横光利一 『蠅』 「馬車はいつ出るのでござんしょうな。悴が死…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『蠅』

現代語化

「馬車はいつ出るんですか？息子が死にかけてるんで、早く街に行かないと死に目に会えなくなっちゃうと思って。」
「それは困ったね。」
「もう出るんでしょ？さっきそう言ってたじゃないですか。」
「あれ？何してるんだろ。」
「馬車に乗りに来たんですか？馬車は出ませんよ。」
「出ないんですか？」
「出ませんよ？」
「もう2時間も待ってるんですけど、出ないですね。街まで3時間かかりますよね。もう何時ですか？街に着くとお昼になりますか？」
「そりゃお昼だね。」
「お昼になりますか。それまでに死んじゃいますよ。お昼になりますか？」
「まだかなあ。馬車はまだ全然出ないのかなあ？」

原文 (会話文抽出)

「馬車はいつ出るのでござんしょうな。悴が死にかかっていますので、早よ街へ行かんと死に目に逢えまい思いましてな。」
「そりゃいかん。」
「もう出るのでござんしょうな、もう出るって、さっきいわしゃったがの。」
「さアて、何しておるやらな。」
「馬車に乗りなさるのかな。馬車は出ませんぞな。」
「出ませんか？」
「出ませんの？」
「もう二時間も待っていますのやが、出ませんぞな。街まで三時間かかりますやろ。もう何時になっていますかな。街へ着くと正午になりますやろか。」
「そりゃ正午や。」
「正午になりますかいな。それまでにゃ死にますやろな。正午になりますかいな。」
「まだかのう。馬車はまだなかなか出ぬじゃろか？」

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