太宰治 『乞食学生』 「五一郎君、」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『乞食学生』

現代語化

「五一郎君」
「僕は君を責めるんじゃないよ。人を責める資格は僕にはないんだ」
「責めたっていいじゃないか」
「君はいつでも自己弁解ばかりしてるね。僕たちはもう、大人の自己弁解には聞き飽きてるんだ。誰も彼も、おどおどしてるじゃないか。一も二もなく僕たちを叱りとばせば、それでいいんだ。大人のくせに、愛だの理解だのって甘ったるいことばかり言って子どもの機嫌を取ってるじゃないか。いやらしいぞ」
「それじゃあ、まあ、そうだね」
「君のその、主張せざるを得ない内心の怒りには共感できるが、その主張の言葉には間違いがあるね。わかるかね。大人も子供も、同じものなんだよ。体が少し汚くなってるだけだ。子供が大人に期待してるように、大人もそれと同様に君たちを頼りにしているものなんだ。だらしない話さ。でもそれは本当なんだ。力と、頼りにしているんだ」
「信じられませんね」
「君たちだってずるいんだ。だらしないぞ」
「少し優しくするとすぐ程度を越えていい気になるし、ちょっと強く言おうと思うと、言われる前から泣きべそをかいて逃げたがるじゃないか。君たちに自信を持ってもらいたくて、愛だの理解だのと遠回しに言ってるのに、君たちはそれを軽蔑する。君たちがもう少し強かったら、それは安心して叱りとばすこともできるんだ。君たちさえ――」
「水掛け論だ」
「くだらない。そんな言い古されたことを僕たちは考えてるんじゃないよ。しっかりした人間とはどんなものだか、それを見せてもらいたいんだ」
「そうですね」
「酒を飲む人の話は信用できませんからね」
「僕はだめだ」
「でも僕は絶望してないんだ。酒だってたまにしか飲まないんだ。冷水摩擦だって毎日やってるんだ」
「青年よ、若き日のうちに享楽せよ!」
「青春は空に過ぎず、しかして弱冠は無知に過ぎず」
「ああ、残念!あの狂おしい青春の頃に、我もし学にいそしみ、風習のよろしき社会にこの身を寄せていたならば、今頃は家も持ち得て快き寝床もあろうに。ばかばかしい。悪童のごとく学び舎を叛き去った。今そのことを思い出す時、わが胸は張り裂けるばかりの思いがする!」

原文 (会話文抽出)

「五一郎君、」
「僕は、君を、責めるんじゃないよ。人を責める資格は、僕には無いんだ。」
「責めたっていいじゃないか。」
「君は、いつでも自己弁解ばかりしているね。僕たちは、もう、大人の自己弁解には聞き厭きてるんだ。誰もかれも、おっかなびっくりじゃないか。一も二も無く、僕たちを叱りとばせば、それでいいんだ。大人の癖に、愛だの、理解だのって、甘ったるい事ばかり言って子供の機嫌をとっているじゃないか。いやらしいぞ。」
「それあ、まあ、そうだがね。」
「君の、その主張せざるを得ない内心の怒りには、同感出来るが、その主張の言葉には、間違いが在るね。わかるかね。大人も、子供も、同じものなんだよ。からだが少し、薄汚くなっているだけだ。子供が大人に期待しているように、大人も、それと同じ様に、君たちを、たのみにしているものなのだ。だらしの無い話さ。でも、それは本当なんだ。力と、たのんでいるのだ。」
「信じられませんね。」
「君たちだって、ずるいんだ。だらし無いぞ。」
「少し優しくすると、すぐ、程度を越えていい気になるし、ちょっと強く言おうと思うと、言われぬ先から、泣きべそをかいて逃げたがるじゃないか。君たちに自信を持ってもらいたくて、愛だの、理解だのと遠廻しに言っているのに、君たちは、それを軽蔑する。君たちが、も少し強かったら、それは安心して叱りとばしてやる事も出来るんだ。君たちさえ、――」
「水掛け論だ。」
「くだらない。そんな言い古された事を、僕たちは考えているんじゃないよ。しっかりした人間とは、どんなものだか、それを見せてもらいたいんだ。」
「そうですね。」
「酒を飲む人の話は、信用出来ませんからね。」
「僕は、だめだ。」
「けれども僕は、絶望していないんだ。酒だって、たまにしか飲まないんだ。冷水摩擦だって、毎日やっているんだ。」
「青年よ、若き日のうちに享楽せよ!」
「青春は空に過ぎず、しかして、弱冠は、無知に過ぎず。」
「ああ、残念! あの狂おしい青春の頃に、我もし学にいそしみ、風習のよろしき社会にこの身を寄せていたならば、いま頃は家も持ち得て快き寝床もあろうに。ばからしい。悪童の如く学び舎を叛き去った。いま、そのことを思い出す時、わが胸は、張り裂けるばかりの思いがする!」


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