エドガー・アラン・ポー Edgar Allan Poe 佐々木直次郎訳『黄金虫』 「君は覚えているだろう」…

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青空文庫図書カード: エドガー・アラン・ポー Edgar Allan Poe 佐々木直次郎訳『黄金虫』

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「覚えてるでしょ」
「俺がカブトムシの略図を描いてお前に渡した晩のことを。また、お前の言う通りに俺の描いた絵が骸骨に似ているってことで俺が腹を立てたことも。初めにそう言われた時は、お前の冗談だと思ったよ。でも後で、あの虫の背中に変な模様があるのを思い出して、お前の言ったことにも少しは根拠があるのかなって内心思ったんだ。でも、お前の絵の腕を冷やかされたのが癪だった――俺は絵が上手だって言われてるんだからね――だから、お前の渡してくれた羊皮紙を見て、それをグチャグチャにして怒って火の中に投げ入れようとしたんだ」
「あの紙切れのことね」
「違うよ。あれは見た目は紙によく似てたから、最初はそう思ったけど、絵を描いてみると、すぐに薄っぺらい羊皮紙だって気づいたよ。汚れてたでしょ、覚えてる?ところで、それをちょうど揉もうとした時に、お前の見てたあの絵がふと目に留まったんだ。で、俺がカブトムシの絵を描いたと思った、ちょうどその場所に、確かに骸骨の絵が描いてあるのを見て、俺の驚きを想像できるでしょ。しばらくの間、俺はあまりにもびっくりして、ちゃんと考えられなかった。自分の描いた絵が、大体の輪郭は似てるけど――細かいところではずいぶん違うってわかったんだ。やがてロウソクを持って、部屋の隅に行って座って、その羊皮紙をもっとよく調べ始めたんだ。ひっくり返してみると、俺の絵が俺が描いたとおりに裏にあるんだ。その時、俺の最初の気持ちは、ただ、両方の絵の輪郭がすごく似てるってことに驚いたんだ――羊皮紙の反対側の面、俺が描いたカブトムシの絵の真下に、俺の目につかないように骸骨の絵があり、この骸骨の輪郭だけでなく、大きさまでが、俺の絵によく似ている、という不思議な一致に驚いたんだ。この一致の不思議さはしばらくの間、俺を完全に茫然とさせたよ。これは、原因と結果とのつながりを明らかにしようとするけど、それができなくて、一種の一時的な麻痺状態に陥るような一致だからなんだよ。でも、この茫然自失の状態から回復すると、その一致よりももっともっと俺を驚かせた一つの確信が、心の中でだんだん湧き上がってきたんだ。俺は、カブトムシの絵を描いた時には羊皮紙の上に何も絵がなかったことを、ハッキリ、確かに、思い出し始めたんだ。このことを俺自身完全に確かだと思うようになったよ。なぜなら、一番きれいなところを探そうと思って、初めに片面を、それから裏面を、ひっくり返してみたことを思い出したからなんだ。もし骸骨がその時そこにあったとしたら、もちろん見逃すはずがない。この点に、実際には説明できないと思われるミステリーがあった。でもその頃にはもう、俺の知力の奥底で、昨夜の冒険でそんなに鮮やかに証明されたあの事実の概念が、遠くの光のように、かすかに、ひらめき始めてたんだ。俺はすぐに立ち上がって、羊皮紙を大切にしまいこんで、一人になるまでそれ以上考えることは全部やめてしまったんだ。お前に帰って行かれて、ジュピターがぐっすり寝てしまったと、俺はもっと順序立てて考えることに取りかかったんだ。まず第一に、羊皮紙がどうして自分の手に入ったのかを考えてみた。俺たちがあのカブトムシを発見した場所は、島の東の方1マイルばかりの本土の海岸で、満潮線の少し上のところだった。俺が捕まえると、強く噛みついたので、落としたんだ。ジュピターはいつもと同じように用心深く、自分の方へ飛んできたその虫をつかむ前に、木の葉か、そういうようなものを探して、それでつかまえようとして、あたりを見回したんだ。その時に、彼の目と、俺の目が、あの羊皮紙の切れ端に留まったんだ。まあ、その時も紙だと思ってたけど。それは砂の中に半分埋まっていて、片隅だけがちょっと見えてたんだ。それを見つけた場所の近くに、俺は帆船の大型の短艇らしきものの残骸があることに気づいたんだ。その難破船はすごく長い間そこにあったみたいだった。というのは、ボートの材料らしきものがやっとわかる程度だったからだよ。さて、ジュピターがその羊皮紙を拾い上げて、カブトムシをその中に包んで、俺に渡してくれたんだ。それから間もなく俺たちは家に帰ろうとしたけど、その途中でG――少佐に会ったんだ。虫を見せると、要塞へ借りて行きたいって頼むんだ。俺が承知すると、彼はすぐにその虫を、それの包んであった羊皮紙から出さずに、自分のチョッキのポケットに突っ込んじゃったんだ。その羊皮紙は彼が虫を調べてる間、俺が持ってたんだ。多分、彼は俺の気が変わっちゃうのを心配して、すぐに獲物をしまっておいた方が良いと思ったんだろうよ――まあ、お前の知ってる通り、あの男は博物学に関することは何でも夢中なんだからね。それと同時に、俺はなんの気なしに、羊皮紙を自分のポケットに入れたんだと思う。俺がカブトムシの絵を描こうと思って、テーブルのところへ行った時、いつも置いてあるところに紙が一枚もなかったことを、お前も覚えてるよね。引き出しの中も見たけど、そこにもなかったんだ。古手紙でも入ってるのかなと思ってポケットを探すと、その時、手があの羊皮紙に触れたんだ。あれが俺の手に入った正確な経緯をこんなに詳しく話すのは、そのことが俺に特別強い印象を残したからなんだ。多分お前は俺が空想にふけってると思うだろうけど――俺はもうすでに関連付けちゃったんだ。大きな鎖の二つの環をくっつけちゃったんだ。海岸にボートが横たわっていて、そのボートから遠くないところに骸骨が描かれた羊皮紙――紙じゃなくて――があったんだぜ。お前は当然、『どこに関連があるんだ?』って聞くよね。俺は、骸骨、つまり髑髏は誰でも知ってる通り、海賊のシンボルだって答えるよ。髑髏の旗は、海賊が仕事をするときにはいつでも、掲げるものなんだ。俺は、その切れ端が羊皮紙であって、紙ではないと言ったね。羊皮紙は丈夫なものなんだ――ほとんど不滅だよ。ただ、普通絵を描いたり字を書いたりするには、紙ほど適していないから、大して重要なことではないことはめったに羊皮紙には書かないんだ。こう考えると、髑髏になんらかの意味が――なんらかの関連性――あるように思えたんだ。俺はまたその羊皮紙の形にも注意したよ。片隅だけが何かのはずみで破れてしまってたけど、もとの形が長方形だったことはわかったんだ。実際、それはまさにメモ帳として――何か長く記憶したり大切に保存したりしておきたいことを書き留めたりするものとして――選ばれそうなものなんだ」
「でもなぁ」
「お前は、カブトムシの絵を描いた時にはその骸骨は羊皮紙の上に描かれていなかったって言う。そうすると、どうしてボートと骸骨の間に関連付けができるんだ? ――その骸骨のほうは、お前自身の言ってる通りに、(どうして、また誰によって、描かれたかはわからないけど)お前がカブトムシを描いた後に描かれたに違いないんだからねえ」

原文 (会話文抽出)

「君は覚えているだろう」
「僕が甲虫の略図を描いて君に渡したあの晩のことを。また、君が僕の描いた絵を髑髏に似ていると言い張ったのに僕がすっかり腹を立てたことも、思い出せるだろう。初め君がそう言ったときには、僕は君が冗談を言っているのだと思ったものだ。だがその後、あの虫の背中に妙な点があるのを思い浮べて、君の言ったことにも少しは事実の根拠がないでもないと内心認めるようになった。でも、君が僕の絵の腕前を冷やかしたのが癪だった。――僕は絵が上手だと言われているんだからね。――だから、君があの羊皮紙の切れっぱしを渡してくれたとき、僕はそいつを皺くちゃにして、怒って火のなかへ投げこもうとしたんだ」
「あの紙の切れっぱしのことだろう」
「いいや。あれは見たところでは紙によく似ていて、最初は僕もそうかと思ったが、絵を描いてみると、ごく薄い羊皮紙だということにすぐ気がついたよ。覚えているだろう、ずいぶんよごれていたね。ところで、あれをちょうど皺くちゃにしようとしていたとき、君の見ていたあの絵がちらりと僕の眼にとまったのさ。で、自分が甲虫の絵を描いておいたと思ったちょうどその場所に、事実、髑髏の図を認めたときの僕の驚きは、君にも想像できるだろう。ちょっとのあいだ、僕はあんまりびっくりしたので、正確にものを考えることができなかった。僕は、自分の描いた絵が、大体の輪郭には似ているところはあったけれども――細かい点ではそれとはたいへん違っていることを知った。やがて蝋燭を取って、部屋の向う隅へ行って腰をかけ、その羊皮紙をもっとよく吟味しはじめた。ひっくり返してみると、僕の絵が自分の描いたとおりにその裏にあるのだ。そのときの僕の最初の感じは、ただ、両方の絵の輪郭がまったくよく似ているということにたいする驚きだった。――羊皮紙の反対の側に、僕の描いた甲虫の絵の真下に、僕の眼につかずに頭蓋骨があり、この頭蓋骨の輪郭だけではなく、大きさまでが、僕の絵によく似ている、という事実に含まれた不思議な暗合にたいする驚きだった。この暗合の不思議さはしばらくのあいだ僕をまったく茫然とさせたよ。これはこういうような暗合から起る普通の結果なんだ。心は連絡を――原因と結果との関連を――確立しようと努め、それができないので、一種の一時的な麻痺状態に陥るんだね。だが、僕がこの茫然自失の状態から回復すると、その暗合よりももっともっと僕を驚かせた一つの確信が、心のなかにだんだんと湧き上がってきたんだ。僕は、甲虫の絵を描いたときには羊皮紙の上になんの絵もなかったことを、明瞭に、確実に、思い出しはじめた。僕はこのことを完全に確かだと思うようになった。なぜなら、いちばんきれいなところを捜そうと思って、初めに一方の側を、それから裏をと、ひっくり返してみたことを、思い出したからなんだ。もし頭蓋骨がそのときそこにあったのなら、もちろん見のがすはずがない。この点に、実際、説明のできないと思われる神秘があった。が、そのときもうはや、僕の知力のいちばん奥深いところでは、昨夜の冒険であんなに見事に証明されたあの事実の概念が、蛍火のように、かすかに、ひらめいたようだった。僕はすぐ立ち上がり、羊皮紙を大事にしまいこんで、一人になるまでそれ以上考えることはいっさいやめてしまった。 君が帰ってゆき、ジュピターがぐっすり眠ってしまうと、僕はその事がらをもっと順序立てて研究することに着手した。まず第一に、羊皮紙がどうして自分の手に入ったかということを考えてみた。僕たちがあの甲虫を発見した場所は、島の東の方一マイルばかりの本土の海岸で、満潮点のほんの少し上のところだった。僕がつかまえると、強く咬みついたので、それを落した。ジュピターはいつもの用心深さで、自分の方へ飛んできたその虫をつかむ前に、樹の葉か、なにかそういったようなものを捜して、それでつかまえようと、あたりを見まわした。彼の眼と、それから僕の眼とが、あの羊皮紙の切れっぱしにとまったのは、この瞬間だった。もっとも、そのときはそれを紙だと思っていたがね。それは砂のなかになかば埋まっていて、一つの隅だけが出ていた。それを見つけた場所の近くに、僕は帆船の大短艇らしいものの残骸を認めた。その難破船はよほど長いあいだそこにあるものらしかった。というのは、ボートの用材らしいということがやっとわかるほどだったから。 さて、ジュピターがその羊皮紙を拾い上げ、甲虫をそのなかに包んで、僕に渡してくれた。それから間もなく僕たちは家へ帰りかけたが、その途中でG――中尉に会った。虫を見せたところ、要塞へ借りて行きたいと頼むのだ。僕が承知すると、彼はすぐにその虫を、それの包んであった羊皮紙のなかへ入れないで、そのまま自分のチョッキのポケットのなかへ突っこんでしまった。その羊皮紙は彼が虫を調べているあいだ僕が手に持っていたのさ。たぶん、彼は僕の気が変るのを恐れて、すぐさま獲物をしまってしまうほうがいいと考えたんだろうよ。――なにしろ君も知っているとおり、あの男は博物学に関することならなんでもまるで夢中だからね。それと同時に、僕はなんの気なしに、羊皮紙を自分のポケットのなかへ入れたにちがいない。 僕が甲虫の絵を描こうと思って、テーブルのところへ行ったとき、いつも置いてあるところに紙が一枚もなかったことを、君は覚えているね。引出しのなかを見たが、そこにもなかった。古手紙でもないかと思ってポケットを捜すと、そのとき、手があの羊皮紙に触れたのだ。あれが僕の手に入った正確な経路をこんなに詳しく話すのは、その事情がとくに強い印象を僕に与えたからなんだよ。 きっと君は僕が空想を駆りたてているのだと思うだろう、――が、僕はもうとっくに連絡を立ててしまっていたのだ。大きな鎖の二つの輪を結びつけてしまったのだ。海岸にボートが横たわっていて、そのボートから遠くないところに頭蓋骨の描いてある羊皮紙――紙ではなくて――があったんだぜ。君はもちろん、『どこに連絡があるのだ?』と問うだろう。僕は、頭蓋骨、つまり髑髏は誰でも知っているとおり海賊の徽章だと答える。髑髏の旗は、海賊が仕事をするときにはいつでも、かかげるものなのだ。 僕は、その切れっぱしが羊皮紙であって、紙ではないと言ったね。羊皮紙は持ちのいいもので――ほとんど不滅だ。ただ普通絵を描いたり字を書いたりするには、とても紙ほど適していないから、大して重要ではない事がらはめったに羊皮紙には書かない。こう考えると、髑髏になにか意味が――なにか適切さが――あることに思いついた。僕はまたその羊皮紙の形にも十分注意した。一つの隅だけがなにかのはずみでちぎれてしまっていたけれど、もとの形が長方形であることはわかった。実際、それはちょうど控書として――なにか長く記憶し大切に保存すべきことを書きしるすものとして――選ばれそうなものなんだ」
「しかしだね」
「君は、甲虫の絵を描いたときにはその頭蓋骨は羊皮紙の上になかったと言う。とすると、どうしてボートと頭蓋骨のあいだに連絡をつけるんだい? ――その頭蓋骨のほうは、君自身の認めるところによれば、(どうして、また誰によって、描かれたか、ということはわからんが)君が甲虫を描いたのちに描かれたにちがいないんだからねえ」

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