太宰治 『清貧譚』 「もう、私は何も言ひません。理論なんて、ば…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『清貧譚』

現代語化

「もう、私は何も言いません。理論なんて、ばかばかしいですよ。実際、私の作った菊の花を、お見せするしかありません。」
「それは、そうです。」
「それじゃ、どうですか。」
「これから、そのまま、江戸の私の家まで一緒に来てくれませんか。一度でいいから、私の菊を見ていただきたいんです。ぜひ、そうしていただければ。」
「私たちは、そんなのんびりした身分じゃありません。これから江戸に出て、就職先を探さなければいけません。」
「そんなことは、どうってことありません。」
「まず私の家へ来ていただいて、ゆっくり休んで、それから探したって遅くはない。とにかく私の家の菊を、一度ご覧にならなければいけません。」
「これは、たいへんなことになりました。」
「実は、私たちは沼津の者で、私の名前は、陶本三郎と申しますが、早くに両親を亡くし、姉と二人きりで暮らしていました。この頃になって急に姉が、沼津を嫌がりまして、どうしても江戸へ出たいと言いますので、私たちは持ち物を全部整理して、今、江戸へ行く途中なんです。江戸へ出たところで、何のあてもございませんし、心細い旅なのです。のんびり菊の花など議論してる場合ではありませんでした。私も菊の花は、嫌いではないものですから、つい、余計なことを言ってしまいました。もう、やめましょう。どうか、あなたもお忘れください。これで、お別れします。考えてみると、今の私たちは、菊の花どころではないんです。」
「お待ちください。それではなおさら私の家へ来ていただかなくてはいけません。くよくよなさらないでください。私もとても貧しいですが、あなた方を世話するくらいはできるつもりです。まあ、いいから私に任せてください。姉さんも一緒だとおっしゃいましたが、どこにいらっしゃるんですか。」

原文 (会話文抽出)

「もう、私は何も言ひません。理論なんて、ばからしいですよ。実際、私の作つた菊の花を、お見せするより他はありません。」
「それは、さうです。」
「それぢや、どうです。」
「これから、まつすぐに、江戸の私の家まで一緒にいらして下さいませんか。ひとめでいいから、私の菊を見てもらひたいものです。ぜひ、さうしていただきたい。」
「私たちは、そんなのんきな身分ではありません。これから江戸へ出て、つとめ口を捜さなければいけません。」
「そんな事は、なんでもない。」
「まづ私の家へいらして、ゆつくり休んで、それからお捜しになつたつておそくは無い。とにかく私の家の菊を、いちど御覧にならなくちやいけません。」
「これは、たいへんな事になりました。」
「実は、私たち沼津の者で、私の名前は、陶本三郎と申しますが、早くから父母を失ひ、姉と二人きりで暮してゐました。このごろになつて急に姉が、沼津をいやがりまして、どうしても江戸へ出たいと言ひますので、私たちは身のまはりのものを一さい整理して、ただいま江戸へ上る途中なのです。江戸へ出たところで、何の目当もございませんし、思へば心細い旅なのです。のんきに菊の花など議論してみる場合ぢや無かつたのでした。私も菊の花は、いやでないものですから、つい、余計のおしやべりをしてしまひました。もう、よしませう。どうか、あなたも忘れて下さい。これで、おわかれ致します。考へてみると、いまの私たちは、菊の花どころでは無かつたのです。」
「待ち給へ。そんな事なら、なほさら私の家へ来てもらはなくちやいかん。くよくよし給ふな。私だつて、ひどく貧乏だが、君たちを世話する事ぐらゐは出来るつもりです。まあ、いいから私に任せて下さい。姉さんも一緒だとおつしやつたが、どこにゐるんです。」

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