コロレンコ Vladimir Galaktionovick Korolenko 森林太郎訳『樺太脱獄記』 「シベリアの岸に着いて聞けば、サルタノフが…
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青空文庫図書カード: コロレンコ Vladimir Galaktionovick Korolenko 森林太郎訳『樺太脱獄記』
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「シベリアたどり着いて聞いたら、「サルタノフって奴がボコボコに殺されたんだ」って、もう現地の人間にも知れ渡ってたらしく。風が吹いたかのように噂広まって。こっちの仲間が、漁してた地元民に会った時に教えてもらったんだって。そしたら、その地元民首振って変な顔してた。なんか内心喜んでるように見えたな。こっちは心の中で「好きに笑っとけよ。あんたらもどうなるかわかんないんだからな。サルタノフの首の代わりにお前らのが飛ばされるかもしれんぞ」って思ったよ。そしたら、地元民がサカナなんかくれて、「こっちの道がいいよ」とか「あっちの道がいいよ」とか、逃げる道を教えてくれたんだ。それで歩きだしたんだけど、なんか灼熱の炭の上を歩いてるみたいで。音がするだけでみんなでビクッてなるし、家があったら避けて通るし、ロシア人に会わないようにするし。足痕消して必死に逃げたよ。とにかく大変だった。ほとんどの森の中で寝て、夜になってから歩くの。それでなんとかタルハノフんちがあるところまで来たんだ。朝まだ明るくなる前だったけど。タルハノフの住まいは森の中にあって、周りに頑丈な塀があるんだ。門は閉まってた。ブランが言ってたのとまったく同じだと思って、門のところに行って扉を叩いたんだ。そしたら、門の中で明かりがついて、「誰だ」って。
「俺たち、流れ者です。ブランって男から、こことかのスタヘイ・ミトリツチユさんに伝言があるって来てます」
「樺太から逃げてきた人がいたら、一人5ルーブルやるから。靴も一足、毛皮も一枚、それ以外に着物と食料も必要なだけくれてやれ。何人逃げてこようが、一人残らず全部やるんだ。金やものを渡す時は、雇ってる百姓を全員呼んで、その前で渡してくれ。そうすれば俺が戻った時に、百姓どもが証人になって、俺が安心できるんだから」
「サルタノフを始末したのはお前らだな。気をつけないと危ねえぞ」
「俺らだろうが、そうじゃなかろうが、どうでもいいでしょ。とにかく、あんた協力してくれるんですか、どうですか。ブランからスタヘイ・ミトリツチユさんによろしくって言ってましたよ」
「ブランは今どこにいるんだ。樺太にまた行ってるのか」
「いや、樺太に埋まってますよ」
「なんだって。あいつはいい奴だったんだ。今でもスタヘイ・ミトリツチユさんがたまに話題にしてるよ。きっと亡くなったって聞いたら、ミサで供養するだろうな。そもそもあいつの本名はなんだっけ、お前ら知ってっか」
「いや、知りません。俺らはただブランって呼んでました。本人ですら本名忘れてたかもしれないよ。流れ者には難しい名前はいらないからね」
「そりゃそうだ。お前らの生活は不安だな。牧師が神様に祈ろうと思っても、本名知らないんじゃ、なんて言っていいかわからんよ。ブランだって、故郷とか親族とかあっただろう。兄弟姉妹がいたかもしれないし、可愛い子供もいたかもしれない」
「いたかもしれないですね。流れ者は洗礼のときに貰った名前を捨てたりするけど、それだって他の人間と同じように母親が産んだんだから」
「お前らホントにかわいそうだ。こんなに気の毒な生活ないよ。物乞いして人の世話になって、着てるものだって人からもらったもの。死ぬときは墓なんて建ててもらえない。森で死ねば、体は動物に食われて骨だけが残る。日の下にさらされて、骨だけになるんだよ。そりゃかわいそうって言うしかないよな」
原文 (会話文抽出)
「シベリアの岸に着いて聞けば、サルタノフが残酷に殺されたといふ話が、もう土人にも知れてゐるといふ事でした。風が吹き伝へでもしたやうに、この風説は広まつたのです。同志の者は漁をしてゐる二三の土人に出逢つて、その口からこの話を聞いた時、土人等は首を振つて、変な顔附をしました。その顔附は内々喜んでゐるといふ風に見えました。わたくし共は腹の内で思ひました。沢山笑ふが好い。己達はどうなるか分からない。事に依るとサルタノフの首の代りに、この首を取られるかも知れないと思ひました。 土人はわたくし共に肴をくれて、こんな道もある、こんな道もあると逃道を教へてくれました。それを聞いてわたくし共は歩き出しました。なんだかおこつてゐる炭火の上を踏んで行くやうでした。物音がすると、一同びつくりする。人家があると、避けて通る。ロシア人に逢はないやうにする。自分の歩いて来た足跡を消して置く。実に大変な気苦労をしたものです。°間は大抵森の中で寝て、夜になつてから歩き出します。そんな風にして歩いて、とう/\、タルハノフの家のある所に、或る朝夜の明け切らない内に着きました。 タルハノフの住ひは森の中にあつて、周囲には丈夫な垣が結つてあります。門は締めてありました。ブランの話したのは、これに相違ないと思ひましたから、門の側へ寄つて扉を叩きました。 門の中では明りを点けて、それから「誰だ」
「わたくし共は流浪人で、ブランといふ男からこちらのスタヘイ・ミトリツチユさんに言伝があつて来ました。」
「樺太から逃げて来たものがあつたら、一人に五ルウベルの金と靴を一足、毛皮を一枚、その外着物と食料とを望むだけ遣つてくれ。逃げて来たものは何人であつても、これだけの事は一人残らずして遣つてくれ。金や品物を渡す時には、雇つてある百姓共を呼び集めて、その目の前で渡して貰ひたい。さうすれば己が帰つた時、百姓共が証人になつて、己に安心させてくれる事が出来るのだ」
「サルタノフを遣つ付けたのはお前さん達だね。用心しないと危ないよ。」
「そんな事をしたのが、わたくし共だらうと、さうでなからうと、それはどうでも好いでせう。兎に角あなたは、わたくし共に補助でもしてくれるのですか、どうですか。ブランがスタヘイ・ミトリツチユさんに宜しくと云ひましたよ。」
「ブランはどこにゐるのだね。又樺太に遣られてゐるのですか。」
「えゝ。樺太に葬られてゐるのです。」
「おや/\。あの男は正直な、善い男でしたよ。今でもスタヘイ・ミトリツチユさんが折々噂をしてゐます。きつと亡くなつた事を聞かれたら、ミサの供養でもして遣られる事でせう。一体あの男の本当の名はなんと云つたか、お前さん達は知つてゐますかね。」
「いや。それは知りません。わたくし共は只ブランとばかり呼んでゐました。事に依ると、自分も本当の名を忘れてゐたかも知れません。流浪人にむづかしい名はいらないのですからね。」
「それはさうだね。お前さん達の世渡は随分心細いわけだ。牧師さんが神様にお祈をして上げようと思つたつて、本当の名を知らないから、なんと云つて好いか分からない。ブランだつて、故郷もあつただらうし、親類もあつただらう。兄弟や姉妹があつたか。それとも可哀らしい子供もあつたかも知れない。」
「それはあつたかも知れません。流浪人といふものは、洗礼の時に貰つた名を棄ててしまふ事はあるが、それだつて、外の人間と同じやうに母親が生んだには違ひないのですから。」
「ほんにお前さん達は気の毒な世渡をしてゐるのですね。」
「さやうさ。わたくし共のしてゐるより、みじめな世渡はありますまい。乞食をして、人に物を貰つて食べてゐる。着物だつて同じ事だ。それから死んだところで、墓一つ立てて貰ふ事は出来ない。森の中で死ねば、体は獣に食はれてしまふ。跡には日に曝されて、骨が残るばかりです。無論みじめな世渡と云はなくてはなりますまいよ。」
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