海野十三 『断層顔』 「で、その男をどう処置すれば、ご満足行くの…

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「で、その男をどうすれば満足できますか、奥さん?」
「私に付きまとわないように……私の目から完全に消えるように、約束させてください」
「その男に約束させるか、その男を殺すかですね。奥さんはどっちを……」
「あの、お金なら多少持っています」
「――ただし、完全に処理されることが条件です」
「彼に死を与えるか、それとも完全に約束させるかのどっちかですが、彼が完全に約束を守るような男かどうか――ああ、それについて、そもそもあの男は奥さんとどういう関係なんですか?教えてください……」
「今まで何も関係がなかったんです。見たこともない人でした。あんな醜く歪んだ顔の人を一度でも見たら、忘れないはずなのに。なのに私は今、あの化け物みたいな男によく狙われるんです。ああ、いやだ。怖い。おかしくなりそう……」
「それなら警察に訴えて、説諭してもらうのが一番普通だと思いますが」
「何をおっしゃるんです。警察があなたちのために何をしてくれるんですか?ただかき回して、私たちをイライラさせて、世間にもさらすだけで、私の求めることは何も叶わないんです。ごめんなさい。私は直接的な効果がある方法を取るんです。それが賢いからです。あなたさまは、秘密をよく守ってくれて、あまり質問せずに、大胆に解決策をすぐに実行してくれて、依頼者の味方になってくれると評判なので、お願いに来たんです。世間の評判はちょっと違っていたようですけど」
「過分なお言葉です。とりあえず依頼を引き受けますが、一つだけ失礼な質問させてください。ご主人との仲は良好ですか?」
「はい、すごくいいです……夫は私をとても愛してくれて、大切にしています」
「あなたの方はいかがですか、ご主人に……」
「それは……」
「奥さんもご主人を愛していますね。それは確かですね」
「ご主人と結婚したのはいつでしたか?」
「3ヶ月前です」
「失礼ですが、結婚はだいぶ遅かったんですね。それまでは誰かと付き合っていたんですか?」
「私の夫は碇曳治です。桝形探険隊の一員です。そう言えばわかると思いますが、桝形探険隊は6年前の昭和46年の夏に火星探査に出発して、地球を離れて5年以上経って、今年の秋に地球に戻ってきました。これだけで、私が今回初めて結婚したことを信じていただけると思いますが、どうでしょうか?実際、私はあの人と付き合ってから6年間という長い間、孤独に耐えてきました」
「碇曳治って言いましたね」

原文 (会話文抽出)

「で、その男をどう処置すれば、ご満足行くのでございますか、奥様」
「あたくしをつけ廻さないように……あたくしの眼界から完全に消えてしまうように、きまりをつけていただきたいのでございます」
「その男に約束させるか、その男を殺すかですね。奥様はどっちを……」
「あのう、お金なら多少持っていますの」
「――しかし事は完全に処置されることを条件といたします」
「彼に死を与えるか、それとも完全に約束させるかのどっちかですが、果して彼が完全に約束を守るような男かどうか――おお、それについて、一体、かの男は奥様とどういうご関係の人物であるか、それについてお話し願いたいのですが……」
「今までに何の関係もなかった男なんでございますの。これまで全然見たこともなかった人でございますの。あんな醜い歪んだ顔の人を、これまでに一度でも見たことがあれば、忘れるようなことはございませんもの。それなのに、あたくしは今、あの化物みたいな男にしょっちゅうつけ狙われているんでございます。ああ、いやだ。おそろしい。気が変になりそう……」
「そういう次第なら、警察へ訴えて、かの男に説諭して貰うという方法が、この際もっとも常識的かと思われますが」
「ああ、何を仰有います。警察があたくしたちのために何程のことをしてくれるものでございましょうか。ただ、徒らにかきまわし、あたくしたちをいらいらさせ、そして世間へいっとき曝しものにするだけのことで、あたくしの求めることは何一つとして得られないのです。ごめんですわ。あたくしは直線的に効果ある方法を採るのです。それが賢明ですから。あなたさまは、事件の秘密性をよく護って下さる方であり、ほんのちょっぴりしかお尋ねにならないし、そして思い切った方法で解決を短期間に縮めて下さる、その上に常に事件依頼者の絶対の味方となって下さる方だと世間では評判していますので、それで依頼に参ったわけですわ。この世間の評判は、どこか間違っているところがございまして」
「過分のお言葉でございます。とにかく早速ご依頼の仕事にとりかかることといたしまして、只一つお伺いいたしますことは、甚だ失礼でございますが、御つれあい様とのご情合はご円満でございましょうか」
「はあ、至極円満……つれあいはあたくしを非常に愛し、そして非常に大切にしてくれて居ります」
「あなたさまの方は如何です、おつれあい様に対しまして……」
「それは……」
「それはあたくしの方も、つれあいを愛しています。それはたしかでございます」
「おつれあい様とご一緒におなりになりましたのは何年前でございましたか」
「三ヶ月前でございました」
「失礼ながら、たいへん遅く御家庭を作られたものですな。その前に、別の方とご一緒であったことはございませんでしたか」
「あたくしのつれあいは碇曳治でございます。桝形探険隊の一員でございますわ。そう申せばお分りでもございましょうが、桝形探険隊は今から六年前の昭和四十六年夏に火星探険に出発しまして、地球を放れていますこと五年あまり、今年の秋に地球へ戻ってまいりました。これだけ申上げれば、あたくしがこんど始めて家庭を持ったことを信じていただけると存じますが、いかがでございましょう。実際あたくしは、あの人と知り合ってから六年間という永い間を孤独のうちに待たされたのでございます」
「イカリ・エイジと仰有いましたね」

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