三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「先生々々」…
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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』
現代語化
「先生~」
「どなたですかい?」
「えっと、中村久治ですけど、あの間はありがとうございます」
「ああ、あなたね。前に急に用事があって揉みかけになっちゃって、腰だけが残ってたでしょ」
「いや、もう僕は酒は飲まないし、他の楽しみもないから、甘い物をつまんでお茶を飲むのが一番の楽しみで。それに僕、疝気があって、疝気を揉まれるのがたまらないんです。湯に入って横になって疝気を揉まれるのが何よりなんですよね。先生は僕のみたいな者だからって安くやってくれるんですよね。先生は柔術も剣術もめちゃくちゃすごいって聞いてるけど、なんか普通の先生じゃないみたいですね。確か去年だったか、田月って菓子屋で泥棒を捕まえたって、うちでもすごく評判でしたよ」
「いやいや、そんな大それたことはできませんよ。たまたま泥棒が弱かったんでね……照、お茶出してあげて……これ、つまらないお菓子ですけど、ちょうどいただいたから食べてくださいな」
「いや、ありがとうございます。先生のところは、お茶もおいしいし、お菓子までくれるなんて、ありがたいですよ。またちょっと治療してくれませんか?」
「はい、うちは大藩なので、家来もたくさんいますよ。指南役はどなたですか?」
「杉村内膳っていう人で、一刀流ではすごいらしいですよ」
「へえ、なるほど杉村内膳ね。柔術は……うん、なるほど。澁川流の小江田っていう人が指南役だったかな。たしか老人だけど、澁川流の名人だと聞いてます。……で、強い家来もたくさんいるんでしょうね?」
「うん、たくさんいますよ。それ以外にも、殿様が武芸好きで、武芸の道が一番好きみたいなんで。こないだ、常陸の土浦のお城に抱えられた人がいるんですけど、元は修行僧だったとかで、すごい力持ちなんだって。どれくらい強いのかわかんないらしいですよ」
「はあ、すごい力持ちの人を抱えたんですね」
「そうなんですよ。宇陀の浅間山に北条彦五郎っていう泥棒が隠れてたんですけど、やつは25人くらい手下がいるんで、合力って名前をつけて、近くの豪家やお寺に強盗に入ってたんです。それで、もう水戸笠間あたりまで暴れてるから、助けておかないといけないってんで、お城の人たちが相談したんですけど、八州は役に立たないから早川様が捕まえようってなったんです。それで、200人くらいの人数を出して浅間山を取り囲んだんですけど、北条彦五郎は岩穴の中に住んでて、その穴の入り口が小さくて、中に入ると広くなってて、そこに家を建てて住んでたんです。それで、筑波口の方にも小さな岩穴があって、そこから逃げ出せるようになってたんで、こっちから固めても、あっちから谷に降りて水を汲んだり、百姓家から食べ物を盗んだりしてたんです。それで、槍や鉄砲で攻めてみたんですけど、穴の中が入り組んでて鉄砲の弾が通らなくて、どうやってもダメだったんです。それで、もう水攻めにするしかないって決めて、水を入れまくったんですけど、下に逃げるところがあったみたいで、やっぱりだめだったんです。どうしたらいいのかってなって、大勢で浅間山を取り囲んでただけで、肝心の彦五郎は裏穴から逃げ出して、また人を殺したり強盗したりしてて、役人たちが困り果ててたんです。そしたら、一人の修行僧が来て、「いくら取り囲んでも北条彦五郎は捕まえられません。それに、北条彦五郎はすごく力が強くて、25人分くらいあるらしいんで、とても無理です。だから引き上げてください」って言ったんです。それで、引き上げたらどうすんの?って聞いたら、「俺一人に捕まえさせてください」って言うから、それで、修行僧はどれくらい力があるの?って聞いたら、「私には力があります。ぜひ捕まえさせてください」って言うから、相談した結果、今までみたいに頑張ってても捕まるかわかんないし、本人が捕まえたいって言うならやってみるかってことになって、修行僧に捕まえさせたんだけど、そいつが言うには、背負ってる笈に重さがなくてはならないから、鉄の棒を入れてくれるよう頼んで、それで重たい鉄の棒を買ってもらって笈に入れて、北条彦五郎の隠れてる穴の近くに行って笈を放り出して、疲れたふりをした修行者が寝てるんです。ある月夜の晩に、彦五郎の手下が穴の近くに見張りに出てたら、修行者がいるから、「おい、どうした?」「歩けません」「なんで歩けないんだ?」「道で疲れて歩けなくなっちゃったんで、寝てました」「ここにいるとやばいから行け」「行けないし、荷物も背負えません」「背負えないなら背負ってやるよ」「お前がこれ背負って歩けるのか?」「歩けますけど、足が腫れてて無理です」「だから担げないんだよ」「お前はどれくらい力があるんだ?」「私は50人分の力があります」「それは嘘だろ?」「嘘じゃないですよ」「いや嘘だ、嘘は泥棒の始まりだ、お前が嘘をついたんだ」「いや、決して嘘じゃないです」
原文 (会話文抽出)
「先生々々」
「誰方ですえ」
「えゝ中村久治でげす、さて先日は大きに」
「えゝ貴方は先日急に御用で揉掛けになって、まだ腰の方だけが残って居りました」
「いやもう私は酒は飲まず、外に楽みも無いので、まア甘い物でも食い、茶の一杯も飲むくらいが何よりの楽み、それに私はまア此の疝気が有るので、疝気を揉まれる心持は堪えられぬて、湯に這入ってから横になって疝気を揉まれるのが何より楽しみだが、先生は私の様な者だからと思って安く揉んで下さるんで先生は柔術剣術も余程えらいと云うことを聞いて居りますが、何うも普通の先生でない、たしか去年でげしたか、田月という菓子屋で盗賊を押えなすったって、私の屋敷でもえらい評判でねえ」
「なに出来やア致しませんが、幸いに泥坊が弱かったから……これ照やお茶を上げろ……是やア詰らぬ菓子ですが、丁度貰いましたから召上るなら」
「いやこれは有難い、先生の処はお茶は好し菓子までも下さる、有難いと云って毎度噂を致します、何卒又少し療治を願いましょうか」
「えゝお屋敷も御大藩でげすから、御家来衆も嘸多い事でございましょうが、御指南番は何方でげすえ」
「なに杉村内膳と云って、一刀流ではまア随分えらい者だという事で」
「へえ成程杉村内膳、柔術は……うん成程澁川流の小江田というのが御指南番で、成程あれは老人だが余程澁川流の名人という事を聞きました…成程して強い御家来衆も有る事でげしょうなア」
「沢山ある上に其の上にも/\と抱えるのは、全体殿様が武張っていらっしゃるので、武芸の道が何よりもお好でなア、先年此の常陸の土浦の城内へお抱えに成りました者が有りまして、これは元修行者だとか申す事だが、余程力量の勝れた者で、何のくらい力量が有るか分らぬという事で」
「はゝア大した力量の有る者をお抱えに成りましたな」
「えゝお抱えに成りましたと云うのは、宇陀の浅間山に北條彦五郎という泥坊が隠れていて、是は二十五人も手下の者が有るので、合力という名を附けて居廻りの豪家や寺院へ強談に歩き、沢山な金を奪い取るので、何うもこりゃア水戸笠間辺までも暴すから助けて置いては成らぬと云うので、城中の者が評議をした、ところが何うも八州は役に立たぬから早川様が押えようという事になって、就きましては凡そ二百人も人数が押出しました押出して浅間山を十分に取巻いて見た所が、北條彦五郎は岩穴の中に住んでいる、その穴の入口が小さくて、中へ這入るとずっと広くて、其処に家を拵えて住居として居り、また筑波口の方にも小さい岩穴が有って、これから是れへ脱けるように成って居るから、此方の方を固めて居ても、此方の方から谷に下りて水を汲んだり、或は百姓家で挽割を窃み、米其の外の食物を運んで隠れて居ります、さ、これでは成らぬと槍鉄砲を持って向った所が穴の中が斯う成ってゝ鉄砲丸が通らぬから、何様な事をしてもいかぬ、所でもう是りゃア水攻めにするより外に仕方が無いと云って、どん/\水を入れて見ると、下へ脱けて落る処が有るから遂々水攻も無駄になって、何うしたら宜かろうと只浅間山を多勢で取巻いて居るだけじゃが、肝腎の彦五郎は裏穴から脱けて、相変らず人を殺したり追剥を為るので、これには殆ど重役が困っている所に、一人の修行者が来て、あなた方は幾ら此処を取巻いて居ても北條彦五郎を取押える事は出来ません、殊に北條彦五郎は大力無双で、二十五人力も有るという事だから、兎てもいけぬに依ってお引揚げなさいと云うから、引揚げたら何うすると云うと、私一人に盗賊取押え方を仰付けられゝば有難いと云うので、然らば修行者は何のくらいな力が有るかと云うと、私は力が有ります、何うか盗賊取押えを仰付けられたいと云うから、段々評議をした所が、何せ今までのように頑張っていても出るか出ないか知れぬから、当人が取押えると云うなら遣らして見ろという仰しゃり付けで、これから其の修行者に取押えを言い付けた所が、其奴のいうには手前の脊負った笈に目方が無くては成らぬから、鉄の棒を入れるだけの手当を呉れと云うから、多分の手当を遣ると全く金を取って逃げる者でも無く、それから手当の金で鉄の重い棒を買い、笈の中へ入れて、彼の北條彦五郎の隠れて居るという穴の側へ行って、其処へ笈を放り出して、労れた振をして修行者が寝て居ると、ある月夜の晩に彦五郎の手下が穴の側へ見張に出て見ると、修行者が居るから、「これ何うした」
「私は歩けません」
「何ういう訳で歩けぬ」
「道に労れて歩けませんから、寝て居ります」
「此処に居ては成らぬから行け」
「行くにも行かないにも荷物が脊負えません」
「脊負えぬなら脊負わせて遣ろう」
「手前これを脊負って歩くか」
「歩けますが、此の通り足を腫らしたから仕様が有りません」
「これだから担げません」
「手前は何のくらい力がある」
「私は五十人力ある」
「そりゃア嘘だろう」
「なに嘘じゃアない」
「いや嘘だ、嘘は泥坊の初まりだが、こりゃア手前が嘘だ」
「いや決して嘘でない」
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