三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 「何うだい、お前方は何うも山の中にいる人と…

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青空文庫図書カード: 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』

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「ねえ、お二人は山の中の人とは思えないし、言葉遣いも分かるからきっと苦労人の果てでしょう? お膳を運ぶときもよく気づいてくれると評判ですが、生まれはどこですか?」
「ああ、すっかり親しくなりましたからね、これをお聞きしますが、あなたさまは元はお坊さんですか?」
「私はお坊さんではありませんよ」
「へえ、そうなんですか? あなたの頭髪はだんだんと伸びていますが、元はお坊さんでこれからだんだんと生やしているのかと思いました」
「私は百姓ですが、旅をしているときはむしゃくしゃして鬱陶しいから剃るんです。それに、お寺に勤めているから頭を剃ることにはまったく抵抗がありません」
「へえ、そうなんですか。お坊さまは最近剃髪なさったようですね」
「ああ、いいえ……そんなわけではありません」
「へえ、そうなんですか」
「そもそも子供の頃からというわけではなく、7~8年前に少し因縁があって出家されたんです」
「へえ、そうなんですか。私の家にはお坊さまがよくお泊まりになられるのですが、お食事のときは経を唱えて蓋を取って召し上がられますよね? あなたもさっきそうされましたし、経も唱えておられますが、お坊さまの方はそういう姿を見ません。それで、あなたさまはお坊さまじゃないかと、お坊さまはこの頃剃髪されたと思ったんです」
「それは門前の小僧習わぬ経を唱えて、寺にいると自然と覚えて唱えてみたくなるんです。でも、私は出家ではあるんですが、旅に出ると経は唱えないんです。これが紺屋の白袴というたとえですね」
「そうなんですか。私はまた苦労の果てではないかと……ねえ、お婆さん」
「やめなさいよ。しつこく聞かないで。お厭みになるわ」
「でもお互いに昔は……旦那、私はねえ、ちょっと気になるので、ああいうことを言うんですけど、この婆さんを一緒に連れて私が逃げたときは、この婆が若いのに無理やり坊主にさせて、私も頭を剃って逃げたことがあったんですよ。ああ、これは昔話なんですけどねえ」
「お爺さん、やめなさいよ。つまらないことを言い出すわ。もうやめて」
「いや、いいんです。旦那の退屈しのぎだ、お爺さんお婆さんの昔話だから、いやらしいことも何もないじゃないか」
「旦那、この婆はもともと根津の増田屋で小澤と名乗った女郎だったんです」
「おやめなさいよ、お爺さん」
「いやいや、昔は鶯を歌わせたこともあったんですよ……今はこんな梅干し婆で面影もありませんが、これでも23~4歳の頃はなかなか色白のあまっちょで、少しその風情がよかったんですね。時々、『今日は帰さない』と部屋着や笄などを質に入れて、そうして遊んでくれって言うから、つい調子に乗って遊んでしまい、爪弾きくらいは静かに弾いてあげると、なかなか粋な女だったんです」
「おやめなさいよ、つまらないことを言うのはやめなさい。恥ずかしいわ」
「恥ずかしいも何もありません。もう恥ずかしいのは通り過ぎているんですよ」
「まあ、そうなんですか。やっぱりそうだろうと思ってましたが、なかなかあなた苦労人の果てでなければ、あの対応はできませんね。ああ、そうなんですか。一度泥水に這い入ったことがなければな」
「おや、そうなんですか。ずっとお世話になっていますが、私はどうもこの土地の方じゃないと思っていたんですけど、そうなんですか? 不思議なものですねえ、増田屋に。なんだか奇妙ですね。そうなんですか」
「どうも妙ですねえ。それじゃ、あなたは何か、江戸の人ですか?」
「いいえ、私は旦那、富山稲荷町の加賀屋平六という荒物商人で、江戸の旦那の下谷茅町の富山さまのお屋敷がありますから、出雲さまにご機嫌伺いに参りまして、下谷に宿を取って居る時に、見物がてら根津へ行って引っぱられてのぼったのが縁なんです。ところが、この奴なかなかの手管で帰さないから、とうとうそれがあなたさまの道楽の始まりで酷い目に遭いましたが、この奴の気性が良かったので借金だらけで、やっと年季が満了して長いですが、私のような者でも女房にしてくれないかと、本当かと聞くと本当だと申します。借金があっては到底無理だから、連れて逃げようと無分別にも相談をしたのが丁度37歳のときですよ。それからあなたさまを連れて逃げたんです。国には女房がいるのに無理やりこの奴を連れて逃げましたが、年季は長いし、借金があるので追手が掛かるのを恐れて、逃げて信州路へかかっても間に合わないから、この奴を無理やり坊主にして私も坊主になって、とうとう飛騨口へ逃げ込んだんです」
「ふうん、そうなんですか」
「それがあなた面白い話で、どうも高山にもいられなくなって、だんだんと回って落合の渡しを越えて、この三河原というこの家の泊ったんですけど、不思議な縁なんです。先に又九郎という夫婦がいて、私が泊まって翌日立とうかと思うと、寒いときではありますが、誠に天罰で、他人が高い給料を出して抱えていた女郎をさらって逃げた盗賊の罪と、国に女房を置き去りにした罰が一緒に報われて、私は女房の『か』の字を受けたと見えてきとう病に痔ができました。これがまた二度目の産後の肥立ちが悪くて発つことができず、ここのお爺さんお婆さんに面倒を見てもらっていますと、先の又九郎夫婦が本当に親切に二人の看病をしてくれて、その親切がありがたいと思って半年ほどここに居りまして、やっと二人の病気が治ると、ここのお爺さんお婆さんが重くなって、とても助からない様子になると、その時私たちを枕辺へ呼んで、『誠に不思議な縁でお二人は長く泊まってくださいましたが、私はとても助かりません。お二人はどうやら駆け落ちなさったようですね。だんだん月日が経っても後から追手が掛かる様子もなく、どこかにこれから指して行くところがありますか?』と言うので、私たちは何処に行く所もないが、まあ越後の方へでも行こうかと思っていると、そうすると『それなら、それほど多くはありませんが、お金は少しですが、この後の山の薪は家の物ではありませんが、山のわらびを取っても夫婦が食べるにはたくさんある。またこの場所をこうすれば、ここで獣物が取れる。冬の凌ぎはこう、こうと、すっぱりと教えてくれました。それから、『私の家には身寄りもありませんし、婆も弱っていますから、私が死んだ後はあなた方が私を親と思って香花を手向け、この家の血が絶えないようにしてくださいませんか?』と頼みごとを遺言して死んだんです。するとお婆さまがまた続けて看病疲れで病気になって、その死ぬ前に『何卒頼みます』と言って死んだので、前に話もしてあったので、近所の人も皆納得して、お爺さんお婆さんを見送ったから、ついそのままずるずると二代目の又九郎夫婦になったんです。あなた、ちょうど今年で23年になりますが、『住めば都』ということわざの通り、わらびを食べてここに潜んで暮らしていますがねえ、ずいぶん苦労しましたよ」
「そうでしたか。苦労の果てだからいろいろとよく気づくなと思ったんです。でも、女房さんとか本気で思い合っているからこそ、このように山の中に住んでいても、愛があるんですね」
「愛があるって言ったって、私とお婆さんもイヤでしたが、他にに行くところがないから仕方なく居たんです」
「それじゃ、富山稲荷町ではいい商人だったでしょうが、女房はお前のここにあることを知らないのか? この飛騨には富山の方の人はあまり来ないから知らないんだろうな」
「ああ、それは私が家を出てから行方が知れないと言って、家族が心配して亡くなり、それから続けて家はつぶれるような状態になって、子供が一人いましたが、その子供、平太郎という者は、仕方なく最終的にお寺さまか何かにもらわれてしまったということぼんやり聞いていましたが、不思議なことなんですが、去年富山から薬屋、反魂丹を売る清兵衞さんという人が家に来て、一晩泊っていろいろ話を聞いたところ、私の息子は不思議なことにねえ、立派なお坊さんになられそうで、越中の高岡にある大工町の宗慈寺というお寺の納所になって、立派な衣を着ているそうです」
「はあ、それは不思議な話だなあ。大工町の宗慈寺というのは真言寺じゃないか」
「はい、真言寺です」
「そこに、お前の息子が出家したのかい」
「はい、名前は何とかなんて言ってたなあ、婆さん、お前知ってるか? ああ、そうよ……ああ、眞達という名の納所でございます」
「そうか」

原文 (会話文抽出)

「何うだい、お前方は何うも山の中にいる人とは違い、また言葉遣いも分るから屹度苦労人の果じゃろう、万事に宜く届くと云うて噂をして居ることだが、生れは何処だね」
「えゝ旦那様お馴染に成りましたから斯んな事を伺いますが、あなたは元は御出家様でございますかえ」
「私は出家じゃア無い」
「へえー左様でげすかえ、貴方は其の頭髪がだん/\延びますけれども、元御出家様で是からだん/\お生しなさるのではないかと存じまして」
「なに私は百姓だが、旅をする時にはむしゃくしゃして欝陶しいから剃るのじゃ、それに寺へ奉公をして居るから、頭を剃る事なぞは頓と構わぬじゃア」
「へえー左様で、お比丘尼様はこの頃御剃髪なすったのでげすな」
「えゝいゝえ……なに然う云う訳じゃアないのじゃ」
「へえ左様でげすかえ」
「尤も幼少の時分からと云う訳じゃアないが、七八年前から少々因縁有って御出家にならっしゃッたじゃ」
「へえー左様で、私共の家には御出家様が時々お泊りになりますが、御膳の時はお経を誦んで御膳をお盖に取分けて召上りますな、あなたも此の間お遣りなすったしお経もお読みなさいますが、お比丘尼様の方はそう云う事をなさる所を見ませんから、それで貴方は御出家お比丘尼様は此の頃御剃髪と思いまして」
「それは門前の小僧習わぬ経を誦むで、寺にいると自然と覚えて読んで見たいのだが、また此方は御出家じゃアが、もう旅へ出ると経を読まぬてえ、是が紺屋の白袴という譬えじゃアのう」
「そうでございますかえ、私はまた御苦労の果じゃア無いかと思って、のう婆さん」
「お止しよ、ひちくどくお聞きで無いよ、欝陶しく思召すよう」
「でもお互に昔は……旦那私はねえ、ちょっと気がさすので、然ういう事を云いますが、この婆を連れて私が逃げまする時にゃア、この婆が若い時分だのにくり/\坊主に致しましてねえ、私も頭を剃っこかして逃げたことが有るね、えゝ是は昔話でございますがねえ」
「爺さんお止しよ、詰らない事を言い出すね、よしなよ」
「なに、いゝや、旦那の御退屈凌ぎだ、爺婆の昔話だから忌らしい事も何もねえじゃねえか」
「旦那此の婆はもと根津の増田屋で小澤と云った女郎でございます」
「およしよ爺さん」
「いゝやな、昔は鶯を啼かして止まらした事もある……今はこんな梅干婆で見る影も有りませんがね、これでも二十三四の時分には中々薄手のあまっちょで、一寸その気象が宜うがしたね、時々、今日は帰さねえよと部屋着や笄などを質に入れて、そうして遊んで呉れろと云うから、ついとぼけて遊ぶ気になり、爪弾位は静かに遣ると云う、中々粋な女でございます」
「およしよう、詰らない事を言って間が悪いやね、恥かしいよ」
「恥かしいも無いものだ、もう恥かしいのは通り過ぎて居るわ」
「おや左様かえ、何でも然うじゃろうと思った、中々お前苦労人の果でなければ、あの取廻しは出来ぬと思った、あゝ左様かえ、一旦泥水に這入った事がなければなア」
「おや然うかね、長く御厄介になって見ると私はどうも御当地の方じゃないと実は思って居ましたが、然うでございますか、不思議なものだねえ増田屋に、どうも妙だね、然うかね」
「どうも妙だのう、それじゃアお前何かえ、江戸の者かえ」
「いゝえ私はねえ旦那様富山稲荷町の加賀屋平六と云う荒物御用で、江戸のお前さん下谷茅町の富山様のお屋敷がございますから、出雲様へ御機嫌伺いに参りまして、下谷に宿を取って居る時に、見物かた/″\根津へ往って引張られて登ったのが縁さねえ、処が此奴中々手管が有って帰さないから、とうとうそれがお前さん道楽の初りで酷いめに遭いましたけれども、此奴の気象が宜いものだから借金だらけで、漸々年季が増して長いが、私の様な者でも女房にして呉れないかと云いますから、本当かと云うと本当だと申しますから、借金があっては迚もいかぬから、連れて逃げようと無分別にも相談をしたのが丁度三十七の時ですよ、それからお前さん連れて逃げたんだ、国には女房子が有るのに無茶苦茶に此奴を引張って逃げましたが、年季は長いし、借金が有るから追手の掛るのを恐れて、逃げて/\信州路へ掛っても間に合わぬから、此奴をくり/\坊主にして私も坊主になってとうとう飛騨口へ逃込んだのよ」
「ふうん然うかえ」
「それがお前さん面白い話でどうも高山にもうっかり居られないで、だん/\廻って落合の渡しを越えて、此の三河原と云う此処の家へ泊ったが不思議の縁でございます、先に又九郎と云う夫婦が有ってそれが私が泊って翌日立とうかと思うと、寒さの時分では有るが、誠に天の罰で、人が高い給金を出して抱えて居る女郎を引浚って逃げた盗賊の罪と、国に女房子を置放しにした罰が一緒に報って来て私は女房のかの字を受けたと見えて痳病に痔と来ました、これがまた二度めの半病床と来て発つことが出来ませんで、此処の爺婆に厄介になって居りますると、先の又九郎夫婦が誠に親切に二人の看病をして呉れ、その親切が有難いと思って稍半年も此処に居りまして、漸く二人の病気が癒ると、此処の爺婆が煩い付いて、迚も助からねえ様になると、その時私共を枕辺へ喚んで、誠に不思議な縁でお前方は長く泊って下すったが、私はもう迚も助からねえ、どうもお前方は駈落者の様だが、段々月日も経って跡から追手も掛らぬ様子、何処か是から指して行く所がありますかと云うから、私共は何処も行く所はないが、まア越後の方へでも行こうと実は思うと云うと、そんなら沢山も有りません、金は僅かだが、この後の山の焚木は家の物だから、山の蕨を取っても夫婦が食って行くには沢山ある、また此所を斯うすれば此所で獣物が獲れる、冬の凌ぎは斯う/\とすっぱり教えて、さて私の家には身寄もなし婆も弱くれて居るから、私が命のない後はお前さん私を親と思って香花を手向け、此処な家の絶えぬようにしてお呉んなさらんか、と云う頼みの遺言をして死んだので、すると婆様が又続いて看病疲れかして病気になり、その死ぬ前に何分頼むと言って死んだから、前に披露もしてあったので、近辺の者も皆得心して爺さん婆さんを見送ったから、つい其の儘ずる/\べったりに二代目又九郎夫婦に成ったのでございます、あなた恰ど今年で二十三年になるが、住めば都と云う譬の通りで、蕨を食って此処に斯う遣って潜んで居ますがねえ、随分苦労をしましたよ」
「そうかねえ、苦労の果じゃがら万事に届く訳じゃのう、でも内儀さんと真実思合うての中じゃから、斯うして此の山の中に住んで居るとは、情合だね」
「情合だって婆さんも私も厭だったが、外に行く所がなし詮方がないから居たので」
「じゃア富山の稲荷町で良い商人で有ったろうが、女房子はお前の此処に居る事を知らぬかえ、此の飛騨へは富山の方の者が滅多に来ないから知らぬのじゃなア」
「えゝそれは私が家を出てから行方が知れぬと云って、家内が心配して亡なり、それから続いて家は潰れる様な訳で、忰が一人ありましたが、その忰平太郎と云う者は、仕様がなくって到頭お寺様か何かへ貰われて仕まったと云う事を、ぼんやり聞いて居りましたが、妙な事で、去年富山の薬屋、それお前さん反魂丹を売る清兵衞さんと云う人が家へ来て、一晩泊って段々話を聞きました所が、私共の忰は妙な訳でねえ、良い出家に成られそうでございまして、越中の国高岡の大工町にある宗慈寺と云う寺の納所になって、立派な衣を着て居るそうで」
「はアそれは妙な事だなア、大工町の宗慈寺と云うは真言寺じゃアないか」
「はい真言寺で」
「そこにお前の忰が出家を遂げて居るのかえ」
「はい名は何とか云ったなア、婆さんお前知って居るか、あゝそうよ……いゝや、眞達と云う名の納所でございます」
「左様か」

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