夢野久作 『難船小僧』 「チョットお邪魔アしますが親方ア。今、船長…

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青空文庫図書カード: 夢野久作 『難船小僧』

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「ちょっと失礼しますが、親方。今、船長のところへ行って来たんですが……親方が船長に何か言ったらしいんで、水夫の代表として、船長の言い分を聞きに来たんですが」
「ははは。それはご苦労だけど、何も言わなかったよ」
「お前さん、何も船長に言わなかったんですか」
「うん。ちょっと言おうと思ったんだけど、何も返事をしなかったんだ。船長は……」
「へえ。何も返事しないんですか」
「うん。いつもああなんだな、船長は……」
「あの小僧を大事にしてくれとか、何も……親方に頼まなかったんですか」
「バカ。頼まれても引き受けるもんか」
「エムプレス・チャイナへの当てつけにしたわけでもないんですね」
「もちろんないよ。船長はあの小僧が、みんなが集まって怖がるのが気に入らないらしいんだ」
「よし。わかりました。それで船長の考えがわかりました」
「バカな。何を言うんだ。船長だって何もおまえたちの気持ちを踏みにじって、あの小僧を可愛がろうっていう考えじゃないよ。今にわかるよ」
「いやいや。船長を悪く言ってるんじゃないんです。この船の船長は海の上の神様みたいなもんで、万に一つも間違いがあるとは思えないんですけど、腹が立つのはあの小僧なんです。……自分の不吉な前歴も知らずにノソノソとこの船に乗り込んできたのが腹が立つんです……遠慮するするのが当然なのに……ねえ……親方……」
「それはそうだ。自分の過去を考えたら、遠慮するのが常識的だけど、でも、そこは子供だからなあ。何も、おまえたちの面目を潰すつもりで乗ってきたわけじゃないだろう」
「面目は潰れなくても、船が潰れりゃ、同じことです」
「まあまあ、そう言うなよ。俺に任せとけ」
「折角ですが、任せられないんです。この向こう傷は我慢しても、他の奴らが我慢できないんです。可哀想と思うんなら、早くあの小僧を下ろしておいてください。顔を見ても胸糞が悪くて」
「はははは。ひどくのめり込むねえ」
「のめり込んでるんじゃないです。親方。本気で言ってます。この船がこの桟橋を出たら、あの小僧の命がなくなるのは間違いありません……だから言ってるんです」
「よしよし。俺が引き受けた」
「へえ。どう引き受けるんですか……」
「おまえたちの面目が潰れず、船も潰れなかったら文句はないだろう。つまりあの小僧の命を俺が預かるんだ。船長が飼ってるものを、おまえたちが勝手にぶち殺すというわけにはいかないからな。犬でも猫でも……」
「へえ。そんなもんですか。へえ。なるほど。親方がそこまで言うなら、俺たちは手を引きましょうけど、でも機関室の連中に先に手を出されたら許しませんよ。そもそもあの小僧は甲板組の者ですからね」
「わかってるよ。それくらいのことは」
「ありがとうございます。余計な口を出してすみませんでした。兄貴たちも許してくださいよ」

原文 (会話文抽出)

「チョットお邪魔アしますが親方ア。今、船長の処へ行って来たんでがしょう。親方ア」
「ウン。行って来たよ。それがどうしたい」
「すみませんが船長があの小僧の事を何と云ってたか聞かしておくんなさい。……わっしゃ親方が船長に何とか云ったらしいんで、水夫連中の代表になって、船長の云い草を聞かしてもらいに来たんですが」
「アハハハ。それあ御苦労だが、何とも云わなかったよ」
「お前さん何にも船長に云わなかったんけエ」
「ウン。ちょっと云うには云ったがね。何も返事をしなかったんだ。船長は……」
「ヘエー。何も返事をしねえ」
「ウン。いつもああなんだからな船長は……」
「あの小僧を大事にしてくれとも何とも……親方に頼まなかったんけえ」
「馬鹿。頼まれたって引受けるもんか」
「エムプレス・チャイナへ面当てにした事でもねえんだな」
「むろんないよ。船長はあの小僧を、皆が寄って集って怖がるのが、気に入らないらしいんだ」
「よしッ。わかったッ。そんで船長の了簡がわかったッ」
「馬鹿な。何を云うんだ。船長だって何もお前達の気持を踏み付けて、あの小僧を可愛がろうってえ了簡じゃないよ。今にわかるよ」
「インニャ。何も船長を悪く云うんじゃねえんでがす。此船の船長と来た日にゃ海の上の神様なんで、万に一つも間違いがあろうたあ思わねえんでがすが、癪に障るのはあの小僧でがす。……手前の不吉な前科も知らねえでノメノメとこの船へ押しかけて来やがったのが癪に触るんで……遠慮しやがるのが当前だのに……ねえ……親方……」
「それあそうだ。自分の過去を考えたら、遠慮するのが常識的だが、しかし、そこは子供だからなあ。何も、お前達の顔を潰す気で乗った訳じゃなかろう」
「顔は潰れねえでも、船が潰れりゃ、おんなじ事でさあ」
「まあまあそう云うなよ。俺に任せとけ」
「折角だがお任かせ出来ねえね。この向う疵は承知しても他の奴等が承知出来ねえ。可哀相と思うんなら早くあの小僧を卸してやっておくんなさい。面を見ても胸糞が悪いから」
「アッハッハッ。恐ろしく担ぐじゃねえか」
「担ぐんじゃねえよ。親方。本気で云うんだ。この船がこの桟橋を離れたら、あの小僧の生命がねえ事ばっかりは間違いねえんで……だから云うんだ」
「よしよし。俺が引受けた」
「ヘエ。どう引受けるんで……」
「お前達の顔も潰れず、船も潰れなかったら文句はあるめえ。つまりあの小僧の生命を俺が預かるんだ。船長が飼っているものを、お前達が勝手にタタキ殺すってのは穏やかじゃねえからナ。犬でも猫でも……」
「ヘエ。そんなもんですかね。ヘエ。成る程。親方がそこまで云うんなら私等あ手を引きましょうが、しかし機関室の兄貴達に、先に手を出されたら承知しませんよ。モトモトあの小僧は甲板組の者ですからね」
「わかってるよ。それ位の事あ」
「ありがとうゴンス。出娑婆った口を利いて済みません。兄貴達も容赦して下せえ」

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