夢野久作 『爆弾太平記』 「……ハハア……これは訊問ですか。面白い……

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「……ははあ……これは取り調べですか。面白い……取り調べなら取り調べでいいですから、一つ正式な召喚状を出してもらえますか。その上で……いかにも私が最初から計画してやった仕事に違いない……ということにしましょうか。言いたいことを全部吐き出して、諸君の出世に貢献させていただきますか……要するに諸君の首がつながればいいんでしょう……」
「……エヘン……私はおそらく、終身刑か死刑になるでしょう。諸君のご要望どおりおしゃべりをすれば……うっかり社会主義者という汚名を着せられるかもしれませんけど、それも面白いでしょう。日本人の根性……特に朝鮮の役人の植民地根性が、ここまで腐ってるんですから、私が一人だけジタバタしたって爆弾漁業の根絶なんて……」
「……黙りなさい……裁判所に対して失礼だぞ……」
「なにが失礼だ。令状を出さない以上、官位は君たちより上じゃないか……」
「……そ……それじゃまるで喧嘩だ。まあまあ……」
「……喧嘩でもいいじゃないか。こっちから喧嘩を売った覚えはないけど、どうせ友吉おやじの鬱憤晴らしだ」
「……そ……そんなことを言ったらあなたに不利になる……」
「……不利は最初から覚悟の上だ。出るべきところに出た方が問題が大きくなるからいい……」
「……だ……だからその後のことを……」
「なにが後のことだ。私の後のことは一つしかない……漁師50万人の生死の問題だ。お互いの首が50だの60だの、どうでもいいよ。真相を発表するのは私の勝手だからね」
「そ……それでは困る。あなたの気持ちはよくわかりますから、お互いに傷つかないように、率直に話し合いをしましょう……」
「それこそが間違ってるんじゃないか。死んだ人間は今でも海に放り出したままなのに、なにが後のことだ。その弔いもせずに自分のケツを拭こうとするなんて何だ。ましてや自分の失敗を隠すために、孤立無援の私を脅しつけて、どうにか辻褄を合わせようとする態度は卑怯じゃないか」
「……………」
「そっちがそのつもりならこっちも覚悟があります。……失礼ながら朝鮮の漁民50万人を30年間指導してきた私ですから、血の雨を潜った回数も数え切れません。骨が砕けようともこの真相を発表しないわけにはいきません……」
「……いや。あなたの気持ちはよくわかります。誤解しないでください。爆弾漁業の取り締まりには今後いっそう注意するつもりですが、それとは別に、とにかく今回の事件だけの後のことを、今日、この場で……」

原文 (会話文抽出)

「……ハハア……これは訊問ですか。面白い……訊問なら訊問で結構ですから、一つ正式の召喚状を出してもらいましょうかね。その上で……如何にも吾輩が最初から計画してやった仕事に相違ない……という事にして、洗い泄い泥水を吐き出しましょうかね。要するに諸君の首が繋がりさえすれあ、ほかに文句はないでしょう……」
「……エヘン……吾輩は多分、終身懲役か死刑になるでしょう。君等のお誂え向きに饒舌ればね……ウッカリすると社会主義者の汚名を着せられるかも知れないが、ソレも面白いだろう。日本民族の腸が……特に朝鮮官吏の植民地根性が、ここまで腐り抜いている以上、吾輩がタッタ一人で、いくらジタバタしたって爆弾漁業の勦滅は……」
「……黙り給えッ……司直に対して僭越だぞ……」
「何が僭越だ。令状を執行されない以上、官等は君等の上席じゃないか……」
「……そ……それじゃ丸で喧嘩だ。まあまあ……」
「……喧嘩でもいいじゃないか。こっちから売ったおぼえはないが、ドウセ友吉おやじの鬱憤晴らしだ」
「……そ……そんな事を云ったらアンタの不利になる……」
「……不利は最初から覚悟の前だ。出る処へ出た方がメチャメチャになって宜い……」
「……だ……だからその善後策を……」
「何が善後策だ。吾輩の善後策はタッタ一つ……漁民五十万の死活問題あるのみだ。お互いの首の五十や六十、惜しい事はチットモない。真相を発表するのは吾輩の自由だからね」
「そ……それでは困る。御趣旨は重々わかっているからそこをどっちにも傷の附かんように、胸襟を開いて懇談を……」
「それが既に間違っているじゃないか。死んだ人間はまだ沖に放りっ放しになっているのに何が善後策だ。その弔慰の方法も講じないまま自分達の尻ぬぐいに取りかかるザマは何だ。況んや自分達の失態を蔽うために、孤立無援の吾輩をコケ威しにかけて、何とか辻褄を合わさせようとする醜態はどうだ」
「……………」
「ソッチがそんな了簡ならこっちにも覚悟がある。……憚りながら全鮮五十万の漁民を植え付けて来た三十年間には、何遍、血の雨を潜ったかわからない吾輩だ。骨が舎利になるともこの真相を発表せずには措かないから……」
「……イヤ。その御精神は重々、相わかっております。誤解されては困ります。爆弾漁業の取締りに就いて今後共に一層の注意を払う覚悟でおりますが、しかし、それはそれとしてとりあえず今度の事件だけに就いての善後策を、今日、この席上で……」

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