横光利一 『微笑』 「しかし、君、そういうところから人間の生活…

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青空文庫図書カード: 横光利一 『微笑』

現代語化

「でもさ、そういうところから人間の人生は始まるんだから、お前もそろそろ始まったってことだよ。大したことじゃねーよ、そんなの。」
「そうッすか？」
「誰も頼れねえところに出たってことさ。ゼロを見たんだよ。この通りは狸穴っていって、狸しかいなかったらしいんだが、それがいつの間にか人間も住むようになって、この通りなんだろ？俺らの一生もいろんなとこ通らなきゃなんねーんだよ。これはどうしよーもない。まー、人間ってのはいつも、始まり始まりって言いながら、太鼓でも叩いて進んでいくんだな。死ぬときだって、俺らそうするっしょ。」
「そうッすね。」

原文 (会話文抽出)

「しかし、君、そういうところから人間の生活は始まるのだから、あなたもそろそろ始まって来たのですよ。何んでもないのだ、それは。」
「そうでしょうか。」
「誰にもすがれないところへ君は出たのさ。零を見たんですよ。この通りは狸穴といって、狸ばかり棲んでいたらしいんだが、それがいつの間にか、人間も棲むようになって、この通りですからね。僕らの一生もいろんなところを通らねばならんですよ。これだけはどう仕様もない。まァ、いつも人は、始まり始まりといって、太鼓でも叩いて行くのだな。死ぬときだって、僕らはそう為ようじゃないですか。」
「そうだな。」

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