太宰治 『新釈諸国噺』 「ああ、重い。あなたは、どうなの? 重くな…

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青空文庫図書カード: 太宰治 『新釈諸国噺』

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「ああ、重い。あなたも重いんでしょ? 嬉しそうに歩いてるけど。お祭りじゃないんですよ。私たちもう子供じゃないんだから、こんな赤い大太鼓担いでお宮参りなんて、板倉様も意地悪。もう、人の面倒見るのなんて絶対嫌。あなたたちは、人の面倒見たいだけで、お酒飲んで騒ぎたいんでしょ? バカみたい。しかもこんな赤い大太鼓担がされて、いい見せ物にされて、――」
「そう言うなよ。物事は考えようだ。さっきの役所の前の人出、どうだった? 俺は生まれてこんなに人にチヤホヤされたことないよ。人気者だよ、俺たち。」
「何言ってるんですか。そりゃあそうですよ。今朝もソワソワしてて、あの着物この着物って三回も着替えて、薄化粧もしてたでしょ。そうでしょ? 正直に言ってみて。」
「バカなこと言うな。バカバカしい。」
「でも、いい天気ですねぇ。」
「お父さん、」
「亡くなったお母さんが、私たちがこんなカッコしてるの見て、恥ずかしくて泣いてると思いますよ。お父さんは自業自得だから仕方ないけど、私までこんな赤い大太鼓担がされて、チンドン屋みたいにさせられて、お母さん絶対お父さんのこと恨んで、幽霊になって出るよ。」
「脅すな。俺だって好きで担いでるわけじゃないし、こんな派手なものを若いお前たちに担がせるのも心が痛いよ。」
「そう言ってるでしょ。心が痛いなんて、そんな気の利いた言葉はどこで覚えてきたんですか? おかしいですよ。お父さんに似合ってるよ、この太鼓。お父さんって派手好きだから、赤が似合うんですよ。今度、真新しい赤い羽織を作ってあげましょうね。」
「からかうな。だるまじゃないんだから、赤い半纏なんてのはお祭りくらいにしか着られないよ。」
「でも、お父さんって年中お祭りみたいにソワソワしてるじゃないですか。だから陰でお祭り野郎って呼ばれてたんですよ。」
「誰だよ、ひどい奴だな。誰だそんなこと言った奴は。このままじゃおかないよ。」
「私よ、私が言ったのよ。何かにつけて近所の人たちを集めてお祭り騒ぎしようとするんだから。いい気味だ。バチが当たったんだよ。お奉行様はさすがだわ。お父さんのお祭り野郎を見抜いて、罰としてこんな真っ赤なお祭り太鼓担がせて、改心させようとしてるんだね。」
「畜生! 太鼓担いでなかったらぶん殴ってやるんだが、しょうがねえな。徳兵衛が可哀想になって、親分肌を出したばっかりに、こうなったんだ。」
「親分肌だって。おかしいですよ、お父さん。自分でそんなこと言うなんて、ボケてる証拠よ。もっと、ちゃんとしなきゃダメですよ。」
「この野郎、黙れ。」
「あなたも、不思議ですよね。普段はあんなにケチで、お客さんのタバコばっかり吸ってるのに、この時はなぜかあっさり十両の大金出したんですね。」
「そりゃあ、男の世界は違うんだ。義を見てせざるは勇なきなり。普段のケチも、こういう施しに備えて、――」
「いい加減にしてよ。私は知ってるよ。あなたは前から、徳兵衛さんのおかみさんを褒めてたでしょ。ひょっとして、思惑があるんじゃないの? いい歳こいて、鬼がくしゃみして自分でおどろいてるみたいな顔して、思惑も呆れちゃうよ。いや、私は知ってるよ。あなた、年齢を考えてよ。孫が三人もいるくせに、隣のおかみさんに色目使ったりして、あなたは人間ですか? 人間の道を知ってるんですか? 私は知ってるよ。そのせいでこんな重い太鼓も担がされて、ああ痛っ、また神経痛が起きてきた。明日から、あなたにご飯炊いてもらうよ。薪割りもしてもらわなきゃ困るし、味噌もちゃんと練ってもらって、井戸は遠いからいい気味だ、毎朝手桶に五杯汲んで台所の水甕に入れて、ああ痛っ、こんなバカな亭主を持ったせいで、私は十年は寿命が縮んだよ。」

原文 (会話文抽出)

「ああ、重い。あなたは、どうなの? 重くないの? ばかにうれしそうに歩いているわね。お祭りじゃないんですよ。子供じゃあるまいし、こんな赤い大鼓をかついでお宮まいりだなんて、板倉様も意地が悪い。もうもう、あたしは、人の世話なんてごめんですよ。あなたたちは、人の世話にかこつけて、お酒を飲んで騒ぎたいのでしょう? ばかばかしい。おまけにこんな赤い太鼓をかつがせられて、いい見せ物にされて、――」
「まあ、そう言うな。ものは考え様だ。どうだい、さっきの、お役所の前の人出は。わしは生れてから、あんなに人に囃された事は無い。人気があるぜ、わしたちは。」
「何を言ってるの。道理であなたは、けさからそわそわして、あの着物、この着物、と三度も着かえて、それから、ちょっと薄化粧なさってたわね。そうでしょう? 白状しなさい。」
「馬鹿な事を言うな。馬鹿な。」
「しかし、いい天気だ。」
「お父さん、」
「亡くなったお母さんが、あたしたちのこんないい恰好を見て、草葉の蔭で泣いていらっしゃるでしょうねえ。お父さんは、まあ、自業自得で仕方がないとしても、あたしにまで、こんな赤い太鼓の片棒かつがせて、チンドン屋みたいな事をさせてさ、お母さんはきっと、お父さんをうらんで、化けて出るわよ。」
「おどかしちゃいけねえ。何も、わしだって好きでかついでいるわけじゃないし、また、年頃のお前にこんな判じ物みたいなものを担がせるのも、心苦しいとは思っている。」
「あんな事を言っている。心苦しいだなんて、そんな気のきいた言葉をどこで覚えて来たの? おかしいわよ。お父さんには、この太鼓がよく似合ってよ。お父さんは派手好きだから、赤いものが、とてもよく似合うわ。こんど、真赤なお羽織を一枚こしらえてあげましょうね。」
「からかっちゃいけねえ。だるまじゃあるまいし、赤い半纏なんてのはお祭りにだって着て出られるわけのものじゃない。」
「でも、お父さんは年中お祭りみたいにそわそわしている、あんなのをお祭り野郎ってんだと陰口たたいていた人があったわよ。」
「誰だ、ひでえ奴だ、誰がそんな事を言ったんだ。そのままにはして置けねえ。」
「あたしよ、あたしが言ったのよ。何のかのと近所に寄合いをこしらえさせてお祭り騒ぎをしようとたくらんでばかりいるんだもの。いい気味だわ。ばちが当ったんだわ。お奉行様は、やっぱりえらいな。お父さんのお祭り野郎を見抜いて、こらしめのため、こんな真赤なお祭りの太鼓をかつがせて、改心させようと思っていらっしゃるのに違いない。」
「こん畜生! 太鼓をかついでいなけれや、ぶん殴ってやるんだが、えい、徳兵衛ふびんさに、持前の親分肌のところを見せてやったばっかりに、つまらねえ事になった。」
「持前だって。親分肌だって。おかしいわよ、お父さん。自分でそんな事を言うのは、耄碌の証拠よ。もっと、しっかりしなさいね。」
「この野郎、黙らんか。」
「あなたも、しかし、妙な人ですね。ふだんあんなにけちで、お客さんの煙草ばかり吸っているほどの人が、こんどに限って、馬鹿にあっさり十両なんて大金を出したわね。」
「そりゃあね、男の世界はまた違ったものさ。義を見てせざるは勇なき也。常日頃の倹約も、あのような慈善に備えて、――」
「いい加減を言ってるわ。あたしゃ知っていますよ。あなたは前から、あの徳兵衛さんのおかみさんを、へんにほめていらっしゃったわね。思召しがあるんじゃない? いいとしをして、まあ、そんな鬼がくしゃみして自分でおどろいてるみたいな顔をして、思召しも呆れるじゃないの、いいえ、あたしゃ知っていますよ、あなた、としを考えてごらんなさい、孫が三人もあるくせに、お隣りのおかみさんにへんな色目を使ったりなんかして、あなたはそれでも人間ですか、人間の道を知っているのですか、いいえ、あたしには、わかっていますよ、おかげでこんな重い太鼓なんか担がせられて、あいたたた、あたしゃまた神経痛が起って来た。あしたから、あなたが、ごはんをたくのですよ。薪も割ってもらわなくちゃこまるし、糠味噌もよく掻きまわして、井戸は遠いからいい気味だ、毎朝手桶に五はいくんで来て台所の水甕に、あいたたた、馬鹿な亭主を持ったばかりに、あたしは十年寿命をちぢめた。」

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