと、しんから思うようになるんだ。僕は、心の弱さを隠さない人を信頼する。」
「乾杯だ! 熊本も立て。喜びのための一ぱいのビイルは罪悪で無い。悲しみ、苦悩を消すための杯は、恥じよ!」
「では、ほんの一ぱいだけ。」
「僕は事情をよく知らんのですからね、ほんのお附合いですよ。」
「事情なんか、どうだっていいじゃないか。僕の出発を、君は喜んでくれないのか? 君は、エゴイストだ。」
「いや、ちがいます。」
「僕は、物事を綿密に考えてみたいんだ。納得出来ない祝宴には附和雷同しません。僕は、科学的なんです。」
「ちえっ!」
「自分を科学的という奴は、きまって科学を知らないんだ。科学への、迷信的なあこがれだ。無学者の証拠さ。」
「よせ、よせ。」
「熊本君は、てれているんだ。君の、おくめんも無い感激振りに辟易したんだ。知識人のデリカシイなんだよ。」
「古い型のね。」
「乾杯します。」
「僕は、ビイルを飲むと、くしゃみするんです。僕は、その事を科学的と言ったんです。」
「正確だ。」


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