宮本百合子 『道標』 「あなたのお話を伺えてうれしいわ」…

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青空文庫図書カード: 宮本百合子 『道標』

現代語化

「お話を聞けて嬉しいです」
「それで――?」
「いや、別に、それでどうこうってわけじゃないんですけどね」
「――革命で社会主義が完成したとか思ったら大間違いですよ。ロシアだって、やっと社会主義への可能性、その条件が手に入っただけなんです。それに、その条件ってのは、飼い犬みたいに、一度手に入ったらおとなしく飼い主の手の上にじっとしてるような奴じゃないですからね」
「これだけのことを、日本語で話してくれるなんて、すごいことですよ」
「俺はこっちに来て、色々感じてるんです。強く感じてることも――」

原文 (会話文抽出)

「あなたのお話を伺えてうれしいわ」
「それで――?」
「いや、別に、それで、どういうような卓見があるわけじゃありませんがね」
「――革命で社会主義そのものが完成されたなんかと思ったらとんでもないことさ――ロシアでだって、やっと社会主義への可能、その条件が獲得されたというだけなんです。しかも、その条件たるや、どうして、お手飼いの狆ころみたいに、一旦獲得されたからって、その階級の手の上にじっと抱かれているような殊勝な奴じゃありませんからね」
「これだけのことを、日本語できかして下すったのは、ほんとに大したことだわ」
「わたしはここへ来て、随分いろいろ感じているんです。つよく感じてもいるの――」

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