太宰治 『清貧譚』 「どうも、けさほどは失礼いたしました。とこ…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『清貧譚』

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「どうも、今朝ほどは失礼いたしました。ところで、どうですか。今、姉と話した事でしたが、お見受けしたところ、失礼ながら、あまり楽な暮らしではないようですね。私の方でも半分畑をお貸しすれば、いい菊を作って差し上げますから、それを浅草あたりへ持って行って売ってはいかがですか。ぜひ、いい菊を作って差し上げたいと思います。」
「お断りします。あなたも、せこい人ですね。」
「私は、あなたを、風流な高士かと思っていましたが、いや、これは意外です。自分の愛する花を売って米塩の資にするなんて、もってのほかです。菊を侮辱するとは、このことです。自分の高い趣味を、お金に替えるなんて、ああ、汚らわしい。お断りします。」
「天から貰った自分の実力で米塩の資を得ることは、必ずしも富をむさぼる悪業ではないと思います。俗っぽいと言って軽蔑するのは、間違いです。若旦那の言うことです。いい気なものですね。人は、むやみに金を欲しがってもいけませんが、やたらに貧乏を誇るのも、いやみなことです。」
「私は、いつ貧乏を誇りました。私には、祖先からの多少の遺産もあります。自分一人の生活には、それで十分なんです。それ以上の富は望みません。余計なおせっかいは、やめてください。」
「それは、頑固な人ですね。」
「頑固、結構です。若旦那でも、構いません。私は、私の菊と喜怒哀楽を共にして生きて行くだけです。」
「それは、わかりました。」
「ところで、どうでしょうか。あの納屋の後ろの方に、十坪ばかりの空き地がありますが、あれだけでも、私たちに、しばらく貸していただけませんか。」
「私は物を惜しむ人間ではありません。納屋の後ろの空き地だけでは足りないでしょう。私の菊畑の半分はまだ何も植えていませんから、その半分もお貸ししましょう。ご自由に利用してください。ただ、断っておきますが、私は、菊を作って売ろうなどという下心のある人たちとは、お付き合いできませんから、今日からは、他人と思っていただきます。」
「承知しました。」
「お言葉に甘えて、それでは畑も半分だけお借りしましょう。あと、あの納屋の後ろに、菊の屑苗がたくさん捨てられていますが、あれも頂戴いたします。」
「そんなつまらないことを、いちいちおっしゃらなくてもいいですよ。」

原文 (会話文抽出)

「どうも、けさほどは失礼いたしました。ところで、どうです。いまも姉と話合つた事でしたが、お見受けしたところ、失礼ながら、あまり楽なお暮しでもないやうですし、私に半分でも畑をお貸し下されば、いい菊を作つて差し上げませうから、それを浅草あたりへ持ち出してお売りになつたら、よろしいではありませんか。ひとつ、大いに佳い菊を作つて差し上げたいと思ひます。」
「お断り申す。君も、卑劣な男だねえ。」
「私は、君を、風流な高士だとばかり思つてゐたが、いや、これは案外だ。おのれの愛する花を売つて米塩の資にする等とは、もつての他です。菊を凌辱するとは、この事です。おのれの高い趣味を、金銭に換へるなぞとは、ああ、けがらはしい、お断り申す。」
「天から貰つた自分の実力で米塩の資を得る事は、必ずしも富をむさぼる悪業では無いと思ひます。俗といつて軽蔑するのは、間違ひです。お坊ちやんの言ふ事です。いい気なものです。人は、むやみに金を欲しがつてもいけないが、けれども、やたらに貧乏を誇るのも、いやみな事です。」
「私は、いつ貧乏を誇りました。私には、祖先からの多少の遺産もあるのです。自分ひとりの生活には、それで充分なのです。これ以上の富は望みません。よけいな、おせつかいは、やめて下さい。」
「それは、狷介といふものです。」
「狷介、結構です。お坊ちやんでも、かまひません。私は、私の菊と喜怒哀楽を共にして生きて行くだけです。」
「それは、わかりました。」
「ところで、どうでせう。あの納屋の裏のはうに、十坪ばかりの空地がありますが、あれだけでも、私たちに、しばらく拝借ねがへないでせうか。」
「私は物惜しみをする男ではありません。納屋の裏の空地だけでは不足でせう。私の菊畑の半分は、まだ何も植ゑてゐませんから、その半分もお貸し致しませう。ご自由にお使ひ下さい、なほ断つて置きますが、私は、菊を作つて売らう等といふ下心のある人たちとは、おつき合ひ致しかねますから、けふからは、他人と思つていただきます。」
「承知いたしました。」
「お言葉に甘えて、それでは畑も半分だけお借りしませう。なほ、あの納屋の裏に、菊の屑の苗が、たくさん捨てられて在りますけれど、あれも頂戴いたします。」
「そんなつまらぬ事を、いちいちおつしやらなくてもよろしい。」

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