太宰治 『HUMAN LOST』 「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『HUMAN LOST』

現代語化

「金魚も、ただ飼うだけじゃ、1ヶ月も生きられないよ。」
「リアルだよね。」
「何がリアルなの?蓮の花が咲くときに音がするかしないか、それが大問題だって、それがリアルなの?」
「違うよ。」
「ナポレオンも風邪を引くし、乃木将軍も嫁が好きで、クレオパトラもウンチをする、そういうのがきみが言うリアルでしょ?」
「さらに聞こうか。太宰が泣いて原稿を買ってくださいって頼んだり、チェーホフが出版社の敷居をすり減らして売り込みに行ったり、ゴーリキーがレーニンに簡単に従ったり、プルーストが出版社に三拝九拝の手紙を送ったり、これがきみがリアルっていうの?」
「バカだな。きみは自分の人生を全部使って、家族を忘れて苦しんで、一度持った旗を捨てられなくて、雨風に耐えて、ただ上へ上へって進んでる。もう半死半生の旗手の耳に、妻を思い出せって、佐々木が宇治川で典をねらってることに気づけばいいんだよ。名誉に執着してるんじゃなくて、運命に従ってるだけ、決まった義務なんだ。川から這い上がって、目がくらんでても必死に門にしがみついて、よじ登って、ちょっと花が咲きかけた人の命を、寄せ、寄せて、芝居だって鼻で笑って、足を引っ張って、泥の中に引きずり落とすのがリアルかっていうんだ。」
「リアルってのは、きみみたいに、ちっちゃいものを大きく騒がずに、ちゃんと正確に指さすことなんだよ。」
「バカだな。きみは認識論とか弁証法とか勉強したんだろ?俺が講義してやってもいいけど、今の若い奴らは、リアル、リアルって青臭い言葉でごまかして、自分の机にしがみついて、唯物論的弁証法入門でも読んで、10ページくらい線を引いてから、もう一度話し合おう。」

原文 (会話文抽出)

「金魚も、ただ飼い放ち在るだけでは、月余の命、保たず。」
「リアル」
「何を以てか、リアルとなす。蓮の開花に際し、ぽんと音するか、せぬか、大問題、これ、リアルなりや。」
「否。」
「ナポレオンもまた、風邪をひき、乃木将軍もまた、閨を好み、クレオパトラもまた、脱糞せりとの事実、これこそは君等のいうリアルならむ。」
「更に問わむ、太宰もまた泣いて原稿を買って下さい、とたのみ、チエホフも扉の敷居すりへって了うまで、売り込みの足をはこんだ、ゴリキイはレニンに全く牛耳られて易々諾々のふうがあった、プルウストのかの出版屋への三拝九拝の手紙、これをこそ、きみ、リアルというか。」
「愚なる者よ。きみ、人その全部の努力用いて、わが妻子わすれむと、あがき苦しみつつ、一度持たせられし旗の捨てがたくして、沐雨櫛風、ただ、ただ上へ、上へとすすまなければならぬ、肉体すでに半死の旗手の耳へ、妻を思い出せよ、きみ、私め、かわってもよろしゅうございますが、その馬の腹帯は破れていますよと、かの宇治川、佐々木のでんをねらっていることに、気づくがよい。名への恋着に非ず、さだめへの忠実、確定の義務だ。川の底から這いあがり、目さえおぼろ、必死に門へかじりつき、また、よじ登り、すこし花咲きかけたる人のいのちを、よせ、よせ、芝居は、と鼻で笑って、足ひっつかんで、むざん、どぶどろの底、ひきずり落すのが、これが、リアルか。」
「リアルとは、君の様に、針ほどのものを、棒、いや、門柱くらいに叫び騒がずして、針は、針、と正確に指さし示す事なり。」
「愚かや、君は、かの認識の法を、研究したにちがいない。また、かの、弁証法をも、学びたるなるべし。われ、かのレクチュアをなす所存なけれど、いまの若き世代、いまだにリアル、リアル、と穴てんてんの青き表現の羅紗かぶせたる机にしがみつき、すがりつき、にかわづけされて在る状態の、『不正。』に気づくべき筈なのに、帰りて、まず、唯物論的弁証法入門、アンダラインのみを拾いながらでもよし、まず、十頁、読み直せ。お話は、それから、再びし直そう。」


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