GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 太宰治 『乞食学生』
現代語化
「まあ、そうだ」
「僕の地元の先輩なんだ。地元の先輩なんて、おかしいもんだよ。同じ訛りがあるだけさ。僕はその人からお金をもらって、いや、ただもらってたわけじゃないんだ。僕は教えてたんだ」
「教えながら教わってたのかね」
「女学校3年の娘が1人いるんだ。団子みたいだ。美人じゃない」
「淡い恋か」
「ばか言うな」
「僕にはプライドがあるんだ。このごろ、どんどんあいつが、僕を小使いみたいに扱ってきたんだよ。奥さんも悪いんだがね。とうとう昨日我慢できなくなって――」
「僕はそんな話つまらないよ。世間の常識でしかない。歩くと疲れる、みたいな話と同じだ」
「君はボンボン育ちだな。人からお金をもらう辛さを知らないんだ」
「常識的だっていい。そんなありきたりな苦しみは知らないよ」
「僕もそれや知ってるつもりだけどね。当たり前だ。胸にしまって言わないだけだ」
「それじゃあ君は映画の説明ができるのか?」
「映画の説明?」
「そうだ。娘が、この春休みに北海道に旅行に行って、それで16ミリっていうのか、北海道の風景をいっぱい撮影してきたんだって。すごく長いフィルムだ。僕もちょっと見せてもらったけど、ドタバタの実写だよ。今度それを葉山さんのサロンで公開するんだって。いわゆるお友達を集めてね。でも、そのつまらない映画を説明する役をやって、客の機嫌を取るのが、僕の役目なんだそうだ」
「それはいいじゃないか」
「いいじゃないか。北海道の春は、まだ浅く――」
「本気で言ってるのか?」
「僕なら、平気でやっちゃうけどね。自分の優位性を感じてる奴だけ、本当の意味での道化になれるんだ。そんなことで怒って、制服を売り飛ばすなんて、意味ないよ。ヒステリーだ。どうにもならないから、川に飛び込んで泳いだりして、センチメンタルぶってるみたいじゃないか」
「傍観者なら、なんとでも言えるさ。僕はできない。君は嘘つきだ」
「じゃあ、これから君は、どうするつもりなんだい。当たり前じゃないか。いつまでも川で泳いでるつもりなのか。帰るしかないんだ。元の生活に戻るんだ。助言しとくよ。君は自分の幼稚な正義感に甘えてるんだ。映画の説明、やればいいよ。なんだ、たった1晩の屈辱じゃないか。堂々とやればいい。僕だって代わってやってもいいくらいだ」
「君にできるわけないだろ」
「できるよ。できるよ」
原文 (会話文抽出)
「代議士なんてのは、知らないね。金持なのかい?」
「まあ、そうだ。」
「僕の郷土の先輩なんだ。郷土の先輩なんて、可笑しなものさ。同じお国訛があるだけさ。僕は、その人からお金をもらって、いや、ただもらっていたわけじゃ無いんだ。僕は、教えていたんだ。」
「教えながら教わっていたのかね。」
「女学校三年の娘がひとりいるんだ。団子みたいだ。なっちゃいない。」
「ほのかな恋愛かね。」
「ばか言っちゃいけない。」
「僕には、プライドがあるんだ。このごろ、だんだんそいつが、僕を小使みたいに扱って来たんだよ。奥さんも、いけないんだがね。とうとう、きのう我慢出来なくなっちゃって、――」
「僕は、つまらないんだよ、そういう話は。世の中の概念でしか無い。歩けば疲れる、という話と同じ事だ。」
「君は、お坊ちゃん育ちだな。人から金をもらう、つらさを知らないんだ。」
「概念的だっていい。そんな、平凡な苦しさを君は知らないんだ。」
「僕だって、それや知っているつもりだがね。わかり切った事だ。胸に畳んで、言わないだけだ。」
「それじゃ君は、映画の説明が出来るかね?」
「映画の説明?」
「そうさ。娘が、この春休みに北海道へ旅行に行って、そうして、十六ミリというのかね、北海道の風景を、どっさり撮影して来たというわけさ。おそろしく長いフィルムだ。僕も、ちょっと見せてもらったがね。しどろもどろの実写だよ。こんどそれを葉山さんのサロンで公開するんだそうだ。所謂、お友達、を集めてね。ところが、その愚劣な映画の弁士を勤めて、お客の御機嫌を取り結ぶのが、僕の役目なんだそうだ。」
「それあいい。」
「いいじゃないか。北海道の春は、いまだ浅くして、――」
「本気で言ってるのかね?」
「僕なら、平気でやってのけるね。自己優越を感じている者だけが、真の道化をやれるんだ。そんな事で憤慨して、制服をたたき売るなんて、意味ないよ。ヒステリズムだ。どうにも仕様がないものだから、川へ飛びこんで泳ぎまわったりして、センチメンタルみたいじゃないか。」
「傍観者は、なんとでも言えるさ。僕には、出来ない。君は、嘘つきだ。」
「じゃ、これから君は、どうするつもりなんだい。わかり切った事じゃないか。いつまでも、川で泳いでいるつもりなのか。帰るより他は無いんだ。元の生活に帰り給え。僕は忠告する。君は、自分の幼い正義感に甘えているんだ。映画説明を、やるんだね。なんだい、たった一晩の屈辱じゃないか。堂々と、やるがいい。僕が代ってやってもいいくらいだ。」
「君に、出来るものか。」
「出来るとも。出来るよ。」