宮本百合子 『風知草』 「さっき電車の中でしかけた話ね、覚えていら…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『風知草』

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「さっき電車の中で切り出した話ね、覚えてらっしゃる?」
「後家のがんばり、かい?」
「私には、ね。どうしてああ急におっしゃったのか、きっかけがわからないのよ。さっきから考えてるんだけど。……でも、きっとそういうところができてきてるんでしょうね」
「自分でどこをどう頑張ってるのかわからないところが、つまりくせものね」
「心配しなくていいんだ。ただ、これまでひろ子は、いわば一人ぼっちで頑張ってきたんだから、どうしても、そういうところもできたんだよ。またそれだからこそ、もったいないというようなところもあるし。――しかし、もう条件が変わったんだからね……そうだろう?」
「ほんとねえ」
「なんて言っていいかわからないわ。一層、一層、あなたの奥さんであろうとして、そのために、そんな頑張りが身につくなんて、……」
「ああいう時代だったんだから無理もないよ。どっちを見ても崩れていて生活の基準がなくなった中で、いわばそれを自分から押しやることで、どうやら自分をまっすぐに保ってきたというところもあるんだから」
「この坂は、どの坂だろう」
「――どの坂って?」
「もとの家に行くのに、いつも通った坂があったでしょう? あれはどの坂かい?」
「ああ、あれは、この坂よ」
「これっぽっちの狭い坂だった、あれかい? ごちゃごちゃ店なんか並んだ……」
「そうなのよ。すっかり変わっちゃったでしょ。あの頃はまだずっと急だったしね」
「そうか!」
「それでやっとわかった」
「帰って来た日、むこうの角から入ってこの坂まで来たんだよ、多分この見当だと思うのに、坂の様子がまるっきり違うもんだからそれでまたすっかり迷っちゃったんだ」 southbound

原文 (会話文抽出)

「さっき電車の中でしかけた話ね、覚えていらっしゃる?」
「後家のがんばり、かい?」
「わたしには、ね。どうしてああ急におっしゃったのか、きっかけが見つからないのよ。さっきから考えているけれど。……でも、きっとそういうところが出来ているんでしょうね」
「自分でどこをどうがんばっているのかわからないところが、つまりくせものね」
「心配しなくてもいいんだ。ただ、これまでひろ子は、云わば一人ぼっちでがんばって来たんだから、どうしても、そういうところも出来たのさ。又それだからこそ、もったというようなところもあるんだし。――しかし、もう条件が変ったんだからね……そうだろう?」
「ほんとねえ」
「なんて云っていいか分らないようだわ。一層、一層、あなたの細君であろうとして、そのために、そんながんばりが身につくなんて、……」
「ああいう時代だったんだから無理もないさ。どっちを見ても崩れていて生活の基準がなくなった中で、謂ばそれを自分から押しやることで、どうやら自分を真直にもって来たというところもあるんだから」
「この坂は、どの坂だろう」
「――どの坂って?」
「もとの家へゆくのに、いつも通った坂があったろう? あれはどの坂かい?」
「ああ、あれは、この坂よ」
「これっぽっちの狭い坂だった、あれかい? ごちゃごちゃ店なんか並んだ……」
「そうなのよ。すっかり変っちゃったでしょう。あの頃はまだずっと急だったしね」
「そうか!」
「それでやっとわかった」
「帰って来た日、むこうの角から入ってこの坂まで来たんだよ、多分この見当だと思うのに、坂の様子がまるっきりちがうもんだからそれで又すっかり迷っちゃったんだ」

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