太宰治 『乞食学生』 「とにかく立たないか。君に、言いたい事があ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『乞食学生』

現代語化

「とにかく起きないか。君に言いたいことがあるんだ」
「怒ってるの?しょうがないなあ。弱い者いじめはやめてよ」
「俺の方が弱いのかもしれない。どっちがどうだか分からない。とにかく起きて服着て」
「へぇ、マジで怒ってるんだ。じゃ、座りましょうか」
「服なんてないよ」
「嘘つくな。貧乏自慢。安っぽい自己顕示だ。さっさと靴履いて、俺と一緒に来い」
「靴なんてないよ。売っちゃったんだ」
「お前、まさか」
「昨日まではあったよ。要らなくなったから、売っちゃった。シャツならあるよ」
「裸でここまで来られるわけないだろ。俺の寮は本郷なんだぜ。ばかだな、お前」
「裸足で来たわけじゃないよ」
「ああ、陸の上は不便だな」
「バイロンは、水泳してる間だけ、自分の足を意識しなくてよかったんだ。だから水の中にいることを好んだのさ。本当に、本当に、水の中では靴も要らない。服も要らない。貧乏も金持ちも関係ないんだ」
「お前はバイロンかい」
「お前は足も悪くないじゃないか。それに、人間は水の中にばかりいられるわけじゃない」
「嫉妬だ。妬んでるんだよ、お前」
「年老いたポンコツは、若い才能に出会うと、落ち着かなくなるものさ。否定しつくすまでは我慢できないんだ。ヒステリー起こすんだからしょうがない。話があるんなら、聞くよ。だらしないなあ、お前。俺をどこかに連れて行こうってわけ?」

原文 (会話文抽出)

「とにかく立たないか。君に、言いたい事があるんだ。」
「怒ったのかね。仕様がねえなあ。弱い者いじめを始めるんじゃないだろうね。」
「僕のほうが、弱い者かも知れない。どっちが、どうだか判ったものじゃない。とにかく起きて上衣を着たまえ。」
「へん、本当に怒っていやがる。どっこいしょ。」
「上衣なんて、ありやしない。」
「嘘をつけ。貧を衒う。安価なヒロイズムだ。さっさと靴をはいて、僕と一緒に来たまえ。」
「靴なんて、ありやしない。売っちゃったんだよ。」
「君は、まさか、」
「きのう迄は、あったんだよ。要らなくなったから、売っちゃった。シャツなら、あるさ。」
「はだかで、ここまで来られるものか。僕の下宿は本郷だよ。ばかだね、君は。」
「はだしで来たわけじゃ、ないだろうね。」
「ああ、陸の上は不便だ。」
「バイロンは、水泳している間だけは、自分の跛を意識しなくてよかったんだ。だから水の中に居ることを好んだのさ。本当に、本当に、水の中では靴も要らない。上衣も要らない。貴賤貧富の別が無いんだ。」
「君はバイロンかい。」
「君は跛でもないじゃないか。それに、人間は、水の中にばかり居られるものじゃない。」
「嫉妬さ。妬けているんだよ、君は。」
「老いぼれのぼんくらは、若い才能に遭うと、いたたまらなくなるものさ。否定し尽すまでは、堪忍できないんだ。ヒステリイを起しちゃうんだから仕様が無い。話があるんなら、話を聞くよ。だらしが無いねえ、君は。僕を、どこかへ引っぱって行こうというのか?」


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