GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 太宰治 『火の鳥』
現代語化
「君が好きです」
「須々木乙彦、というのは、あなたの親戚なんですってね？」
「従兄弟です」
「どんな男です」
「僕の、僕たちの、――」
「英雄ですか？」
「いいえ。愛人です。いのちの糧です」
「ああ、それはいい」
「俺は、今年28だよ。17の年から給仕をして、人を疑うことばかり覚えてきた。君たちは、いいなあ」
「ボーズですよ、僕たちは」
「でも、ボーズの奥にも、いのちはある。冷い気取りは、最高の愛情だ。僕は、須々木さんを見て、いつも、それを感じていました」
「俺だって、いのちの糧を持っている」
「存じています」
「一言もない。俺は、もともと賤民さ。たかだか一個の肉体を、肉体だけを、」
「あなたは、あの女を、どう思いますか？」
「気の毒な人だと思っています」
「それだけですか？いや、ここだけの話ですけれども、ね。奇妙な、何か、感じませんか？」
「それごらん」
「やっぱりそうだ。だけど、あなたは、まだいい。たった一日だ。俺は、かれこれ、一年になります。365日。そうだ。あなたの365倍も、俺はあの女に苦しめられてきたのです。いや、あの女には、罪はない。それは、あの人の知らないことだ。罪は、俺の下劣な血の中にあります。笑ってください。俺は、あの女に勝ちたい。あの人の肉体を、完全に、欲しい。それだけなんだ。俺は、あの人に、ずいぶんひどく軽蔑されてきました。憎悪されてきた。けれども、俺には、俺の、念願があるのだ。今に、俺は、あの人に、俺の子供を生ませてやります。玉のような女の子を、生ませてやります。いかがです。復讐なんかじゃ、ないんだぜ。そんなけちなことは、考えていない。そいつは、俺の愛情だ。それこそ愛の最高の表現です。ああ、そのことを思うだけでも、胸が裂ける。狂うようになってしまいます。わかるかね。われわれ賤民の言うことが」
「こんどの須々木乙彦とのことは、許す。一度だけは、許す。俺は、今、ずいぶんバカにされた立場にある。俺にだって、それは、わかっている。腹わたが煮えくりかえるようだってのは、これは、まさしく実感だね。けれども俺は、俺を軽蔑する女を、そんな虚傲の女を、たまらなく好きなんだ。蝶々のように美しい。因果だね。うんと虚傲になるがいい。どうです、これからも、あの女と、遊んでやってくれませんか。それは、俺から、頼むのだ。卑屈からじゃない。俺は、もともと高尚な人間を、好きなんだ。讃美する。君は、とてもいい。素晴らしい。皮肉でも、いやみでも、なんでもない。君みたいないい人と、おとなしく遊んでいれば、大丈夫、あいつは、もっと、か弱く、美しくなる。そいつは、確かだ」
「あいつを、美しくしてください。俺の、とても手の届かないような素晴らしい女にしてください。ね、頼む。あいつには、あなたが、絶対に必要なんだ。俺の直感に狂いはない。畜生め。俺にだって、誇りがある。俺は、地べたに落ちた柿なんか、食いたくねえんだ」
原文 (会話文抽出)
「すこし、君に、話したいことがあるのだけれど、なに、ちょっとでいいのです。つき合って呉れませんか。おれだって、――」
「君を好きです。」
「須々木乙彦、というのは、あなたの親戚なんですってね？」
「いとこですが。」
「どんな男です。」
「僕の、僕たちの、――」
「英雄ですか？」
「いいえ。愛人です。いのちの糧です。」
「ああ、それはいい。」
「おれは、ことし二十八だよ。十七のとしから給仕をして、人を疑うことばかり覚えて来た。君たちは、いいなあ。」
「ポオズですよ、僕たちは。」
「でも、ポオズの奥にも、いのちは在る。冷い気取りは、最高の愛情だ。僕は、須々木さんを見て、いつも、それを感じていました。」
「おれだって、いのちの糧を持っている。」
「存じて居ります。」
「一言もない。おれは、もともと賤民さ。たかだか一個の肉体を、肉体だけを、」
「あなたは、あの女を、どう思いますか？」
「気の毒な人だと思っています。」
「それだけですか？ いや、ここだけの話ですけれども、ね。奇妙な、何か、感じませんか？」
「それごらん。」
「やっぱりそうだ。だけど、あなたは、まだいい。たった一日だ。おれは、かれこれ、一年になります。三百六十五日。そうだ。あなたの三百六十五倍も、おれはあの女に苦しめられて来たのです。いや、あの女には、罪はない。それは、あのひとの知らないことだ。罪は、おれの下劣な血の中に在る。笑って呉れ。おれは、あの女に勝ちたい。あの人の肉体を、完全に、欲しい。それだけなんだ。おれは、あの人に、ずいぶんひどく軽蔑されて来ました。憎悪されて来た。けれども、おれには、おれの、念願があるのだ。いまに、おれは、あの人に、おれの子供を生ませてやります。玉のような女の子を、生ませてやります。いかがです。復讐なんかじゃ、ないんだぜ。そんなけちなことは、考えていない。そいつは、おれの愛情だ。それこそ愛の最高の表現です。ああ、そのことを思うだけでも、胸が裂ける。狂うようになってしまいます。わかるかね。われわれ賤民のいうことが。」
「こんどの須々木乙彦とのことは、ゆるす。いちどだけは、ゆるす。おれは、いま、ずいぶんばかにされた立場に在る。おれにだって、それは、わかっています。はらわたが煮えくりかえるようだってのは、これは、まさしく実感だね。けれどもおれは、おれを軽蔑する女を、そんな虚傲の女を、たまらなく好きなんだ。蝶々のように美しい。因果だね。うんと虚傲になるがいい。どうです、これからも、あの女と、遊んでやって呉れませんか。それは、おれから、たのむのだ。卑屈からじゃない。おれは、もともと高尚な人間を、好きなんだ。讃美する。君は、とてもいい。素晴らしい。皮肉でも、いやみでも、なんでもない。君みたいないい人と、おとなしく遊んで居れば、だいじょうぶ、あいつは、もっと、か弱く、美しくなる。そいつは、たしかだ。」
「あいつを、美しくして下さい。おれの、とても手のとどかないような素晴らしい女にして下さい。ね、たのむ。あいつには、あなたが、絶対に必要なんだ。おれの直感にくるいはない。畜生め。おれにだって、誇があらあ。おれは、地べたに落ちた柿なんか、食いたくねえのだ。」