太宰治 『乞食学生』 「里見八犬伝は、立派な古典ですね。日本的ロ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『乞食学生』

現代語化

「里見八犬伝は立派な古典ですね。日本のロマンの」
「元祖ですね」
「確かに、そんなところもありますね」
「僕は最近また、ぼちぼち読み直しているんですけれども」
「へへ」
「君は、どうしてそんな、ぼちぼち読み直しているなんて嘘ばかり言うんだね?いつでも必ずそう言うじゃないか。読み始めた、と言ったっていいと思うけど」
「軽蔑しないでください」
「里見八犬伝を、初めて読む人なんていないよ。読み直しているのに違いない」
「熊本君」
「制服と帽子?あの、僕の制服と帽子ですか?」
「佐伯君、僕は不愉快です。僕をあまり軽蔑しないでください。いったい、この人は何ですか?」
「いやならやめろよ」
「無理に頼むわけじゃないんだ。君こそ失礼だよ。そこにいる人はいい人なんだ。君みたいなエゴイストじゃないんだ」
「いや、いや」
「僕だってエゴイストです。佐伯君がいやだと言うのを僕が無理を言って、ここに連れてきてもらったのですから。事情を言ってもいいけど、とにかく僕から頼むのです。一晩だけ貸してください。明日の朝早く、必ずお返しします」
「勝手につかってください。僕は知りません」
「そうだよ。僕はどうなったっていいんだ」
「それじゃあダメです」
「君は、今になってそんなことを言い出すのは卑怯です。それじゃまるで、僕が君にからかわれて、ここまでやってきたみたいだ」
「どうしたんです?」
「佐伯君がまた何か始めたのですか?深い事情があるようですね」
「もういいんだ。僕は熊本なんかにものを頼みたくないんだ」
「僕は帰ります」
「待て、待て」
「君には帰るところはないはずだ。熊本君だって制服を貸さないとは言っていないんだ。君はだだっ子だと言われても仕方がないよ」
「そうですとも。だだっ子と言われても仕方がありませんとも。僕は貸さないとは言っていないんですからね。僕はエゴイストじゃありません」
「お気に召しますか、どうですか?」
「いや、結構です」
「ここで失礼して、着替えます」

原文 (会話文抽出)

「里見八犬伝は、立派な古典ですね。日本的ロマンの、」
「元祖ですね。」
「たしかに、そんなところもありますね。」
「僕は最近また、ぼちぼち読み直してみているんですけれども。」
「へへ、」
「君は、どうしてそんな、ぼちぼち読み直しているなんて嘘ばかり言うんだね? いつでも、必ずそう言うじゃないか。読みはじめた、と言ったっていいと思うがね。」
「軽蔑し給うな。」
「里見八犬伝を、はじめて読む人なんか無いよ。読み直しているのに違いない。」
「熊本君。」
「制服と帽子? あの、僕の制服と帽子ですか?」
「佐伯君、僕は不愉快ですよ。僕を、あまり軽蔑しないで下さい。いったい、この人は、なんですか?」
「いやなら、よせ。」
「無理に頼むわけじゃないんだ。君こそ失礼だぞ。そこにいる人は、いい人なんだ。君みたいなエゴイストじゃないんだ。」
「いや、いや。」
「僕だって、エゴイストです。佐伯君がいやだというのを僕が無理を言って、ここへ連れて来てもらったのですから。事情を申し上げてもいいんだけど、とにかく、僕から頼むのです。一晩だけ貸して下さい。あしたの朝早く、必ずお返し致します。」
「勝手にお使い下さい。僕は、存じません。」
「よそうよ。僕は、どうなったって、いいんだ。」
「それあ、いかん。」
「君は、今になって、そんな事を言い出すのは、卑怯だ。それじゃ、まるで、僕が君にからかわれて、ここまでやって来たようなものだ。」
「なんですか。」
「佐伯君が、また何か、はじめたのですか? 深い事情があるようですね。」
「もういいんだ。僕は、熊本なんかに、ものを頼みたくないんだ。」
「僕は、帰るぞ。」
「待て、待て。」
「君には、帰るところは無い筈だ。熊本君だって、制服を貸さないとは言ってないんだ。君は、だだっ子と言われても仕様が無いよ。」
「そうですとも。だだっ子と言われても仕様が無いですとも。僕は、お貸ししないとは言ってないんですからね。僕はエゴイストじゃありません。」
「お気に召しますか、どうですか。」
「いや、結構です。」
「ここで失礼して、着換えさせていただきます。」


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