岡本綺堂 『半七捕物帳』 「やあ、お鉄。来ていたのか」…

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青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

現代語化

「やあ、お鉄。来てたのか」
「さっきから来てました」
「それはよかった。実はこれからお前を呼び出そうと思ってたんだ」
「いきなりだけど、あの男は何者?」
「捕まえられたのか」
「それが失敗したんだ」
「俺に追いかけられて、とうとう池に飛び込んでしまった。引き揚げたけどもうダメだった。惜しいことをした。こうなったら、どうしてもお前を調べるしかない。この間の晩も言った通り、いろいろ言いづらいこともあるだろうけど、もう諦めて全部話してもらわないと困る。そうしないと、お前だけでなく、加賀屋の店に迷惑がかかるかもしれないし、主人にも迷惑をかけて済まない……。だから、そこを考えて正直に話してくれ」
「わかりました」
「実はそれを話そうと思って、あそこからすぐにここに来て、こうして待ってましたので、もう全部正直に話します」
「むむ。そうじゃなきゃ困る。それで、一体あの男は何者なんだ。やっぱりお前と同じ土地の奴か」
「はい、隣村の安吉という百姓です」
「いつ頃から江戸に出てるんだ」
「確か8月の中頃って言ってました。私が会ったのは8月15日、若いおかみさんの付き添いで八幡様のお祭りを観に行った時です」
「その後、あいつはどこで何してたんだ」
「よくわかりませんが、ぶらぶらしてただけのようです」
「とにかく、土地にいた時も怠け者で、博打ばっかりしてたような奴だったらしいからな」
「そんな怠け者の安吉が、今夜はどんな用で来たんだ」
「いや、これからが肝心なところだ。お前もあいつを殺そうと思うくらい追い詰めたということは、それなりに理由があるはずだ。お前が殺そうと思ったあいつはもう死んでる。お前の思いも届いたんだから、今更未練がましく隠さなくてもいいだろう。あいつはお前の恋人か」
「いいえ、そんなことは……」
「あいつは私を殺そうとした奴なんです」
「その理由を聞こうじゃないか。仇なら殺しても構わない。一体それは親の仇か、主人の仇か、お前の仇か」
「主人の仇で、私にも仇です」
「もうどうしても許せなくなって、殺してしまおうと思いました。実はこの間の晩も剃刀を持って両国橋の上で待ってたんです」
「そうか」
「まさかそんなこととは思いませんでした。それで、その主人は加賀屋のことですか?それともお前が付き添ってた若いおかみさんのことですか?」
「それを話す約束でしょ?」
「お前もそれを話すつもりでわざわざ来たんだろうじゃないか。今更黙っちゃ困るよ。え、その仇というのは若いおかみさんの仇ですか?」
「はい」
「いろいろと無理を言って、私たちをいびるんです」
「なぜいびる?こっちにもまた、あいつに言われても困るような弱点でもあんのか」
「はい」
「なにか内緒のことでも知ってるのか」

原文 (会話文抽出)

「やあ、お鉄。来ていたのか」
「先程からお邪魔をして居りました」
「そりゃあ、丁度いい。実はこれからお前を呼び出そうと思っていたところだ」
「早速だが、あの男は何者だえ」
「お召し捕りになりましてございましょうか」
「それが失敗ったよ」
「おれに追いつめられて、とうとう池へ飛び込んでしまった。引き揚げたがもういけねえ。惜しいことをした。もうこうなると、どうしてもお前を調べるよりほかはねえ。このあいだの晩も云う通り、そりゃあいろいろ云いづれえこともあるだろうが、もう仕方がねえと覚悟して何もかも云ってくれねえじゃあ困る。それでねえと、おめえばかりでなく、加賀屋の店に迷惑になるようなことが出来ねえとも限らねえ。主人にまで迷惑をかけちゃあ済むめえが……。ねえ、そこを考えて正直に云ってくれ」
「よく判りましてございます」
「実はそれを申し上げようと存じまして、あれからすぐにこちらへ出まして、こうしてお待ち申して居りましたのでございますから、もう何もかも正直に申し上げます」
「むむ。それでなけりゃあいけねえ。そこで一体あの男は何者だえ。やっぱりおめえとおなじ土地の者かえ」
「はい、隣り村の安吉という百姓でございます」
「いつ頃から江戸へ出ているんだ」
「なんでもこの八月の中頃だと申して居りました。わたくしが逢いましたのは八月の十五日、若いおかみさんのお供をして八幡様のお祭りを見物にまいりました時でございます」
「それから彼奴はどこに何をしていたんだ」
「それはよく判りませんが、唯ぶらぶらしていたようでございます」
「なにしろ、土地にいた時も怠け者で、博奕なんぞばかりを打っていたような奴でございますから」
「その怠け者の安吉が今夜はなんの用で来たんだ」
「いや、これからが肝腎のところだ。お前もあいつを殺そうと思いつめた程ならば、それにはよくよくの訳がなけりゃあならねえ。おめえが殺そうと思ったあいつはもう死んでいる。おめえの念もとどいた以上、今さら未練らしく隠し立てをするにも及ぶめえ。あれはお前の情夫かえ」
「いいえ、決してそんなことは……」
「あいつはわたくしの仇でございます」
「その仇のわけを聞こうじゃねえか。仇なら殺しても構わねえ。一体それは親の仇か、主人の仇か、おめえの仇か」
「主人のかたきで、わたくしにも仇でございます」
「もうどうしても勘弁がならなくなって、いっそ殺してしまおうと思いました。実はこのあいだの晩も剃刀を持って両国橋の上に待っていたのでございます」
「そうか」
「まさかそんなこととは気がつかなかった。そこでその主人というのは加賀屋のことかえ。それともお前が付いて来た若いおかみさんのことかえ」
「それを話す約束じゃあねえか」
「お前もまた、それを話す積りでわざわざ来たんだろうじゃあねえか。今さら唖になってしまわれちゃあ困る。え、その仇というのは若いおかみさんの仇かえ」
「左様でございます」
「いろいろの無理を云って、わたくし共を窘めるのでございます」
「なぜ窘める。こっちにも又、なにか彼奴に窘められるような弱身があるのかえ」
「はい」
「なにか内証のことでも知っているのかえ」

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