コロレンコ Vladimir Galaktionovick Korolenko 森林太郎訳『樺太脱獄記』 「死ぬる覚悟でさへあるなら、どこへでも行か…

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青空文庫図書カード: コロレンコ Vladimir Galaktionovick Korolenko 森林太郎訳『樺太脱獄記』

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「死ぬる覚悟さえあるなら、どこへでも行けるよ。島は広くて、野や山があるばかりだ。土人も、どこでも好きなところに住めるわけではない。右の方へ行くと、岩だらけのところにはぐれて、森から出てくる飢えた獣に食われるか、さもなくば、諦めて戻ってくることになる。南の方へ行くと、島の端だから、海に出る。その方からは大きな船でなくては渡れない。だから逃げる道はただ一方しかない。北の方だな。どこまでも海岸に沿って北へ行くのだ。海さえ見て行けば間違いない。300マイルくらい行くと港がある。そこは大陸までの海の幅が狭いから、ボートで渡ることができるのだ」
「ところが、言っておくけどな、そこからも逃げるのは簡単じゃない。兵隊が警戒線を張ってるからな。最初に越さないといけないのがワルキって線だ。それから2番目がパンギって線だ。一番最後がポギバって線だ。そこは大抵逃げるやつが死ぬところだから、そんな名前がついてるんだろう。(ロシア語のポギバは滅亡の意味だ)警戒線はうまく張ってあるよ。道が突然曲がる所で、その曲がり角に番兵がいる。何てことない、ぼんやり歩いてる内に、きれいに網にかかっちゃうんだ。ひどいもんだよ」
「でもお前2度もやったことがあるんだから、今度はそこの場所が分かるでしょ」
「やったとも。だから俺の言うことを聞いて、うまくやらないといけない。今に水車場の普請に俺たちを連れて行こうとするだろう。その時仲間が全員申し出て行くんだ。食料を持てっていふから、お前たちの固パンを持っていくんだ。水車場にはペトルシャアがいる。若い仲間の一人だ。そこから旅立つんだ。3日間は、いなくなっても、誰も気づかない。この土地では3日間のうちに点呼に出れば、咎めないことになってる。病気だと言えば、医者が仕事を休ませてくれる。でも、病院はひどいんだ。それよりか働きすぎて病気になって、体が利かなくなった時は、森の中に寝てるに限る。そうすれば空気がいいから自然に治る。そのタイミングで点呼に出ていくんだ。それで4日目になって点呼に出ないと逃亡と見なされるんだ。逃亡と見なされてから、遅れて帰ってくるといきなりボツクに乗せられて鞭打たれるんだ」
「俺たちはボツクに乗る心配はない。逃げた以上は帰っては来ないんだから」
「帰って来なければ、森の中の獣に引き裂かれるか、兵隊に銃で撃ち殺されるんだ。兵隊は俺たちをどうでもいいと思ってる。捕まえて面倒を見るなんてことはしないし、100マイルも送ってくるなんてこともない。見つけたところで撃ち殺してしまえば、手間がかからなくていいんだ」
「縁起でもないことを言うな。不吉なことを知らせるカラスの鳴き声みたいだ。いよいよ明日は出発だ。俺たちに必要な物は何かを、お前ボブロフにそう言っておいてくれ。同じ船で来た仲間がまとめてくれるから」

原文 (会話文抽出)

「死ぬる覚悟でさへあるなら、どこへでも行かれるよ。島は広くて、野と山とがあるばかりだ。土人だつて、どこでも勝手な所に住まふといふ事は出来ない。右の方へ行くと、岩ばつかりある中へ迷ひ込んで、森から出て来る飢ゑた獣に食はれるか、さうでなければ、諦めて戻つて来る様になる。南の方へ行くと、島の果だから、海に出る。その方からは大船でなくては渡られない。それだから逃げる道は只一方しかない。北の方だな。どこまでも海岸に沿うて北へ行くのだ。海さへ見て行けば間違ひはない。彼此三百ヱルストも行くと港がある。そこは大陸までの海の幅が狭いから、ボオトで渡る事が出来るのだ。」
「ところが、己が言つて置くがな、そこからだつて逃げるのは容易な事ではない。兵隊が警戒線を布いてゐるからな。最初に越さなくてはならない線はワルキといふのだ。しまひから二番目がパンギといふのだ。一番しまひのがポギバといふのだ。大方逃げる奴の亡びてしまふ所だから、そんな名が付いてゐるのだらう。(ロシア語のポギバは滅亡の義。)一体警戒線は上手に布いてあるよ。道が出し抜けに曲る所で、その曲つた角に番兵がゐる。なんの事はない、ぼんやりして歩いてゐる内に、綺麗に網に掛かつてしまふのだ。桑原々々だ。」
「だつてお前二度も遣つた覚えがあるのだから、今度はそこの場所が分かりさうな者だな。」
「それは遣つたとも。だから己のいふ事を聞いてゐて、旨く遣らなくては行けない。今に水車場の普請に己達を連れ出さうとするだらう。その時同志の者が皆望んで出掛けるのだな。食物を持つて出ろといふから、お前方の堅パンを持ち出すのだ。水車場にはペトルツシヤアがゐる。若い仲間の一人だ。そこから旅に立つのだな。三日の間は、ゐなくなつたつて、誰も気は付かない。この土地では三日の中に点呼に出さへすれば、咎めない事になつてゐる。病気だと云へば、医者が為事を休ませてくれる。だが、病院は随分ひどい。それよりか働き過ぎて病気になつて、体が利かなくなつた時は、森の中に寝てゐるに限る。さうすれば空気が好いからひとりでに直る。その時点呼に出て行くのだ。そこで四日目になつて点呼に出ないと逃亡と看做されるのだ。逃亡と看做されてから、遅くなつて帰つて来ると、直ぐにボツクへ載せてはたくのだ。」
「己達はボツクに乗る気遣はない。逃げた以上は帰つては来ないのだから」
「帰つて来なければ、森の中の獣が引き裂くか、兵隊が鉄砲で打ち殺すのだ。兵隊は己達をなんとも思つてはゐない。捉まへて面倒を見て、百ヱルストも送つて来るやうな事はしない。見付けたところで打ち殺してしまへば、手数が掛からなくて好いのだ。」
「縁起の悪い事をいふな。不吉な事を知らせる烏の啼声を聞くやうだ。いよ/\あした出掛けるぞ。己達の入用な物は何々だと、お前ボブロフにさう言つてくれ。同じ船で来た仲間が取り纏めてくれるから。」

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