岡本綺堂 『半七捕物帳』 「松茸で思い出したが、あの加賀屋の人達はど…

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青空文庫図書カード: 岡本綺堂 『半七捕物帳』

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「マツタケで思い出したけど、加賀屋の連中はその後どうなったのかな」
「明治になってから横浜に引っ越して、今も繁盛してるらしいですよ。お鉄の家は浅草に引っ越して、これも繁盛してるみたい」
「世の中って変わるもんだね。今はどうってことないことでも、当時は大騒ぎになる。12月の寒い夜に不忍池に飛び込んで、こっちも凍え死にそうになったよ。あいつは散々な目に遭ったな」
「それはどういうことなんですか?あなたが飛び込んだんですか」
「まあ、そうだよ」
「今夜はそんな話をする予定じゃなかったんだけど、あなたが聞き出したんだから仕方がないね。今夜の余興に、おしゃべりをさせてもらおうかな。そうなると、三浦さんも関係してくるんだから、まず序でに太田のマツタケの話をしてくださいよ」
「ははは、ひどいな。私に前座をやらせるのか。まあ、いいよ。話しましょう」
「話の順番として最初にマツタケ献上のことを説明しないと、よく筋道が理解できないかもしれないですね。ご存知の上州太田の呑竜様、そこの金山っていうところが昔は幕府にマツタケを献上する場所になっていました。だから旧暦の8月8日からは、幕府のお止め山ということで、誰も金山に登ることができなくなります。この山で採れたマツタケが将軍の口に入るというんだから、大騒ぎですよ。太田の金山から江戸まで一昼夜で運ぶのが決まりで、山から下ろすとすぐに人足の肩にかけて次の宿に送り込む。その宿の問屋場にも人足が待っていて、それを受け取るとまたすぐに運んで次の宿に送る。こんな風にどんどん宿送りになっていくから、決してのんびりしてはいられない。受け取るとすぐに走り出すので、宿々の問屋場はてんやわんやですよ。それ御松茸……決して松茸なんて呼び捨てにはしません……が見えるというと、問屋場の役人も人足も総出で出迎えをする。いや、今から考えるとまるで嘘みたいです。マツタケの籠は琉球の畳表で包んで、その上から紺色の染麻で厳重に縛って、封印がしてあります。その荷物の周りに手代りの人足が何人も付き添って、一番先に『御松茸御用』という札を掲げて、わっしょいわっしょいとかついでくる。まるで神輿でも通るようでした。はははははは。いや、今はこうして笑ってますけど、当時は笑い事じゃありません。一つ間違えるとどうなるかわからないから、みんな血まなこで必死でした。とにかくこれでマツタケ献上の手順はわかったでしょうから、肝心な話は半七老人にしてもらいます」
「では、いよいよ本題に入りますね」

原文 (会話文抽出)

「松茸で思い出したが、あの加賀屋の人達はどうしたかしら」
「なんでも明治になってから横浜へ引っ越して、今も繁昌しているそうですよ。お鉄の家は浅草へ引っ越して、これも繁昌しているらしい」
「世の中の変るというのは不思議なもので、今ならば何でもないことだが、あの時分には大騒ぎになる。十二月の寒い晩に不忍池へ飛び込んで、こっちも危く凍え死ぬところ。あいつは全くひどい目に逢った」
「それはどういう事件なのですか。あなたが飛び込んだのですか」
「まあ、そうですよ」
「今夜はそんな話はしない積りだったが、あなたが聴き出したらどうで堪忍する筈がない。今夜の余興に、一席おしゃべりをしますかな。そうなると、三浦さんも係り合いは抜けないのだから、まず序びらきに太田の松茸のことを話してください」
「ははは、これはひどい。わたしに前講をやらせるのか。まあ、仕方がない。話しましょう」
「お話の順序として最初に松茸献上のことをお耳に入れて置かないと、よくその筋道が呑み込めないことになるかも知れません。御承知の上州太田の呑竜様、あすこにある金山というところが昔は幕府へ松茸を献上する場所になっていました。それですから旧暦の八月八日からは、公儀のお止山ということになって、誰も金山へは登ることが出来なくなります。この山で採った松茸が将軍の口へはいるというのですから、その騒ぎは大変、太田の金山から江戸まで一昼夜でかつぎ込むのが例になっていて、山からおろして来ると、すぐに人足の肩にかけて次の宿へ送り込む。その宿の問屋場にも人足が待っていて、それを受け取ると又すぐに引っ担いで次の宿へ送る。こういう風にだんだん宿送りになって行くんですから、それが決してぐずぐずしていてはいけない。受け取るや否やすぐに駈け出すというんですから、宿々の問屋場は大騒ぎで、それ御松茸……決して松茸などと呼び捨てにはなりません……が見えるというと、問屋場の役人も人足も総立ちになって出迎いをする。いや、今日からかんがえると、まるで嘘のようです。松茸の籠は琉球の畳表につつんで、その上を紺の染麻で厳重に縛り、それに封印がしてあります。その荷物のまわりには手代りの人足が大勢付き添って、一番先に『御松茸御用』という木の札を押し立てて、わっしょいわっしょいと駈けて来る。まるで御神輿でも通るようでした。はははははは。いや、今だからこうして笑っていられますが、その時分には笑いごとじゃありません。一つ間違えばどんなことになるか判らないのですから、どうして、どうして、みんな血まなこの一生懸命だったのです。とにかくそれで松茸献上の筋道だけはお判りになりましたろうから、その本文は半七老人の方から聴いてください」
「では、いよいよ本文に取りかかりますかな」

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