太宰治 『誰』 「僕はね、或る学生からサタンと言われたんで…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 太宰治 『誰』

現代語化

「アタシね、ある生徒からサタンって言われたんや。」
「イライラすっけど、気になって色々調べてるねんけど、悪魔とか悪霊とか、ほんまにこの世におるんやろか。アタシにはみんないい奴に見えんねん。人の失敗を責められん。無理もないかなって思うねん。ほんまに悪い奴なんて見たことないねん。みんな同じようなもんちゃうの?」
「あんたは悪魔の素質があるから、普通の悪には驚かないだけや。」
「大悪人からしたら、この世の人間はみんな甘いガキやろ。」
「アホやな」
「そうなんですか。」
「そしたらあんたも、やっぱりわたしのこと信用してへんねんやな。ほんなら仕方がないわ。」
「怒るなよ。あんたすぐ怒るからアカンねん。さっき人の失敗を責められへんとかキリストみたいなこと言うから、ちょっと嫌味言ってみただけや。ほんまに悪い奴なんて見たことないとか言うけど、アタシは見たことあるで。2、3年前に新聞で読んだんやけど、ポストにマッチの火を投げ入れて、中の郵便物燃やして喜んでた男がおったねん。病気とかじゃなくて、ただ暇つぶしに毎日毎日いろんなポストの郵便物燃やし回ってたねん。」
「それはひどいなぁ。」

原文 (会話文抽出)

「僕はね、或る学生からサタンと言われたんです。」
「いまいましくて仕様が無いから、いろいろ研究しているのですが、いったい、悪魔だの、悪鬼だのというものが此の世の中に居るんでしょうか。僕には、人がみんな善い弱いものに見えるだけです。人のあやまちを非難する事が出来ないのです。無理もないというような気がするのです。しんから悪い人なんて僕は見た事がない。みんな、似たようなものじゃないんですか?」
「君には悪魔の素質があるから、普通の悪には驚かないのさ。」
「大悪漢から見れば、この世の人たちは、みんな甘くて弱虫だろうよ。」
「馬鹿」
「そうですか。」
「それでは、あなたも、やっぱり私を信用していないのですね。そういうもんかなあ。」
「怒るなよ。君は、すぐ怒るからいけない。君がいま人のあやまちを非難する事が出来ないとか何とか、キリストみたいに立派な事を言うもんだから、ちょっと、厭味を言ってみたんだ。しんから悪い人なんて見た事が無いと君は言うけれども、僕は見た事がある。二、三年前に新聞で読んだ事がある。ポストにマッチの火を投げ入れて、ポストの中の郵便物を燃やして喜んでいた男があった。狂人ではない。目的の無い遊戯なんだ。毎日、毎日、あちこちのポストの中の郵便物を焼いて歩いた。」
「それあ、ひどい。」


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