エドガー・アラン・ポー Edgar Allan Poe 佐々木直次郎訳『黄金虫』 「おい、ジャップ」…

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青空文庫図書カード: エドガー・アラン・ポー Edgar Allan Poe 佐々木直次郎訳『黄金虫』

現代語化

「おい、ジャップ」
「どうしたの?――旦那さんは元気かい?」
「はい、実は、旦那さまはあまり元気じゃございません」
「元気じゃない! それは大変なことだ。どこが悪いと言ってるんだい?」
「そこなんです!どこも悪くないっておっしゃるんですが、――それがひどい病気なんです」
「ひどい病気だって!ジュピター。――どうしてすぐにそう言わないんだ?ベッドに臥せってるのかい?」
「いいえ、そうじゃないんです!――どこにも寝ていらっしゃらないんです、――そこが困ったことで、――私はかわいそうなウィル旦那のことで胸がいっぱいです」
「ジュピター、もっとわかりやすく言ってほしいな。旦那が病気だって言うのに、旦那は何も言わないのか?」
「はい、旦那さま、それがまたおかしくて困るんです。――ウィル旦那は元気だって言ってるんですが、――それなのに、どうして、頭を下げて、肩をすぼめて、幽霊みたいに真っ青になって、こんな格好をして歩き回るんですか?それにまた、いつも計算してるんです」
「何をやってるんだい?――ジュピター」
「石盤に数字を書いて計算してるんです、――私が今まで見たことのない変な数字です。本当に、私は怖くなってきました。旦那のすることにはしっかり目を配っておかないといけないんです。この間も、夜明け前に私を巻いて、その日は一日帰ってきませんでした。私は、旦那が帰って来たらひどく叱ってやろうと思って、大きな棒を用意しました。――でも、私はバカで、どうしてもそんな元気が出ないんです。――旦那があまりにかわいそうな様子をしてるもんですから」
「え?――何だって?――うん、そうか!――まあまあ、そんなかわいそうな者にはあんまりひどいことをしないほうがいいと思うな。――折檻したりしないでくれ、ジュピター。――そんなことをされたら旦那はとてもたまるまいからね。――だが、どうしてそんな病気に、と言うよりそんな変なことをするように、なったのか、お前にはなにも心当たりはないのかい?この前私がお前のところへ行ってから、何か面白くないことでもあったのかい?」
「いいえ、旦那さま、あれから後は何も面白くないことなんてございません。――それはそれ以前のことだと思います。――あなたが来てくださったあの日のことです」
「どうして?何のことだい?」
「あの虫のことです、――それ」
「あの何だって?」
「あの虫です。――きっと、ウィル旦那はあの黄金虫に頭のどこかを噛まれたんです」
「と思うような理由があるのかい?――ジュピター」
「爪も、口もありますよ、旦那さま。私はあんな気持ち悪い虫見たことがありません。――そばへ来るものには何でも蹴ったり噛んだりするんです。ウィル旦那が最初につかまえましたが、すぐにまた逃がさないといけませんでした。――その時、噛まれたに違いありません。私は自分ではあの虫の口の形が気に入らなくて、指では持ちたくなかったので、見つけた紙切れでつかまえました。紙に包んでしまって、その紙切れの端をその口に押し込んでやりました――そんな具合にやったんです」
「じゃあ、お前は旦那が本当にその甲虫に噛まれて、それで病気になったのだと思うんだな?」
「そう思うんじゃございません、――そうと知ってるんです。あの黄金虫に噛まれたのでなければ、どうしてあんなにしょっちゅう黄金の夢を見てるんでしょうか?私は前にもあんな黄金虫の話聞いたことがあります」
「しかし、どうして旦那が黄金の夢を見ているということがお前わかるんだい?」
「どうしてわかるかって?それは、寝言にまでそのことを言ってるんです――それでわかるんです」
「なるほど、ジャップ。たぶんお前の言うとおりかもしれん。だが、きょうお前がここへ来たのは、どんな用事なのかな?」
「なんでございます?旦那さま」
「お前はルグラン君から何か伝言を言いつかってきたのかい?」
「いいえ、旦那さま、この手紙を持ってまいりました」
「拝啓。どうして君はこんなに長く訪ねて来てくれないのか? 僕のちょっとした無愛想などに腹を立てるようなバカな君ではないと思う。いや、そんなことはあるはずがない。この前君に会ってから、僕には大きな心配事ができている。君に話したいことがあるのだが、それをどんな具合に話していいか、あるいはまた話すべきかどうかも、わかりかねるのだ。僕はこの数日あまり具合がよくなかったが、ジャップめは好意のおせっかいからまるで耐えがたいくらいに僕を悩ませる。君は信じてくれるだろうか?――彼は先日、大きな棒を用意して、そいつで、僕が彼を巻いて一人で本土の山中にその日を過ごしたのを懲らそうとするのだ。僕が病気のような顔つきをしていたばかりにその折檻を免れたのだと、僕はほんとに信じている。この前お目にかかって以来、僕の標本棚には何も加えるところがない。もしなんとか都合がついたら、ジュピターと同道にて来てくれたまえ。ぜひ来てくれたまえ。重大な用件について、今晩お目にかかりたい。もっとも重大な用件であることを断言します。</div><div class="chitsuki_5" style="text-align:right; margin-right: 5em">敬具</div><div class="chitsuki_2" style="text-align:right; margin-right: 2em">ウィリアム・ルグラン</div>」

原文 (会話文抽出)

「おい、ジャップ」
「どうしたんだい? ――旦那はどうかね?」
「へえ、ほんとのことを申しますと、旦那さま、うちの旦那はあんまりよくねえんでがす」
「よくない! それはほんとに困ったことだ。どこが悪いと言っているのかね?」
「それ、そこがですよ! どこも悪いと言っていらっしゃらねえだが、――それがてえへん病気なんでがす」
「たいへん病気だって! ジュピター。――なぜお前はすぐそう言わないんだ? 床に寝ているのかい?」
「いいや、そうでねえ! ――どこにも寝ていねえんで、――そこが困ったこっで、――わっしは可哀えそうなウィル旦那のことで胸がいっぺえになるんでがす」
「ジュピター、もっとわかるように言ってもらいたいものだな。お前は旦那が病気だと言う。旦那はどこが悪いのかお前に話さないのか?」
「へえ、旦那さま、あんなこっで気が違うてなぁ割に合わねえこっでがすよ。――ウィル旦那はなんともねえって言ってるが、――そんならなんだって、頭を下げて、肩をつっ立って、幽霊みてえに真っ蒼になって、こんな格好をして歩きまわるだかね? それにまた、しょっちゅう計算してるんで――」
「なにをしているって? ジュピター」
「石盤に数字を書いて計算してるんでがす、――わっしのいままで見たことのねえ変てこな数字でさ。ほんとに、わっしはおっかなくなってきましただ。旦那のすることにゃあしっかり眼を配ってなけりゃなんねえ。こねえだも、夜の明けねえうちにわっしをまいて、その日一日いねえんでがす。わっしは、旦那が帰って来たらしたたかぶん殴ってくれようと思って、でっけえ棒をこせえときました。――だけど、わっしは馬鹿で、どうしてもそんな元気が出ねえんでがす。――旦那があんまり可哀えそうな様子をしてるで」
「え? ――なんだって? ――うん、そうか! ――まあまあ、そんなかわいそうな者にはあんまり手荒なことをしないほうがいいと思うな。――折檻したりなんぞしなさんな、ジュピター。――そんなことをされたら旦那はとてもたまるまいからね。――だが、どうしてそんな病気に、というよりそんな変なことをするように、なったのか、お前にはなにも思い当らないのかね? この前僕がお前んとこへ行ってからのち、なにか面白くないことでもあったのかい?」
「いいや、旦那さま、あれからあとにゃあなんにも面白くねえことってごぜえません。――そりゃああれより前のこったとわっしは思うんでがす。――あんたさまがいらっしゃったあの日のことで」
「どうして? なんのことだい?」
「なあに、旦那さま、あの虫のこっでがすよ、――それ」
「あの何だって?」
「あの虫で。――きっと、ウィル旦那はあの黄金虫に頭のどっかを咬まれたんでがす」
「と思うような理由があるのかね? ジュピター」
「爪も、口もありんでがすよ、旦那さま。わっしはあんないまいましい虫あ見たことがねえ。――そばへ来るもんはなんでもみんな蹴ったり咬みついたりするんでさ。ウィル旦那が初めにつかまえただが、すぐにまたおっ放さなけりゃなんなかっただ。――そんときに咬まれたにちげえねえ。わっしは自分じゃああの虫の口の格好が気に食わねえんで、指では持ちたくねえと思って、めっけた紙っきれでつかまえましただ。紙に包んでしまって、その紙っきれの端をそいつの口に押しこんでやりましただ、――そんなぐあいにやったんでがす」
「じゃあ、お前は旦那がほんとうにその甲虫に咬まれて、それで病気になったのだと思うんだな?」
「そう思うんじゃごぜえません、――そうと知ってるんでがす。あの黄金虫に咬まれたんでなけりゃあ、どうしてあんなにしょっちゅう黄金の夢をみてるもんかね? わっしは前にもあんな黄金虫の話を聞いたことがありますだ」
「しかし、どうして旦那が黄金の夢をみているということがお前にわかるかね?」
「どうしてわかるって? そりゃあ、寝言にまでそのことを言ってなさるからでさ、――それでわかるんでがす」
「なるほど、ジャップ。たぶんお前の言うとおりかもしれん。だが、きょうお前がここへご入来になったのは、どんなご用なのかな?」
「なんでごぜえます?ゞ那さま」
「お前はルグラン君からなにか伝言を言いつかってきたのかい?」
「いいや、旦那さま、この手紙を持ってめえりましただ」
「拝啓。どうして君はこんなに長く訪ねに来てくれないのか? 僕のちょっとした無愛想などに腹を立てるような馬鹿な君ではないと思う。いや、そんなことはあるはずがない。 この前君に会ってから、僕には大きな心配事ができている。君に話したいことがあるのだが、それをどんなぐあいに話していいか、あるいはまた話すべきかどうかも、わかり兼ねるのだ。 僕はこの数日来あまりぐあいがよくなかったが、ジャップめは好意のおせっかいからまるで耐えがたいくらいに僕を悩ませる。君は信じてくれるだろうか? ――彼は先日、大きな棒を用意して、そいつで、僕が彼をまいて一人で本土の山中にその日を過したのを懲らそうとするのだ。僕が病気のような顔つきをしていたばかりにその折檻をまぬかれたのだと、僕はほんとうに信じている。 この前お目にかかって以来、僕の標本棚にはなんら加うるところがない。 もしなんとかご都合がついたら、ジュピターと同道にて来てくれたまえ。ぜひ来てくれたまえ。重大な用件について、今晩お目にかかりたい。もっとも重大な用件であることを断言する。</div><div class="chitsuki_5" style="text-align:right; margin-right: 5em">敬具</div><div class="chitsuki_2" style="text-align:right; margin-right: 2em">ウィリアム・ルグラン」

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