太宰治 『道化の華』 「不思議ですわねえ。ほんたうに蟹がゐたので…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『道化の華』

現代語化

「不思議ですねぇ。ほんとうに蟹がいたんですって。生きてる蟹。私、そのときは、看護婦を辞めようかと思ったんですよ。私が1人で働かなくても、うちでは何とかなるんですし。お父さんにそう言ったら、大笑いされちゃったんですけど。――小菅さん、どう?」
「すごいよ。」
「その病院ってどこですか?」
「私ね、大庭さんのときも、病院からの呼び出しを断ろうかと思ったんです。怖かったですからねぇ。でも、来てみたら安心しましたわ。こんなに元気で、はじめからトイレに1人で行くって言ってるんですもの。」
「いや、病院だよ。ここの病院じゃないでしょ。」
「ここです。ここなんですよ。でも、それは秘密にしておいてくださいね。信用にかかわりますから。」
「まさか、この部屋じゃないよね。」
「いいえ。」
「まさか、」
「僕たちが昨日寝たベッドじゃないよね。」
「いいえ。大丈夫ですよ。そんなに気にされるんだったら、私は言わなければよかった。」
「い号室だ。」
「窓から石垣が見えるのは、あの部屋以外にないよ。い号室だ。君、女の子がいる部屋だよ。かわいそうに。」
「騒がないで、おやすみなさいよ。嘘ですよ。作り話ですよ。」

原文 (会話文抽出)

「不思議ですわねえ。ほんたうに蟹がゐたのでございますの。生きた蟹。私、そのときは、看護婦をよさうと思ひましたわ。私がひとり働かなくても、うちではけつこう暮してゆけるのですし。お父さんにさう言つて、うんと笑はれましたけれど。――小菅さん、どう?」
「すごいよ。」
「その病院ていふのは?」
「私ね、大庭さんのときも、病院からの呼び出しを斷らうかと思ひましたのよ。こはかつたですからねえ。でも、來て見て安心しましたわ。このとほりのお元氣で、はじめから御不淨へ、ひとりで行くなんておつしやるんでございますもの。」
「いや、病院さ。ここの病院ぢやないかね。」
「ここです。ここなんでございますのよ。でも、それは祕密にして置いて下さいましね。信用にかかはりませうから。」
「まさか、この部屋ぢやないだらうな。」
「いいえ。」
「まさか、」
「僕たちがゆうべ寢たベツドぢやないだらうな。」
「いいえ。だいぢやうぶでございますわよ。そんなにお氣になさるんだつたら、私、言はなければよかつた。」
「い號室だ。」
「窓から石垣の見えるのは、あの部屋よりほかにないよ。い號室だ。君、少女のゐる部屋だよ。可愛さうに。」
「お騷ぎなさらず、おやすみなさいましよ。嘘なんですよ。つくり話なんですよ。」


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